小沢健二「うさぎをめぐる冒険」超詳細レポート、スチャダラパーのBoseと2時間に渡る濃密トークショーに



2012年3月~4月にかけて行われたコンサート「東京の街が奏でる」も記憶に新しい小沢健二。東京を皮切りに始まった「小沢健二『我ら、時』展覧会とポップ・アップ・ショップ」も全国各地で好評を博す中、2012年6月9日にアメリカ・コネチカット州にいる小沢とスチャダラパーのBoseがSkypeを用いて語り合う「うさぎをめぐる冒険」というトークショーの告知が、イベント前日の夕方に急遽小沢の公式サイト「ひふみよ」上にてなされました。BUZZAP!編集部員もどうにか参加できたのでトークショーの詳細をお伝えします。



ひふみよ 小沢健二 Kenji Ozawa Official Site

「うさぎ! をめぐる冒険」緊急決定! | HEP HALL.com

イベント前日の夕方に急遽告知された「うさぎをめぐる冒険」の会場は現在「小沢健二『我ら、時』展覧会とポップ・アップ・ショップ」を行なっている大阪・梅田のHEP HALLで、入場整理券は60枚の先着順。さらに秘密の入場券20枚が大阪のどこかにある……という情報も告知されていましたが、これはFM802のサイト上にて応募すれば抽選で20名に入場券が当たることを指していると判明しました。早速応募はしてみたものの、20名はかなりの狭き門です。会場内に入れなくても音だけなら外のロビーで聴けるとのことですが、せっかくなので先着の入場整理券を手に入れるべく並ぶことにしました。

入場整理券はイベント当日の午前11時から配布されます。というわけで、配布の2時間前となる午前9時にHEP FIVEに来てみました。既に並んでいる人がいるようです。


案内を発見。


ざっと数えてみたところ、おおよそ40人ほどが並んでいました。60人には達していないことからこの時点でイベントの参加は確定。あとは辛抱強く待つだけです。


そして入場整理券をゲット!ちなみに秘密の入場券は外れていました。並んでおいて本当に良かったです……。


集合時間に会場へ到着。右手の列は音漏れ参加希望者で、最終的にはかなりの人数になっていました。


トークショーは展覧会のポップ・アップ・ショップを利用して行われます。


「東京の街が奏でる」以来すっかりお馴染みとなったキツネのマネキンもいました。


開始時刻になり、入場整理券番号順に入場。ポップ・アップ・ショップを利用した会場は真っ白い壁に囲われた、小さなライブハウスくらいの空間で、壇上の端にはテーブルが置かれ、そこにノートPCやマイクが用意されていました。そして正面の壁には横幅が3mくらいはありそうな巨大スクリーン。

◆「うさぎをめぐる冒険」の始まり
“今夜はブギーバック”が流れる中、スチャダラパーのBoseが登壇してトークショーがスタート。開始早々に小沢健二とSkypeで中継が繋がって会場からは歓声が上がります。小沢はアメリカ・コネチカット州にて滞在しているホテル?(どこかは明言されていません)の椅子に座っている様子で、胸から上がアップで映っています。服装は丸首の白いTシャツに白いボタンダウンシャツ。彼の後ろには窓があり、そこから木々が見えますがまだ外は暗いです。始まった当初は少々落ち着かない様子を見せていました。

Boseによると、このトークショーは4日前に急遽決まったとのこと。今回と似たようなイベントは京都のガケ書房や原田郁子さんがやっているお店キチムなどでやっていたそうで、他にも大阪では釜ヶ崎で谷川俊太郎さんとトークショーをしたこともあるそうです。

◆『余談』と詰め込むこと
会場でも売られていたスチャダラパーが作っている小冊子『余談』の最新号では、小沢が『子どもと昔話』にて連載している『うさぎ!』を読んだスチャダラの反応が載っています。Boseは『余談』を作った理由として「いろんな雑誌にちょっとずつ掲載されたインタビューなどをまとめたら結構な量になるので、それらをまとめて自分たちでも作ってみた」というようなことを話し、それを受けて小沢は「『我ら、時』では箱という形である程度空間を区切りたかった、そこにCDや本などをぎゅっと詰め込むことで破壊力が生まれる」と語ります。

◆Twitter、文章の長さ
『東京の街が奏でる』で2回だけ語られたモノローグにもあった「Twitterのように短い文章では伝えられる内容が限られてくる」という話に。

小沢「文章の長さは内容に影響し、読み手が既に知っていることならすぐに理解してもらえるが、新しい情報を伝えるにはある程度の文章量が必要になる」「文学をやっている人や言葉を深く追求している人からみるとこの現状は危険」「展覧会にもあったが、歌の内容を薄くすれば流行りやすい(忍耐力がいらないから)」

Bose「簡単には内容のわからない歌が好き。わかりやすい曲は5種類あればよくない?誰かにフラレそうとか」

◆ヨルダンとワールドカップ
展覧会には小沢がヨルダンに行った時の写真がありますが、ちょうどイベント前日にあったワールドカップ ブラジル大会アジア最終予選のヨルダン戦の話になりました。

Bose「小沢くんの写真のヨルダンと、サッカーでのヨルダンは繋がらない」「ワールドカップに日本や韓国、中国が出ると(経済的に?)都合がいい。宣伝にならない国は出れない」

小沢「友達のピアニストが言ってた話で、80年代は日本がコンクールで上位に来ていたけど、その後中国が経済的に発達してきたらコンクールでも上位になってきたって」「めちゃくちゃお金持ちなカタールでもワールドカップをやるよね」「本当のことをハッキリ言ってくれればいいのに。誘致したら儲かるからお願い、みたいな」「マイナスを無視せずに、プラスとマイナスの両方があった方が自然」「プラスだけを前面に出しても、そのこと自体が影を落としている」

◆暗い話はしない社会
Boseは大飯原発再稼働について野田首相が会見をしたことを絡めて話します。

Bose「『原発を止めるのはキツイ』ってはっきり言えばいいのに。でも技術的な話しかしない。『トヨタの電力が足りなくなる』とか内訳を全部言ってくれればいい」

小沢「ネガティブもポジティブも混ぜて楽しめる人は少ないかもしれないけど、そういう状況を楽しめる文化を作っていかなくちゃいけない」「『ネガティブ(灰色)な話はネガティブな人の間だけでしよう』となってしまう」「これは『うさぎ!』を読んで世の中がちょっと違って見えたという人にとってすごく危険な罠」

◆矛盾してた方が良い
Boseは、原因がハッキリすることで世の中が良くなっていく可能性を感じるから『うさぎ!』を読むと勇気が出るとのこと。

Bose「『社会のことを考えるには真面目な人じゃなきゃいけない』という空気がある。反原発運動をしている人とかは『パサパサした雰囲気』があって。化粧しちゃいけないみたいな」

小沢「それは『貧しい人のことを心配するならお前がまず貧しくなれ』みたいな罠」「自分の生活を抑える必要はない、喜びをあきらめなくても社会のことを考えていい」「矛盾していて当然。パサパサした人になる必要はない」

Bose「渋谷でメイクをすごいしてる子とかも、外見的にパサパサした人にはなりたくないから反原発運動をしたくないと思ってるはず。そこは矛盾してた方がいい」

◆RV(キャンピングカー)
話も段々と盛り上がっていく中、少しずつ小沢の後ろから朝日が差し込んできました。それに気づいたBoseが「そっちは何時?」と聞いたところ午前5時40分とのこと。小沢曰く「コネチカット州はサリンジャーやマーク・トウェインの土地で、自然がいっぱい」。Boseは震災のこともあって最近キャンピングカーに興味があるそうで、小沢にアメリカのRV(キャンピングカー)の話を聞き出します。

小沢「大きいものでは高さ4メートル、奥行き12メートルもある。小さな車用の車庫も付いていたりする」「RVは文化で、日本とは法律からして違う。日本は免許の取得費用も高い」

Bose「都内でキャンピングカーを道路に停めてたらすぐに捕まっちゃう」

小沢「RVという遊びを楽しむには全体の文化が整っていないといけない、法律とか。さっきの話も同じで、社会の話を楽しくできる文化があればいい。全体で遊べる文化を大人が作っていかないと」

Bose「日本じゃキャンピングカーに料理用の包丁を入れておいたら銃刀法違反になっちゃう」

小沢「社会のことは結局、『自分がどれだけ遊べるか』という話になる」

Bose「他の国と比べると、東京から京都まで新幹線で2時間は遠くない」

小沢「アメリカの感覚だと東京から大阪も遠くない。でもめちゃくちゃお金はかかる。高速道路も高いよね、アメリカは高速が基本的にタダだから。コネチカット州からニューヨークに通勤とかも全然OK」

◆遠くに行かなくてもトリップできる
RVの話から旅、そして自分の生活する街の話に。

小沢「展覧会でも言ってるけど、遠出しなくても見方を変えればどこでも楽しめる。遠くにいかなくても自分の街でもトリップできる」「自分が生活している場所ではショートカットを作った方が便利。でも、それによって街の情報量を減らしてしまっている」「外国の牛の写真を見て憧れを抱いた人の近所に牛がいたりして」「その場所場所の音がある」

◆演奏する楽器によって性格や外見が変わる
小沢「バイオリンを演っている人はタレ目の人がいない」

Bose「ギターは細長い人が多いよね、木暮晋也とか小沢健二(笑)」

小沢「ウッドベースのプレイヤーはのんびりしてるからイライラするとか」「そんな風に街にもそれぞれに音はある」

Bose「大阪のエレベーターは閉まるのが東京より早いね」

小沢「東京でも世界的には閉まるのが早いからエリザベスはよくぶつかっちゃう(笑)」

◆休憩
床に座って聞いていた観客に対してBoseが「お尻痛いでしょ」と立たせてくれました。しばしの休憩タイムです。朝日が逆光になって小沢の顔が見づらくなったので照明を使って顔を照らし出します。眩しいけど我慢するとのこと。

◆ニューヨークの話
ニューヨークで柴田元幸さんを案内したそうです。

小沢「案内したときはニューヨークとかブルックリンに行ったんだけど、文学って白人の文化だなと思った。すごく多くの人種がいる街だけど」

Bose「メキシコ人がいるエリアはニューヨークなのにメキシコそのものになってるね」

小沢「彼らは『白人からしたらメキシコ人は透明人間』って自分たちで言っている」

Bose「小沢くんが旅行する場所って普通は行けないようなところばかりだよね」

小沢「『ここは危ない』っていう情報は政治的。パナマは実際に行って危ないと思ったけど、貿易の中心地だから安全とされている。逆にボリビアは危ないと言われているけど安全だった」「誰がその情報を流しているのかを考えたほうがいい」

◆『知の知』とテレビ
Bose「テレビを見なくなったけど、たまに見ると『テレビはテレビのことをずっと宣伝している』と感じた」

小沢「自分が知っている情報はどこから得たのかを知る『知の知』が大事」

Bose「日本のニュースってニュースじゃなくて、単にテレビでしかないんだよ」

小沢「日本のテレビで字幕がバーンと出てるとバカにしてんのかと思う」

Bose「今のテレビでは山田太一脚本のドラマみたいにモヤモヤしてるのはダメなんだろうね」

◆日本のカラオケとアメリカのヒップホップ
小沢「さっきも言ったけど、単純にわかりやすい歌詞が流行る現象は社会が作っている」「スチャダラの『悲しみTURN IT UP』はすごかったね」

Bose「あの曲は『涙のTAKE A CHANCE』を作りたかっただけなんだけど。ANIが全開になれる曲がおもしろいと思って」「今年の誕生日に小沢くんと二人っきりで会って、真城さんのライブに連れて行かれたら、実は知り合いがたくさんいるパーティーだったっていうサプライズがあって」「そこでANIがカラオケで歌った『涙のTAKE A CHANCE』がおもしろくて新曲にしたの」「この世にまだ存在しないラブソングを作ろう、と」

小沢「ニューヨークのヒップホップのクラブと一番似てる日本の文化はカラオケだと思う」「みんな歌詞を知ってて一緒に歌ってる」「だから日本で一番やりたいのはカラオケ」「ヒップホップの中にあるダサカッチョ」

Bose「かっこ悪さを押し出すかっこよさ、『EZ DO DANCE』を歌いたくなる感じ」

小沢「開き直ることで一気にかっこ良くなる、無理にかっこつけても続かない」「『今夜はブギーバック』のかっこ良さもそんな感じ」

Bose「小沢くんがプッシーキャットとか歌い出したときは爆笑したからね(笑)」「昔のヒット曲も『情熱☆熱風・せれなーで』とか。かっこつけてるのに」

小沢「古い歌はみんなのものになっていく文化の力があるから」

Bose「『ラブリー』なっげー!繰り返しがしつけ-!みたいな。『ドアノック』、息続かねえ!とか」

小沢「早川義夫さんが『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』って言っていたね」「もちろん時間が経ってもダメなものはダメだけど」

Bose「『それが一番大事』とかかっこよくないよね」

◆岡崎京子さんの話
小沢「『東京の街が奏でる』最終日に岡崎京子さんが来てくれた。当時も彼女より売れてた漫画家はいたけど、時間が経っても読み続けられてる人は少ない」

Bose「いまさら映画になったりするからね。なんとも言えないですけど、ちゃんとしてるのかな?としか言えないです」

小沢「ダメなものでも皆の力で助けていく部分もある」

Bose「『SLY MONGOOSE』って友達のバンドにライブでダサい曲を演ってもらったら『勉強になった』とかって感謝してた」

◆展覧会について
小沢「あの指向性の強い特殊なスピーカーの音が上手く耳にハマると面白い」

Bose「もともとデモとかを撃退する兵器なんでしょ」

小沢「新技術の研究開発費用は基本的に軍事費から出ているから」「ヘッドホンとかじゃなくて、あのスピーカーがあるから後から展覧会の事を思い出しやすいはず」「光を写真にだけ当てる方法は突然思いついた。なんか写真なのに映像みたいに見えてくる」

Bose「あの牛の写真で流れてた曲が欲しくなった。絶対にiTunes Storeで買えないから」「『国境を意識する』ってやつも印象的」「四国とか、昔は他の国だったよね」

小沢「明治維新までは日本という国は無かった。日本は狭い土地に沢山の国があるから、九州とか四国に行くとびっくりする」「東京はすごい西洋化を進めたところだから、昔から歴史が続いているような感覚が薄い」「仏教的な価値観や繋がりも関西にいた方が感じる」

◆インド映画
Bose「この前『ロボット』ってインド映画を観たけど、日本公開版だと踊りの場面を編集されて短くなってた。ハリウッド映画的に直してる」

小沢「インドのカレーをカレーライスにしたような。長い部分も楽しめばいいのに」

Bose「シャー・ルク・カーンの『家族の四季 -愛すれど遠く離れて-』はめちゃくちゃ面白い」

小沢「シャー・ルク・カーンは渡された脚本に勝手に登場していないおばあちゃんを入れたりする。インド映画は老若男女の全員が楽しめなきゃいけないから」

Bose「TSUTAYAに行ってもインド映画コーナーはほとんどない」

小沢「でも、アメリカじゃなくてインドに戦争で負けてたら、TSUTAYAはインド映画だらけだったと思うよ」

◆終わり
小沢「『装苑』の次号に『うさぎ!』で服の話を書いてます」

Bose「観客の皆様はTwitterに何を書いたんでしょうね。さんざん『短い文章では内容が~』と話してきたので(笑)」

小沢「『ひふみよ』でも短いのはTwitterが載るけど、ozkn.netの方では長い文章も載せられるから」

Bose「50ページくらい書いてるスゴい人もいるよね(笑)プロ級の」
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最後はBoseが「物販のCDにサインもするよ」と告知をし、小沢が「皆さん友達同士になって帰ってください」とまとめて終わりました。実に2時間に及ぶトークショーは、まるで小沢健二とBoseが普段している会話を横から覗かせてもらったような感覚になるイベントでした。

なお、イベント中は「文でのツイートはOK」とされており、当日の実況模様が以下にまとめられています。興味のある人はチェックしてみてください。(この記事を作成する上でも大変参考にさせていただきました)

「うさぎ!をめぐる冒険」小沢健二さん(Skype)&スチャダラBoseさんトークショー@大阪HEP実況 - Togetter

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