NOON裁判無罪判決の中で示されたダンス営業規制の目的とされる「性風俗秩序の維持」のクラブシーンに与える影響について考えてみる



非常に画期的な判断に基いて本日無罪判決が下されたNOON裁判。しかしその判決の中には気になる文言が含まれていました。既にアーティストをはじめ一部からは指摘されている「性風俗秩序の維持」とクラブシーンについて考えます。


NOON裁判の報告集会・記者会見の質疑応答の中で気になる質問がひとつありました。それは今回の無罪判決についての大阪地方裁判所のダンス営業規制の趣旨に関するもの。

大阪地方裁判所は、風営法ダンス営業規制の趣旨を『風営法2条1項3号の文言に形式的に当てはまるのみならず、具体的な営業の態様から、歓楽的、享楽的な雰囲気を過度に醸し出し、単に抽象的な可能性にとどまるのではなく、わいせつ行為の発生など、性風俗秩序を乱す具体的なおそれがある営業を規制することによって、善良な風俗及び清浄な風俗環境を保持し、青少年の健全な育成を保護する目的』と限定的に解釈すべきものとしました。

さらに、この趣旨に基づきNOONの、少なくとも摘発時の営業の実態について『お客さんの行っていたダンスそのものは、それだけでは性風俗秩序を乱すおそれのあるものとはいえない。DJらの演出も、音楽や映像を使って単に盛り上がっている域をこえていたものとは認められないし、露出の多い服装を煽るなど、ことさらにわいせつを煽るような演出がされていたとも認められない』と認定しています。

この判断によりNOONが、風営法の規制対象にあたらないものとされ、無罪判決に繋がったとされています。そしてこれに対して大阪地方裁判所から

「どのようなダンスが性風俗秩序を乱すダンスなのかという判断はあったのか?」

との質問が行われました。これに対し、NOON訴訟弁護団の水谷主任弁護人の回答は

結論からすると、NOONで行われていたダンスがことさらにわいせつ行為などの性風俗秩序を乱すとはされなかった。しかしどのようなダンスが風俗を乱すのかという言及はなかった。条文上の文言に当てはまる上に具体的な営業態様から単に抽象的なレベルではなく、実際にわいせつ行為が起きるなどの具体的な性風俗秩序を乱す恐れのあるような営業形態であるかどうか。そういう形態で営業している場合は公安委員会の許可を得なければ営業することはできないという一般的なルールは示したと理解している。NOONがそこに当てはまらないということを示した判断ではポイントは3点あります。

・お客さんのダンスが密着して踊っているなどの、わいせつさがあるとは認められない
・DJの演出は音や映像で盛り上げようとしていたところに留まり、ことさらに猥褻な雰囲気をつくろうとしたものとは認められない
・店内の演出でも、お客さんに露出過多の服装で来るように煽るなどのわいせつな状況をつくろうという演出も認められない

これによってNOONが風営法2条1項3号で規制している対象の営業をしていたとは証拠上認められないと述べていた。



というもの。つまり、どのようなダンスがOKで、どのようなダンスが「性風俗秩序を乱す」ためNGとされるのかという判断基準が大阪地方裁判所から示されていません。そして示された3点のポイントについては、逆に考えればここで性風俗秩序を乱すと判断されれば風営法2条1項3号で規制している対象の営業として認められる可能性があるということ。要するに

・お客さんのダンスが密着して踊っているなど、わいせつさがあると認められる
・DJらアーティストの演出が音や映像で盛り上げるにとどまらず、わいせつな雰囲気をつくろうとしたものと認められる
・店内の演出や、お客さんに露出方の服装で来るように煽るなどわいせつな状況をつくろうという演出が認められる



ものであれば、風営法2条1項3号の客にダンスをさせかつ飲食をさせる営業として規制対象になる可能性があるということになります。NOONはこの条件に合致していなかったため風営法の規制対象でないとの判断が下されていましたが、全てのクラブの全てのイベントがこうしたダンスや演出をしないと言い切れるでしょうか?

例えば既に音楽評論家でジャマイカ音楽研究家の藤川毅やレゲエミュージシャンのランキンタクシーはTwitter上で以下のように指摘しています。






レゲエ以外にも、サンバカーニバルを思い出してもらえれば分かるように、セクシーで情熱的なダンスは多数ありますし、クラブシーンのみならず流行中のポールダンスやベリーダンスのようなセクシーな衣装とダンスを披露するパフォーマンスは存在しています。さらに言えばセクシーさを前面に出したコスプレイベントやフェティッシュ系のイベントなどがクラブで行われることもあります。


もちろんジャンルに関わらず、マドンナやレディー・ガガのようにアーティストが自らのステージの演出の中に何らかのセクシャルな要素を表現の一環として取り入れられてくることも十分考えられるわけです。

こうした表現行為としてのセクシャルな要素をどう考えるべきなのか。音楽とその音楽を取り巻く文化の中に不可分な性的要素があるとしたら、そのダンスが行われていれば規制の対象とされてしまうのか。

判決では、風営法のダンス営業規制はあくまで「わいせつ行為が行われる危険、性風俗秩序を害する危険が実質的に認められるものだけ」に限定して適用すべきという判断が為されているため、抽象的にセクシャルな要素が含まれているから規制の対象となると断ずるのは早計です。

また、この性風俗秩序の維持については音楽ジャンルやアートとしての表現の話ではなく、むしろナンパ箱と呼ばれるタイプのクラブの「ビキニナイト」のような扇情的なイベントを想定しての文言であるとの考察もネット上では散見されます。

ただし、「性風俗秩序を乱すダンス」の基準への言及がなかったことから曖昧さや恣意性の余地が残っているとの指摘は無視できるものではありません。弁護団声明の「ダンスを指標として性秩序を統制しようとする時代遅れの規制を速やかに撤廃する」という風営法改正の方向性は引き続き重要な指針となるでしょう。

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