大麻完全合法化から1年、コロラド州で起こったこと、起こらなかったことについて


Photo by Coleen Whitfield

2014年1月の大麻完全合法化から1年が経ったアメリカ合衆国コロラド州。WSJの記事をもとに何が起こり、何が起こらなかったのかを考えてみます。


大きな期待と懸念の中、2013年1月5日にコロラド州で所持と栽培が合法化された大麻。大麻の販売についてはライセンスや流通の規制や準備のため1年遅れて解禁され、完全な合法化からは今年の1月で1年となります。

レクリエーション用の大麻がコロラド州、ワシントン州で合法化 | Your News Online

推進派からは税収と観光客の増加が期待される一方、反対派からは未成年者の使用を含めた社会的な悪影響が懸念されていました。では実際のところどの程度のプラスとマイナスが生じたのかを検証してみます。

米の合法大麻、賛否双方の予想外れる展開に - WSJ

◆税収
嗜好用大麻の販売は大きな税収アップになるのではないかとの期待は強く、13年2月の時点ではコロラド州知事オフィスは13年7月からの会計年度の税収を1億ドル(約118億円)を見込んでいました。しかし州のエコノミストは12月になるとそれまでの見通しとして挙げていた6700万ドル(約80億円)から5870万ドル(約70億円)へと下方修正しています。

この理由としては25%という高い税率が挙げられており、多くのユーザーが安い医療用大麻を購入しているのではないかと指摘されています。州や街によっては医療用大麻は「よく眠れない」というだけで処方箋をもらえるため、敢えて高価な嗜好用大麻を購入する必要がありません。

さらに、税収が予想ほど伸びないのはいくつかの市町村が嗜好用大麻の販売を様子見として現時点で全面的に禁止していることも理由のひとつだとしています。これも嗜好用大麻の合法化というアメリカ初の試みのため、やむない事情と言えそうです。また、

コロラド立法審議会の上級エコノミスト、ラーソン・シルボー氏は「われわれは連邦では違法とされる製品を対象にしていたため、この予測は実際的なものではなかった」と語った。



とのことで、州法では合法でも連邦法では違法という状況があったため、この矛盾が正確で実際的な予測を難しくしたという事情があるのは間違いありません。ただしこの件については連邦法で医療大麻を取り締まらないことが決まるなど、直近でも動きがあるため嗜好用大麻への対応も今後変化する可能性があります。

アメリカ合衆国が連邦法で医療大麻を取り締まらないことを決定 | Your News Online

なお、コロラド州は人口500万人程度で、2010年現在の福岡県と同程度の人口規模となっています。

◆雇用
大麻がブラックマーケットと切り離されて合法になれば健全なマーケットが生まれ、雇用も生まれると期待されていましたが、これに関しては間違いなく雇用を生んでいます。コロラド州では現在1万6000人近い人々が大麻業界で働くためのライセンスを取得しており、200以上の小売業者が大麻を販売しています。

記事では栽培所を経営する男性の以下の様なコメントを紹介しており、これまで使われていなかった倉庫が大麻栽培所として活用され始めるなどマーケットの拡大が伺えます。

元商業銀行員で、現在は栽培所ライブ・グリーン・カナビスや販売店を経営するブルック・ゲーリング氏は「業界として、われわれは米国全体のモデル役を果たしていることに興奮している」と述べた。昨年1月1日に嗜好用大麻の販売が始まってから、ライブ・グリーンに1日にやって来る顧客は10倍になり、時には500人になると話している。



◆観光
州外、国外からの大麻目当ての観光客は増加しています。デンバー地域の嗜好用大麻の客の半分が観光客で、観光地として有名な山岳地帯では9割にも上るとのこと。実際に以下サイトに列挙されているように大麻目当ての観光に特化したトラベルエージェンシーも複数存在しており、販売に留まらない関連ビジネスも生み出していることが分かります。

Marijuana Activities in Colorado 

こちらは既に終了していますが日本発のツアーです。

「マリファナ観光」デンバー・フリーダムツアー お申し込み受付中 - Entheorg

◆未成年者の使用
大麻合法化反対派の大きな懸念として挙げられていた未成年者の使用ですが、これはまったく当りませんでした。コロラド公衆衛生・環境局が13年8月に発表した調査結果では大麻を使ったことのある高校生は13年には11年よりも減っています。

なお、連邦政府の調査によるとコロラド州の12歳以上の州民の間の使用率は11から13年に10.4%から12.7%に小幅増加していましたが、これはあくまで12歳以上であるため、未成年者の使用が増えたと読むことはできません。

なお、未成年者の使用者の減少については映画評論家の町山智浩氏がラジオで語った件が参考になりそうです。非常に興味深いので通して読まれることをおすすめしますが、以下に該当部分を引用します。

いままでみたいにヤミのやつは売人が高校生とかに売っていたんですけども。こういう状態になると、ヤミの売人は消えちゃうんで。たぶん高校生の方には前よりは行かなくなるんじゃないかっていう説もありますけどね。

町山智浩が語る アメリカ マリファナ(大麻)解禁・合法化の現在より引用)



とのことで、ブラックマーケットが駆逐されることで販売が正規ルートに収束し、それによって税収増のみならず未成年者などへの不適切な販売も減らすことができるというもの。

◆大麻の危険性
大麻自体はオバマ大統領も言うように「酒よりも危険ではない」のですが、摂取方法などによってはトラブルを起こす可能性もあります。特にコロラド州では食べる形での摂取には問題があり、コロラド州では大麻の悪影響を経験した人からの電話が13年から14年で2倍程度に増えています。

また、同州の何人かの医師から大麻の大量経口摂取で病気になった人、特に子供の数が増えているとの報告がジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(JAMA)に上がっています。

大麻の経口摂取というとねこぢるの旅行記マンガ「ぢるぢる旅行記」にも登場するインドのバングラッシーが有名。以下のブログポストでも描写されているようにこれも初心者キラーとして知られていますので、安易な経口摂取には一定の規制が必要と言えるのかもしれません。

varanasi09

◆全体としては?
WSJの記事は「賛否双方の予想外れる」としていましたが、懸念に対しては未成年者の使用は増えなかったけど経口摂取はある程度気をつけた方がいいという程度に留まっていると言えそうです。期待に関しては税率が高いことや全国初で始まったばかりであること、連邦法との関係などで思ったほどの税収アップではなかったけれど、雇用も市場も生まれて観光客も増えてきて伸びしろもある、というところでしょうか。

今後同時期に合法化されたワシントン州や新たに合法となったオレゴン州、アラスカ州、ワシントンDCなどでの実績が分析されるに連れて大麻合法化のメリットとデメリットはさらに明らかになり、憶測の入り込む余地はなくなってゆきそうです。

大麻に関する現在の日本での議論は、殆どの場合覚せい剤やヘロインなどの麻薬と同一視されて「ダメ・ゼッタイ」のスローガンのもとで完全な悪者扱いとなっていますが、アメリカ合衆国内で起こっている現実の動きから目を背けることなく、どのように扱うべきか考えていかなければならないでしょう。

(Photo by Coleen Whitfield

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