Visual by VJ Spike-Bloom
死に直面し、その後に蘇生した人が時に経験するという臨死体験。白い光、三途の川、神との対話、死者たちとの語らいなど、極めて宗教的な体験の記録は世界中に存在しています。
死後の世界の有無とは別問題に、そうした極限状態で臨死体験と呼ばれる種々の体験が報告されていることは間違いなく、ではそうした体験がなぜ引き起こされるのかを考える学者たちが存在しています。
ハンガリーのデブレツェン大学のEde Frecska博士らのチームはこの臨死体験がある幻覚作用を持つ物質によって引き起こされると考えています。その物質の名前はDMT(ジメチルトリプタミン)といい、死に直面して酸素の供給が途絶えた際、脳細胞が自らを生きながらえさせようとするための決定的な役割を果たしているとのこと。ただし、現時点ではDMTの臨死状態での働きは明らかになっていません。
Frecska博士によると、DMTは体内で生成される分子の中で、酸素欠乏によって生じる酸化ストレスと呼ばれる細胞ストレスに対して防衛的な役割を果たすシグマ1受容体と関係する数少ない物質であるとのこと。加えて、DMTが血液脳関門を超えて脳に作用することから、DMTは脳に対してなんらかの必要な役割を持っているということです。
DMTが酸化ストレスから細胞を守るという役割を持っているとすると、結果的にDMTの働きによって無酸素状態で生き延びられる時間が延長され、脳へのダメージが防がれることになります。Frecska博士らはこの仮説が確認されれば、心臓発作や卒中の発作を起こした人が脳へのダメージを最小限に抑えるための実際的な応用が可能だとしています。
博士らは現在培養した神経細胞を用いた実験のためにクラウドファンディングでキャンペーンを実施しています。実際には人間での実験を目指しているのですが、DMTは現在厳しく規制される「ドラッグ」の扱いとなっています。
1990年代にニューメキシコ大学でRick Strassman博士によって行われた実験では被験者の多くが臨死体験に似た極めて深い宗教体験をしており、Strassman博士はDMTに「魂の分子(Spirit Molecule)」とのニックネームを付けました。また南米アマゾンのシャーマンらの行うセレモニーにおいてはDMTを含むアヤワスカという飲料が用いられ、ペルーやブラジルでは現在も宗教儀式として続けられています。
アヤワスカの体験談などを読むとDMTが臨死体験と関わりがあるということも少しは想像できるものの、酸欠状態で脳を生き延びさせるという役割が確認できれば宗教儀式に用いられる幻覚剤というだけでなく、もっと大きな役割を果たすことになるかもしれません。
なお、アヤワスカを摂取した時の臨死体験のような状態とはどんなものなのか、こうした動画作品も作られています。
(Visual by VJ Spike-Bloom)
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