日本に住むマイノリティの子ども達を応援するナイキジャパンのCMに一部のネットユーザーらが反発し、炎上状態となっている問題が海外メディアでも報じられています。
海外ではこのCMとそれに対する反発はどのような捉えられ方をしているのでしょうか。詳細は以下から。
まずこちらが問題のナイキジャパンが投稿した「動かしつづける。自分を。未来を。 The Future Isn’t Waiting. | Nike」というCM動画。公開から6日目で再生数は1000万回に迫っています。
動画には以下のキャプションが記されています。
アスリートのリアルな実体験に基づいたストーリー。
3人のサッカー少女が、スポーツを通して、日々の苦悩や葛藤を乗り越え、自分たちの未来を動かしつづける。You Can't Stop Us. #YouCantStopUs
内容としては日本社会ではマイノリティである、在日外国人であったり海外にルーツをもつ3人の少女がいじめや差別を受けながらも、スポーツを通じて乗り越えてゆこうとする反差別と多様性の尊重を強く打ち出したストーリー。
素直に見れば子どもたちの背中を押してエンパワーメントする内容なのですが、一部の日本人ネットユーザーらがこれに強く反発。プラス評価が6.7万に対し、マイナス評価が4.6万となっています。
反発の内容としてはその多くが「日本人を悪者にしている」「日本に差別があるかのように描いている」といったもの。
差別に反対して多様性を尊重し、逆境にある子供たちを応援することがどうして日本を貶めることになるのかは理解しにくいところですが、この騒動はナイキが世界的企業であることから多くの海外一流メディアでも取り上げられる事態となっています。
では海外の一流メディアはいったいどのようにこのCMとそれに対する反応を報じたのでしょうか。見ていきましょう。
◆BBC
BBCは「Nike's diversity advert causing a backlash in Japan(ナイキの多様性のCMが日本で激しい反動を受けている)」というタイトルの記事を掲載。
注目点はバックラッシュ(backlash)という言葉が使われていること。この言葉は「社会的・政治的改革などに対する激しい反動」を表し、前進しているものに対して反発して後ろに戻るというニュアンスがあります。
例えば、黒人解放運動などの人種差別撤廃の動きに対する白人至上主義者らの否定的反応はWhite backlashと呼ばれており、ネガティブな用語であることに注意が必要です。
記事内では、こうした過激な反動が起こった理由として「日本は人種のような繊細な問題について広く議論することに慣れていない」ことを指摘。それが「外国企業によって指摘された」ことも反発を招いていると分析しています。
加えてSNSでの「ナイキは差別を誇張している」「日本だけの問題じゃないのにフェアじゃない」「まるで日本中に差別があるって言おうとしてるみたいだ」といった意見を取り上げています。
◆ワシントン・ポスト
ワシントン・ポストも「Nike ad showing racial discrimination faced by Japanese girls provokes backlash(ナイキの人種差別を受ける日本の女の子を描いたCMが激しい反動を引き起こす)」というタイトルの記事を載せました。
こちらでもバックラッシュという言葉が使われており、その前のprovokeも苛立たせる、刺激して怒らせるといった意味合いがあり、「地雷を踏んだ」というようなニュアンスで報じていることが分かります。
こちらでも日本では差別問題が公に議論されることに慣れていないことをバックラッシュの原因と指摘しています。
ワシントン・ポストは原因にさらに一歩踏み込み、日本人のアイデンティティの一部が単一民族国家であるという神話に置かれているためとし、アイヌ差別の存在にも言及。
さらにCMの中に登場するテニスの大坂なおみ選手がブラックライヴズマター(BLM)運動に賛同した際に日本で誹謗中傷があったりスポンサーに不快感を示されたことにも触れています。
◆ロイター
ロイターの記事は「Japan Nike ad on bullying, racism sparks hot online response(ナイキジャパンのいじめと差別のCM、ネットで激烈な反応を引き起こす)」というもの。
記事の頭では、いじめと差別に反対するCMがネットで不買運動を含めた強烈な反応を巻き起こしたとされており、いじめや差別への反対への反発という構図が指摘されています。またこちらでも、日本が伝統的に単一民族国家であることを誇ってきたという経緯に言及。
記事内ではSNSの「今では違った国籍の子どもが完全に平和に通学している光景はよく見る。偏見を持っているのはナイキ」「日本を貶めて楽しいのか」といった意見も紹介しています。
さらにCMに登場する大坂なおみ選手が日清のPR動画でアニメ化された際に白い肌にされたことやお笑いコンビによる「漂白剤が必要」としたコント上での差別発言にも触れています。
◆ガーディアン
ガーディアン紙の記事は「Nike Japan ad on teenage bullying and racism sparks debate(ナイキジャパンの若者へのいじめと差別のCMが討論を巻き起こす)」というもの。
サブタイトルでは2分の映像に賞賛が集まったものの、「日本の間違った印象を作り出す」と非難もあったことを紹介。
その中でCMが日本の「online right」層を激しく怒らせたことに加え、多くの匿名コメントが「現代日本社会を誤解している」と述べていることを伝えています。
ガーディアンもロイターと同様のSNSのコメントを紹介し、日本が比較的単一民族国家に近い状況であるとしながらも、大坂なおみ選手や多くの日本に帰化した選手を擁するラグビー日本代表チームを引き合いに出し、多様化が始まって状態であると述べています。
海外のこれらのメディアの論調を見ると、全体としてはまずナイキのCMが反差別と多様性を訴えているものであることは広く共有されています。
そしてバックラッシュという言葉の使用からは、差別をなくして多様性を尊重していこうという望ましい意見に対し、状況を後ろに引き戻そうという保守的な「反発」であるというニュアンスが読み取れます。
そして、そうした保守的ないらだちの根底には伝統的な日本の「単一民族国家」という神話があり、同時に差別問題に関してこれまで議論がされてこなかった土壌があると認識していることが分かります。
重要なのは、BBCがモーリー・ロバートソン氏の「日本人の多くは外から自分たちのやり方に口出しされることを嫌う」というコメントをバックラッシュの理由として紹介していること。
これはこの問題で言えば、先進国が共有しているはずの反差別や多様性といった価値を少なからぬ日本人が共有していない可能性を示唆するもの。
日本でのビジネスや移住などを考える外国人には少なからぬリスクと受け取られてしまうかもしれません。
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