柴山文科相が以前話題になった「菅官房長官語」に勝るとも劣らない最強クラスの無敵論法を繰り出してしまいました。詳細は以下から。
◆柴山文科相の「サイレントマジョリティは賛成」はなぜ無敵論法なのか
柴山昌彦文部科学相は大学入試共通テスト問題にからむツイッター上でのやりとりに関し、公式ツイッターで「サイレントマジョリティは賛成です」と発言しました。
(魚拓)
「サイレントマジョリティ」とは積極的な発言行為をしない多数派を指す言葉。対義語は「ノイジーマイノリティ」で、声高に発言する少数派となります。
柴山文科相の「サイレントマジョリティは賛成です」発言は、批判者を声だけは大きいものの少数派に過ぎないと断定した上で、何も言わない人はみな賛成派だと断言していることになります。
なお当然ながらサイレントマジョリティは物言わぬため、彼らの実際の賛否の比率を知る事は容易ではなく、それ故にこの言葉は言った者勝ちの「無敵論法」となってしまいます。
これは明確な根拠となるデータを提示できなければ都合よく「盛っている」と判断されてもやむを得ないものの、同様に反論の根拠となる有効なデータも存在しないためです。
このサイレントマジョリティ論法は柴山文科相の発明品ではなく、例えば1969年にアメリカのニクソン大統領がベトナム戦争で即時全面撤退を求める反戦運動に対し、「そういった運動や声高な発言をしないアメリカ国民の大多数は、ベトナムからの即時全面撤退を求めていない」と述べています。
また日本でも1960年の「安保闘争」の際、安倍首相の祖父の岸信介首相が安保反対デモに関して「声なき国民の声に我々が謙虚に耳を傾けて、日本の民主政治の将来を考えて処置すべきことが私は首相に課せられているいちばん大きな責任だと思ってます。今は『声ある声』だけです」と述べています。
実際にモンスタークレーマーによる難癖と言うしかない理不尽な批判や要求が存在することは、クレーム対応に少しでも関わったことのある人ならば身に染みて分かっているとおり。
ですがこの論法は上記のように「批判者は声高な少数派に過ぎず、物言わぬ多数派は賛成だ」と主張し、批判を口封じする際に便利に使われてきた経緯があります。
◆大学入学共通テスト問題とは?
教育行政の責任者である柴山文科相がこの論法を使う事は、批判が適切なものであれば問題の現場の当事者の悲鳴に蓋をする結果になってしまいます。
それではいったい何について批判が行われているのかというと、2020年度から採用される「大学入学共通テスト」に関する問題です。
既にこの大学入学共通テストに対しては、当事者となる中高生らやその保護者、中高大それぞれの教育関係者や塾・予備校関係者らから大きな疑念や批判が噴き出していました。
・第1の問題「記述式問題」
問題とされている点は大きく2つ。ひとつ目は一部の入試科目で記述式問題が課せられること。2020年度にまず国語と数学で導入され、2024年度以降は地理歴史・公民や理科分野にも広げる予定となっています。
ここで問題となるのが採点です。マークシート方式のセンター試験と違い、こうした記述式問題は人力で採点する必要があます。
そしてもちろんこれは入試のため、約50万人とされる受験生の答案を約20日間で採点する必要があり、これに1万人程度の採点者が必要となります。そしてプロの採点者や大学教授、大学院生らではこの数を確保できないため、大学生バイトにも採点を行わせるとされています。
記述式問題では当然ながら採点基準が設けられ、完全な正解でなくとも部分点が与えられます。誤字脱字や論理の飛躍などを含め、どの要素がどれほど減点対象となるのか、全ての受験生に対して公平に基準を適用できるのかが問題となります。
果たして素人の大学生バイト込みの1万人が受験シーズンという極めて多忙な時期に、20日間でこの採点を無事に終えられるのか、関係者らからは極めて大きな懸念が出ています。
・第2の問題「英語試験のアウトソーシング化」
2つ目の問題は英語です。文科省は英検やTOEFL、ケンブリッジ英検といった民間の資格・検定試験を活用する政策を打ち出し、2020~23年度は「共通テスト」と民間試験の両方が用意され、各大学でいずれかまたは双方を利用できることになりました。
ですがこうした民間試験はそもそもの成り立ちも傾向も難易度も評価方法も大きく違います。これらの試験の成績を一律評価することが極めて困難というのが最初の問題。成績は「CEFR」というヨーロッパ言語参照枠基準の6段階に当てはめて換算される仕組みとのことですが、この換算法自体にも科学的裏付けが内として批判が起こっています。
加えて民間試験の受験料は1回5800円〜2万5380円となっており、決して安いものではありません。試験は2回まで受験できるものの、家庭の経済状況によって機会の格差が生じることは間違いありません。
またこれら民間試験の会場は都市部に偏っており、島嶼部を中心に遠隔地に住む生徒らにとっては時間、交通費、宿泊費などが重くのしかかってしまい、これも当然格差に繋がります。
さらに民間試験では替え玉受験対策や試験問題の漏洩の防止、採点の正確性などが厳格に担保されるのかについても疑問の声が上がっています。
こうした状況から、東京大学は2018年9月の段階で受験生に民間試験の成績提出を義務づけないという方針を明らかにしており、2019年7月には民間試験大手のTOEICが「責任を持って対応を進めることが困難と判断した」として不参加を決定しています。
・全国高等学校長協会は異例の要望書を提出
こうした状況に全国の国公私立の高校など約5000校の校長で構成される全国高等学校長協会は7月25日、「まったく先が見通せないほどの混乱状況」に至ったとして6項目からなる不安解消を求める要望書を文科省に提出しています。
柴山文科相はこの要望書に「真摯に受け止め、必要な情報を整理し丁寧に提供することなどで、受験生が安心して勉強に取り組めるようにしたい」とした上で「高校の先生が適切に指導できるよう、様々な機会をとらえて周知していきたい」「試験会場に不足が生じないよう、各実施主体と調整を図って会場確保に取り組んでいきたい」と回答しています。
つまり柴山文科相の「サイレントマジョリティは賛成です」というツイートは、この異例の要望書を受け、上記回答を行った上での発言ということになります。
また教育新聞が行った「【読者投票】大学入学共通テストへの移行 不安?」という読者投票でも「不安を感じている」と答えた人が92%に上っており、賛成が実は多数だったという意見の根拠は見えてきません。
さらに本件については朝日新聞に加えて読売新聞も社説で批判し、フジ・メディア・ホールディングス傘下のニッポン放送でも批判されるなど、政治的立ち位置を問わず問題視されています。
さていったいこの日本のどこに大混乱の大学入学共通テスト問題に不安を覚えず、静かに賛成しているマジョリティが存在しているというのでしょうか。日本の若者の未来に直結する問題だけに、柴山文科相は明確に回答する必要があります。
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