東京オリンピック開催すら揺るがしかねない大事件へと発展する可能性もある「東京五輪贈賄疑惑」。いったいどのような人物や組織がどんな役割を果たしたとされているのか、経緯と関係、そして渦中の人であるJOC竹田会長の発言の変遷などをまとめました。
◆Gardian紙によるスクープ
この疑惑が暴かれる発端となったのは2年半前、2016年5月の英Gardian紙によるスクープでした。
Gardian紙は2016年5月11日、東京オリンピックの招致活動において、200万ユーロ(約2億5000万円)にも及ぶ多額の資金が日本の招致委員会から国際オリンピック委員会(IOC)関係者に渡ったと報じました。
フランス検察当局は、2013年の7月と10月にIOC委員で国際陸連(IAAF)前会長のラミン・ディアク氏の息子パパ・マサタ・ディアク氏に深い関係のあるシンガポールのブラックタイディングス社の秘密口座に送金されていたことを確認したとしています。
この秘密口座を所有してた同社代表のイアン・タン・トンハン氏はパパ・マサタ・ディアク氏の親密な友人であり、広告大手の電通の「子会社」AMSのコンサルタントとして雇われた人物。
そしてパパ・マサタ・ディアク氏はIAAFのマーケティング・コンサルタントを勤めており、電通は2029年までIAAFのマーケティング権を取得しているという、まさにズブズブな関係にある事が分かります。
(Tokyo Olympics ?1.3m payment to secret account raises questions over 2020 Games Sport The Guardianより引用)
◆竹田会長「正式な業務契約の対価だった」
東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の理事長でもあった日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長は、元事務局長の樋口修資氏と連名で見解を発表。「正式な業務契約に基づく対価として支払った」として現金を支払ったことを認めました。
その中で、報道されている支払いは「招致計画づくり、プレゼン指導、国際渉外のアドバイスや実際のロビー活動、情報分析など多岐にわたる招致活動の業務委託、コンサル料などの数ある中の1つであり、正式な業務契約に基づく対価として支払った」と説明。
さらに契約したブラックタイディングス社について「契約した会社は実績があり、それに期待して契約しており、何ら疑惑を持たれる契約ではない」と主張、「招致実現は、フェアな招致活動を行った結果であり、招致計画が正当に評価されたものであると今でも確信している」としています。
◆ブラックタイディングス社はペーパーカンパニーだった
しかし、竹田会長の発言とは裏腹に、ブラックタイディングス社は完全なペーパーカンパニーでした。産経新聞とNHKの報道によると、ブラックタイディングス社の所在地はシンガポール東部の公営住宅の1室です。
NHKの取材班がこの場所を訪ねたところ、男性の家族とみられる女性が応対し、男性が住んでいることを認めました。そのうえで、「自宅にはめったに帰ってこない」とだけ話して、それ以上の取材には答えませんでした。また、近所に住む女性は「家族は知っているが男性に会ったことはない。この公営住宅で会社を経営している人がいるなんて聞いたことがない」と驚いた様子で話していました。
(五輪招致巡る問題 明らかになった発端は NHKニュースより引用)
(【東京五輪】招致にからみ仏検察捜査 日本の銀行口座から「招致」名目で疑惑口座に送金 - 産経ニュースより引用)
どこからどう見ても完全なペーパーカンパニーであることが分かります。竹田会長の「契約した会社は実績があり、それに期待して契約しており、何ら疑惑を持たれる契約ではない」という発言と合せてこの画像を見ると、非常に味わい深いものがあります。
また、この時点でJOC側では契約書の所在を確認できていない事も報じられていました。
Q.契約書そのものは存在しないんですか?
「契約書は保存されていると思います」(JOC側)
Q.どこに?
「JOCにはございません」
「正確な場所は我々も聞いていません」(JOC側)
「東京五輪招致「コンサルタント料」、契約書など確認できず」 News i - TBSの動画ニュースサイトより引用
竹田会長はいったい何を根拠に「招致計画づくり、プレゼン指導、国際渉外のアドバイスや実際のロビー活動、情報分析など多岐にわたる招致活動の業務委託、コンサル料などの数ある中の1つであり、正式な業務契約に基づく対価として支払った」と発言したのでしょうか?
なお、この時点で既にフランス検察当局と協力してシンガポール汚職捜査局も捜査を開始しています。
◆竹田会長の参考人招致
このGardian紙の報道を受け、5月16日には竹田会長の参考人招致が行われました。その中で民進党(当時)の玉木雄一郎議員からの質問に答え、ブラックタイディングス社に支払った2.5億円の最終的な使途について、同社代表のイアン・タン・トンハン氏に「確認していない」ことを明らかにしています。確認していないのになぜ「何ら疑惑を持たれる契約ではない」と断言できるのか、非常に不思議なところです。
またブラックタイディングス社との繋がりと国際陸連(IAAF)前会長でIOC委員のディアク氏との繋がりについては「本人からの売り込みがあり、株式会社『電通』に確認したところ、十分業務ができると聞いて事務局で判断した。世界陸連の会長の親族が関係しているということは全く認識しておらず、知るよしもなかった」と回答。
ここでは半ば電通に責任を押し付ける形になっていますが、ブラックタイディングス社代表のイアン・タン・トンハン氏はその電通の「子会社」AMSのコンサルタントとして雇われた人物であることは先に述べたとおり。同時に電通は2029年までIAAFのマーケティング権も取得しており、極めて密接な繋がりを持っています。
また「IOCの委員やその親族が、経営者ではなくあくまで知人の範囲であれば問題はないということも認識している。この会社は決してペーパーカンパニーではない。会社には業務対価として2回にわたって支払ったが、招致委員会の正式な手続きに基づき契約を交わし行ったものだ」としていますが、ブラックタイディングス社がペーパーカンパニーである事はこちらも先に述べたとおり。
そして驚くべきことに竹田会長は質疑の中で「会社側とは現在連絡が取れていないと聞いている」とも答えています。JOCはある意味雲隠れされている側であるにも関わらず、ブラックタイディングス社を「ペーパーカンパニーではない」「実績がある」などと無理矢理擁護した理由は非常に気になるところです。
◆馳浩文科相「多数派工作で、買収ではない」発言
この参考人招致の翌日、5月17日には馳浩文部科学相(当時)が閣議後の記者会見でこの問題に言及。ブラックタイディングス社への支払いについて「ロビー活動を展開するため、より核心に触れる情報が必要だった。多数派工作(のため)で、買収ではない」と発言しました。
これも極めて不思議な発言で、支払いをしたJOCの竹田会長が最終的な使途についてイアン・タン・トンハン氏に「確認していない」ことを明らかにしているにも関わらず、文科相が「多数派工作で、買収ではない」と断言してしまっているのです。どのようにして違法性のある買収ではないと知る事ができたのでしょうか?
なお馳浩文科相は2013年当時、IOC委員らが「(東京電力福島第1原発事故の)汚染水の問題に懸念を持っていて、日本政府がどうしようとしているのか、回答を求めていたという情報があった」と指摘、「どうしたら汚染水の問題に答えることができるのか、東京が2020年にふさわしいと思ってもらえるのか、核心的な情報を得るに当たってコンサルが果たした役割は極めて大きい」と語りました。
その後、ご存じの通り東京オリンピック招致を目指すIOC総会での最終プレゼンテーションで安倍首相は「福島第一原発の汚染水はアンダーコントロール」というデマをブチ上げています。これがブラックタイディングス社のコンサルの結果だとすれば、それはつまりフェイクニュース吹聴の指南ということになってしまいますが…?
◆買収があったとブラジル司法当局が結論
この疑惑は不思議な事に日本国内では馳浩文科相の発言の後、鎮火してゆきます。ですが海外では操作は続いており、翌年の2017年9月に事態は大きく進展します。
ブラジルの司法当局は2016年のリオデジャネイロオリンピックと2020年の東京オリンピックの招致に関し、両五輪の招致委員会から当時国際オリンピック委員会(IOC)委員で国際陸連会長だったラミン・ディアク氏を父に持つパパ・マサタ・ディアク氏に対して多額の金銭が渡った可能性があると結論づけました。
そして翌月の10月5日、ブラジル連邦警察局は贈賄容疑でブラジル・オリンピック委員会のヌズマン会長を逮捕。リオへの招致が決まった2009年のIOCの総会の直前に、パパ・マサタ・ディアク氏の会社と息子名義の2つの口座に、ブラジル人の有力な実業家の関連会社から合わせて200万ドル(約2.2億円)が振り込まれていたと発表しています。
ヌズマン会長はIOC委員らに対し、開催国を決める投票の見返りに、ブラジルの実業家などから集めた資金を渡すスキームに関与していたとされていました。
問題は、この際にリオオリンピック招致時と同じような贈賄が東京オリンピックに関しても行われていたとブラジル側が結論づけている事です。
◆JOC竹田会長の刑事訴訟へ
2018年8月、フランス捜査当局は竹田会長の事情徴収の日程を取り決め、12月に事情徴収を実施しました。そして2019年1月11日に仏ルモンド紙の報道によって、竹田会長に対する刑事訴訟の手続きが同国で取られていることが報じられました。
竹田会長を起訴するかどうかを判断するための手続きである「予審手続き」を始めたのは2018年12月10日。フランスで予審判事が竹田会長の事情徴収を行った当日です。
なお竹田会長の息子でタレントの竹田恒泰氏らによって、本件を「ゴーン逮捕の報復」とする発言がされていました。しかしカルロス・ゴーン氏の逮捕は2018年11月19日で、事情聴衆の日程が決まった後の事なので時系列から考えるとこれは間違い。むしろこの論法ではゴーン氏の逮捕が「竹田会長への刑事訴訟への牽制」という話にもなってしまいます(編集部注:もちろんそんな話はフランスでは出ていません)。
この問題についてIOCは11日、既に倫理委員会で調査を開始していることを明らかにしています。IOCは「この捜査に関してIOCは『当事者』であり、フランスの司法当局と緊密に連絡を取っている。倫理委員会の調査の状況を注視する」としています。
竹田会長は1月15日に30分の記者会見を行いましたが、実際には7分間に渡って自らの身の潔白を記者団に向かって訴えましたが、質疑応答には一切答える事なく会見を打ちきりにして退室してしまいました。
これには「不誠実だ」「逃亡した」「記者会見を行ったという証拠づくりをしただけ」という批判が吹き荒れるなど、疑惑の払拭は失敗に終わりました。
これに加え、竹田会長は1月19日にスイスで開催される、自らが2014年から委員長を努めるIOCマーケティング委員会を「個人的な理由」で欠席する事が報じられています。
竹田会長の一方的な記者会見とIOC会議の欠席が、フランス検察当局やIOC、各国メディアにある種の強い心証をもたらす事は間違いなさそうです。
◆ブラックタイディングス社元代表の逮捕
そして、このタイミングでシンガポールの裁判所がブラックタイディングス社の元代表、イアン・タン・トンハン氏に対し、虚偽の報告をしていた罪で禁錮1週間の有罪判決を言い渡しました。
その罪状は2014年に得た55万シンガポールドル(約4400万円)について、実際はコンサルティング業務をしていないのに「コンサルタント料金だった」と汚職捜査当局に虚偽の報告をしたというもの。
これはJOCが「正式な業務契約に基づく対価として」2.5億円を支払った翌年の話で、電通が太鼓判を押した同社がペーパーカンパニーであった証拠が上積みされた形となっています。
ここで思い出して欲しいのが、2013年の段階でシンガポール汚職捜査局はフランス検察当局と協力して捜査を始めていたということ。そして注目すべきは刑期が禁錮1週間という不自然なほどに短い事と、今このタイミングでの判決だということ。
これらの事情から、ネット上などでは何らかの司法取引が行われた結果なのではないかという憶測も出され始めています。仮に司法取引が行われたとすれば、その取引内容が何であるかは改めて指摘するまでもないでしょう。
◆安倍首相にも飛び火?
ここで名前が上がってきたのがIOC総会で「福島第一原発の汚染水はアンダーコントロール」発言をしてオリンピック招致に尽力し、リオ五輪では閉会式に自ら「安倍マリオ」として登場するなど、大きな役割を担い続けてきた安倍首相その人です。
2014年1月8日に安倍首相は竹田会長同席の下に当時国際陸連会長だったラミン・ディアク氏の表敬訪問を受けています。
訪問後にラミン・ディアク氏は報道陣に「2020年東京五輪を頑張っていただきたいという話をした。日本で陸上を育ててもらっていることにもお礼を申し上げた」と述べています。また、日刊ゲンダイによると2人は2015年6月6日にも会っているとのこと。
一国の首相がオリンピック誘致への贈賄疑惑に絡んでいるとなれば一大スクープですが、日経新聞は東京オリンピック開催決定直後に「首相の五輪招致外交実る 各国首脳に「見返り」提示」という記事を掲載しています。それによると
安倍晋三首相は昨年末の就任直後から多数派工作を自ら主導。各国首脳らから支持を取り付ける見返りに別の課題で恩返しする「取引カード」を切った。
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脈はあるが決めかねているとみた首脳には、首相は東京五輪支持と引き換えに経済協力など相手に得になる取引の条件を示し始めた。「ちょっといいですか」。正式な会談後に呼びかけ、部屋の隅で2人だけでひそひそ話をする場面が増えた。
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空港から直行したヒルトン・ブエノスアイレス・ホテルのスイートルームで、開催都市選挙の投票権を持つIOC委員と相次ぎ個別に接触した。その場で「委員が関係する競技の発展のため日本が取り組む対策など」を説明したと政府関係者は明かす。
(「首相の五輪招致外交実る 各国首脳に「見返り」提示 (写真=共同) _日本経済新聞」より引用)
とのこと。当然ながら「別の課題で恩返し」という話は税金の投入を意味しているわけです。また、馳浩文科相も使った「多数派工作」という文言がここでも出てくることに注目です。
もちろんこれらの「多数派工作」がIOCとして、そしてフランス検察当局として認められるものなのかについて判断を下す事はできません。ですが、首相が先導して国民の税金の投入をオリンピック招致への「見返り」として提示していたことになりますし、その延長線がどこまで延びていたのかという話にもなってきてしまいます。
いったいこの問題はどこまで膨れあがるのでしょうか?そして東京オリンピックは無事に開催されるのでしょうか?最後にBUZZAP!で開催について行ったアンケート結果を掲載しておきます。
【アンケート】実際のところ、オリンピックを日本で開催して欲しい?
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