聞いたこともないグループの声明を産経新聞が高らかに報じていますが、調べてみると予想通りとんでもない集団でした。詳細は以下から。
◆謎の「日本国史学会」なる集団の声明を産経新聞が報道
芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」実行委員会が、未払いとなっている芸術祭の負担金の一部を名古屋市に支払うよう求めて提訴した問題に関し、日本国史学会なる集団が6月9日、提訴を取り下げるよう求める声明を発表したことを産経新聞が伝えています。
声明では、実行委が展示内容を名古屋市長に知らせなかったことを「名古屋市民の信頼を裏切る背信性の高いもの」とした上で、負担金の交付を取り消す条件に該当しており、実行委の請求を「法的根拠は認められない」と主張。
また、昭和天皇の写真を焼いているかのように見える作品を「多数の国民の心情を傷付ける表現が意図的に用いられており、こうした表現を公金支出によって奨励した実行委の行為は、これにより心情を傷付けられた多数の国民に対する責任をも免れない」などとしています。
◆そもそも「昭和天皇の写真を焼いている」のは誰かという問題
これは大浦信行さんの映像作品「遠近を抱えて PartII」という作品を指していますが、ここに天皇制への批判がまったくないことを大浦さん本人も明言しています。毎日新聞のインタビューでは
天皇が燃えているシーンは新作映画の方に入っています。これは昭和天皇の肖像といいますか、私が1986年に富山県立近代美術館の展覧会に自画像として出した、天皇のコラージュを含む版画「遠近を抱えて」の一部が燃えているものです。
と答えています。これは、富山県立近代美術館事件として知られる表現の自由を巡る極めて重要な事件に関するもので、artscapeでは以下のように説明されています。
富山県立近代美術館の企画展「とやまの美術」(1986)に招待された美術家の大浦信行が、1982年から85年にかけて昭和天皇の図像を部分的に引用して制作した版画連作《遠近を抱えて》全14点が、同展終了後に県議会の教育警務常務委員会で議員によって「不快」と糾弾されたことをきっかけに、右翼団体による抗議活動を招き、これらを受けた同館が同作の非公開と売却を決定し、なおかつ同展の図録を焼却した事件。
(富山県立近代美術館事件 _ 現代美術用語辞典ver.2.0より引用)
つまり、大浦さんの作品が右翼議員や右翼団体によって「不快」と抗議されて美術館が同作の展示を取りやめて売却。そしてここが重要ですが、美術館は「当の昭和天皇の肖像画が含まれる図録」を焼却処分にしたのです。
つまり「遠近を抱えて PartII」は表現の不自由展という場の中で「いったい最初に昭和天皇の写真を焼いたのは、そして焼かせたのは誰か」を問うていることになり、この日本国史学会の言い分は最初の段階から大きな勘違いということになります。
大浦さんの考えと上記事件についてはVICEの動画でのインタビューが秀逸なため、こちらも併せてご覧いただくとより理解が深まります。
◆「日本国史学会」とはどんな集団なのか
さて、その日本国史学会とはいったいどういった集まりなのでしょうか。学会と名付けられているため、まともな学術団体と勘違いする人もいそうですが、この集まりは日本歴史学会にも属していない、いわば野良集団でしかありません。
この集団は「終戦直後、日本の歴史学界には、占領下の中で、民主主義の名のもとに、マルクス主義経済史観が非常な勢いで入りこんできました」としたうえで「唯物論的な経済史観、階級闘争史観とは異なった日本史観による、あらたな日本の国史を形成し、議論する場としての学会をつくらなければならない」という理念に基づいて作られたもの。
基本方針の最初には「わが国の祖先たちより継承してきた歴史、すなわち国史を、その伝統と文化を重んじる観点から、あらためて何であったかを研究し、学問する者の学会とする」とあります。どこかで聞いたような論調です。
加えて延期となったシンポジウムに関し、新型コロナウイルスを「武漢肺炎」と呼んでいます。もう嫌な予感しかしません。
そして代表理事を務める発起人の田中英道東北大名誉教授は歴史修正主義団体「新しい歴史教科書をつくる会」の会長を務めたこともある人物。自称保守界隈で名高いネット放送局「チャンネル桜」にも繰り返し出演しています。
また発起人として並ぶうちの小堀桂一郎東京大学名誉教授はチャンネル桜で「桜塾講座―再検証 東京裁判」なる番組の講師を務めた人物で、中西輝政京都大学名誉教授も「正論」「諸君!」といった保守系雑誌で常連の論客として有名。この時点でほぼ完全に答え合わせが終了です。
◆なんと発起人にタレントの竹田恒泰さんも
そして発起人の最後には皇学館大学講師として、あいちトリエンナーレを理由とした大村愛知県知事のリコールの応援に駆け付けた、「明治天皇の玄孫(やしゃご)」の血筋を売り物にするタレントの竹田恒泰さんが名前を連ねています。
「歴史学者は極左集団」と決めつけ「歴史学者が歩いてたら後ろから蹴り入れといていいぐらい」と言い放つ竹田さんは過去に「保守系の論文を書ける学会誌が存在しない」とも発言。
各種資料をもとに検証や考察を重ねて過去を紐解く歴史学に右翼も左翼もないはずですが、あくまで政治を歴史学に持ち込みたい欲求が隠せない模様。この集団の発起人となったのもそうした経緯があるのかもしれません。
なお、今上天皇が学習院大学やオックスフォード大学にて史学を専攻した正真正銘の歴史学者であることを、旧皇族の血筋をアピールする竹田さんがこのことを知らないはずもありません。
「昭和天皇の写真を焼いている」とあいちトリエンナーレを攻撃して大村知事のリコールを応援し、発起人である集団としても「多数の国民の心情を傷付ける」と声明を出していながら、今上天皇に「取りあえず後ろから蹴り入れといていい」と言い放つ矛盾、竹田さんは気付けているのでしょうか。
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