「虐待通報ダイヤル無料化」への実態から見るセーフティーネットの機能不全



それは必要とする人に届くものなのか、もう一度考える必要があります。詳細は以下から。


◆虐待通報ダイヤルを無料化
厚生労働省が子どもの虐待の通報や相談を24時間受け付ける全国共通ダイヤル189(いちはやく)の通話料を無料にする方針を固めました。

これは現在相談窓口に繋がるまでに電話が切られてしまうケースが多発している事を受けたもので、24時間相談に対応するスタッフの増員も含め、2019年度以降の実現を目指します。


ここで気になるのがダイヤルが途中で切られてしまう理由。厚労省が2018年5月の入電状況を調べたところ、携帯電話からかかってきた7673件のうち、4166件が児童相談所に取り次ぐオペレーターにつながる前に切れていたことが判明。

その中でも通話料金が発生することを伝える冒頭の音声案内で切れたものが3454件に上っていました。厚労省は、通話料が発生するために切ってしまう人がいる可能性があるとみており、無料化で通報ダイヤルの利便性を向上させたい考えです。

ダイヤルするのが子どもを含む若年層の場合は通話料という時点で尻込みすることも考えられますし、相談が長引くことで通話料が高額化することを懸念するケースもあり得ます。

実際に子どもの命や健康に関わる問題の可能性があるわけですから、ようやくとはいえ無料化は歓迎すべき方針です。

なお、実際に「189」に通報した際に何が起るのかなどについては法政大学教授の湯浅誠氏が児童虐待 はじめての189通報とその後に起こることという記事の中で詳しく触れられているので、ぜひご一読を。

◆セーフティーネットは機能しているか?
全国共通ダイヤルは2009年に開設され、2015年7月から「189」が導入されて24時間体制となりました。今回10年目にして無料化という大きな決断が下されることになりましたが、同様にセーフティーネットとして機能すべき相談窓口やダイヤルが機能しているかには疑問符が付きます。

例えば東京都自殺相談ダイヤルであるこころといのちのほっとラインは相談料は無料ながら通話料が掛かります。しかもナビダイヤルで携帯電話の無料通話やかけ放題プラン等の対象外となっており、携帯料金に悩む若年層にはハードルの高いものとなっています。


また、大阪労働局の総合労働相談コーナーは別の意味でハードルが極めて高いものとなっています。それは平日の9時00分から17時00分というフルタイムで働いている人の勤務時間にしか相談を受け付けていないということ。


「労働問題に関するあらゆる分野(解雇、労働条件、配置転換、いじめ・嫌がらせ等)の相談」を受け付けているとされていますが、この時間帯では「解雇」された人以外は有給を取るなりして休みを取らなければならず、そもそも労働問題のある職場の人が使うのは簡単ではありません。

総合労働相談ダイヤルもありますが、こちらもほぼ平日の9時00分から17時00分の受付となっており、勤務の終わった夜間や土日に駆け込むことができない状態です。

このように、通報や相談をする人の事情にマッチしていない相談窓口やダイヤルは依然として存在しており、セーフティーネットとして十分に機能しているかには疑問符が付きます。

今回の「虐待通報ダイヤル」のようなチェックを行い、必要であれば速やかにアップデートすることが人の命や健康に関わる重大な問題を未然に防ぐことに繋がるのではないでしょうか。

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