2/3超の議席を持つ安倍政権、「国難突破解散」のはずが90議席減でも「勝利宣言」の理由とは?



独力で憲法改正できる323議席を持つ安倍政権の勝敗ラインが過半数とはいったいどういうことなのでしょうか?詳細は以下から。


自民党288議席、公明党35議席で合わせて323議席という2/3を超える議席数を確保する安倍政権。安定多数や絶対安定多数を超えた圧倒的多数という、独自で改憲が可能な最終段階にまで達していながら、今回の解散・総選挙の目標値とされる勝敗ラインはなんと過半数の233議席でした。いったいなぜこうしたラインを設定したのでしょうか?

◆「消費税の使い道見直し」という謎発言の後先
安倍政権は今回の解散・総選挙を「国難突破解散」と命名。2019年に行う10%への消費増税2兆円の使途を子育て世代への投資や社会保障の安定化などに当てるとした上で「消費税の使い道を見直すことを本日決断した。大きな決断をした以上、すみやかに国民の信を問わなければいけない」などと説明しています。

しかし以前も指摘したように、安倍政権が消費税を8%に引き上げた2014年、政府広報では「消費税率の引上げ分は、全額、社会保障の充実と安定化に使われます」と大々的に謳っていました。


さらに同年12月に行われた衆議院の総選挙で安倍首相率いる自民党は消費税財源は、その全てを確実に社会保障に使い、平成29年4月までの間も、着実に子ども・子育て支援、医療、介護等の充実を図ります」(P19)とする公約を発表しています。


つまり安倍首相が8%への増税時の政府広報と前回の衆院選での公約が全然守られていなかったということでしかなく、今回安倍首相が主張しているのは「消費税の使い道を見直す」のではなく、「守られていなかったこれまでの公約どおりに消費税を使う」ということ。

つまりはまったく解散・総選挙の理由になっていませんし、自らの政権の公約が破綻していたことを自ら認めているという意味で、行うべきは解散・総選挙ではなく「行政府の長」として責任を取ることです。

さらには自民党の税制調査会が26日に開いた幹部会合では安倍首相の「消費税の使い道を見直す」発言について、具体的な対応については衆議院選挙の後に改めて議論することを確認しており、有権者がどのようにこの「見直し」に評価を下せばいいのか不明な状態で投票しなくてはならないという異常事態になっています。

本来であれば臨時国会の場で見直しを表明し、与野党でしっかりと議論を重ねるべき重要な課題であり、議論がどうやっても落とし込めないのであれば最終的に「信を問う」という選択肢はあり得るかもしれません。

しかしこの「見直し」はこれまで国会で全く議論もされていない問題であり、ざっくりとした方向性以外どのように「見直す」のかも決まっていないことが税制調査会の幹部会合で明らかになってしまいました。議論が煮詰まっていない状態での解散・総選挙という選択肢は悪手でしかなく、下手をすれば二度手間にすらなってしまいます。

◆北朝鮮の脅威があるから「むしろ今こそ選挙」という謎理論
安倍首相は解散表明の記者会見の中で「むしろ私は、こういう時期にこそ選挙を行うことによって、この北朝鮮問題への対応によって、国民の皆さんに問いたいと思います」と語っていますが、なぜ「むしろ」なのかは不明。

もともとこの時期に衆議院の任期満了に伴う総選挙が行われる予定だったというのであれば敢えて選挙時期を動かさず、動揺しない姿勢を見せるという選択はひとつのポーズとして有効であることは間違いありません。

しかし、この解散自体がほんの半月たらずの間に言い出されたことでしかなく、安倍首相がわざわざこの時期を選んで解散・総選挙を行う事を突然に決断したというだけの話にすぎません。

また、本当に北朝鮮問題を日本の脅威と考え「今後ともあらゆる手段による圧力を、最大限まで高めていくほかに道はない」と確信しているというのであれば、臨時国会での北朝鮮のミサイル発射への非難決議を見送るという方針は完全に矛盾します。

ここで大きなヒントになるのは記者会見の北朝鮮についての部分の最後にある「私はこの選挙で、国民の皆様から信任を得て、力強い外交を進めていく」という言葉です。つまり安倍首相はこの選挙に勝つことで「国民の皆様から信任を得た」という大義名分を得ようとしているということ。

◆もり・かけ疑惑と「国民の信任」
その後に安倍首相は森友学園問題、加計学園問題に言及しますが、「閉会中審査に出席」したことをもって「丁寧に説明する努力を重ねてまいりました。今後とも、その考えに変わりはありません」としています。

この後に野党の批判に触れつつ「国民の信任」「国民の皆様の信任を得て」と2度も信任という言葉を使います。つまりは今回の選挙に勝てば「国民の皆様の信任を得た」事になり、いわゆるもり・かけ疑惑を「丁寧に説明する努力」をよしと認めてもらったと解釈するということになります。


実際には佐川国税庁長官も安倍昭恵首相夫人も加計孝太郎理事長も証人喚問されることなく、森友学園の土地取得に関する録音データへの疑惑も追及される事なく、選挙に勝ったから疑惑はおしまい、禊ぎは済んだ、ということにされるということ。

◆「90議席減らしても過半数だから勝利宣言」の理由
このようにして見てくると、安倍首相が今回の解散・総選挙を「国難突破解散」と名付け、北朝鮮の脅威を煽り、社会保障の充実を謳い、もり・かけ疑惑に言及しながらも勝敗ラインを過半数の233議席という、現有議席の323議席から90議席も低いラインに設定した理由がよく分かります。

つまりは各種疑惑の追及や「希望の党」「野党連合」などの躍進によって仮に90議席減という2/3を大幅に割り込む大敗北を喫したとしても、無理矢理に「勝利宣言」をすることでもり・かけ疑惑をチャラにし、北朝鮮への強硬姿勢を正当化し、消費税10%への増税に「国民の理解を得た」というお墨付きを手にしようということです。

90議席までなら失ってでも、安倍首相が勝敗ラインと決めたから勝ち。勝ったら疑惑は終了で増税も北朝鮮政策も信任したことにする、果たしてそれでいいのでしょうか?

首相、衆院選の勝敗ライン「与党で過半数の233議席」:日本経済新聞

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