中韓などへの技術者流出、リストラと冷遇という日本企業の自業自得であることが明らかに


Photo by 健 陈

日本の技術者の流出が叫ばれていますが、当の日本企業による技術者の放出や冷遇に大きな原因があることが浮き彫りにされています。


◆電機トップ技術者1000人流出という衝撃
日経新聞が10月6日に掲載した「電機トップ技術者1000人流出 中韓、70年代から引き抜き」という記事で文部科学省の科学技術・学術政策研究所の藤原綾乃主任研究官が行った日本の技術者の追跡調査について詳しく報じています。

それによると、76年から2015年春まで約40年の間に日本の電機メーカーから韓国企業へ490人、中国企業には196人、台湾やタイなどにも計350人の技術者が移動していたことを確認しました。

これは40年間のアジア域内の技術特許の内容を検証し、日本メーカー在籍時の特許申請名と海外に転籍した後の名前が一致するケースを照合して特定したものであり、いわばトップクラスの技術者のみに限った話でしかありません。

記事中では中国メーカーに勤める日本人技術者は「00年代半ばには数千人の日本人技術者が中国にいた」と証言したことが明らかにされています。

◆技術者たちが海を渡った当然すぎる理由とは
いったいなぜ1000人規模のトップクラスを始めとしてそんなにも多くの技術者が海を渡ったのでしょうか?その答えは記事の冒頭に明確に記されていました。それは「主に90年代以降の大量リストラであふれた日本の中核人材を中韓などが招請」というもの。

バブル崩壊の後に起こったリストラの嵐の中で、技術者は会社から放り出されるか低賃金低待遇で冷遇されるかという状況が発生していました。「失われた20年(最近は失われた30年とも言います)」という呼称が指し示すように、日本経済はその後も勢いを取り戻すことはありませんでした。

Photo by Martin Thomas

IT(情報技術)バブル崩壊やリーマン・ショックが00年代に発生し、居場所を失った半導体技術者らは引き続き海を渡って活躍の場を求めていくことになりました。その理由はもちろん高賃金高待遇です。

記事内ではサムスングループの「年収は額面で3割以上高く、単身者でも3LDKの住居に住める」といった話や今年に入っての東芝の技術者に対する「年俸3千万円。工場立ち上げが軌道に乗れば5千万円の成果報酬を約束します」という、日本企業に比べれば「破格の高待遇」と言うしかない話を紹介しています。

今年6月には中国の通信機器大手Huawei社が学士卒の新卒初任給を40万1000円としたことが大きな話題となりましたが、優秀な人材を高い報酬と十分な待遇で迎えることは日本を除いた世界の常識と言っていいでしょう。

なお、ネット上では「サムスンなんかに金で釣られて入っても数年で技術だけ盗られてポイ捨てされる」という嫌韓混じりの迷信が囁かれていましたが、この記事内では前述の技術者が「12年のサムスン退社後も同社出身という抜群のネームバリューで韓国での職探しで苦労することはない」事が明記されています。

◆日本側のお粗末すぎる対応
技術者が高賃金高待遇で海外に流出するのであれば、引き留めるために必要なのは海外の企業よりも高賃金高待遇であることは火を見るよりも明らかです。しかし、残念ながら日本企業は未だに技術者の待遇改善には消極的なままです。

青色LEDを発明した「日本出身のアメリカ人」である中村修二氏が日本を去ってアメリカ人になった大きな理由がノーベル賞をもたらした青色LEDに対する日本企業のあまりにもセコい態度であった事は有名です。

Photo by Lux magazine

青色LEDの発明と実用化によって日亜化学工業は多くの特許を取得し、莫大な利益を上げたものの、社員だった中村修二氏がこの発明に対して受け取ったのはわずか2万円の報奨金のみ。

中村修二氏は青色LED発明当時に在籍していた日亜化学工業に対し、発明品の特許権の帰属と発明対価として200億円を求めて通称「青色LED訴訟」と呼ばれる訴訟を起こしましたが、結局8億4391万円の和解金を受け入れざるを得ない状況に。

中村氏はノーベル物理学賞に対する記者会見でも「日本の研究者はサラリーマンで、良い研究をしてもボーナスが増えるだけ」「日本には自由がない」と日本企業のあり方を批判していますが、同様の事態が日本中の技術者に起こっていると考えるのが妥当です。

日本政府は「我が国製造業のおける技術流出問題に関する実態調査」を2006年の時点で行っていましたが、それ以降も有効な対策を打ててきませんでした。

ようやく2017年10月に技術の流出を防ぐための安全保障などに関わる高度な技術の海外流出の防止を強化した改正外為法を施行、さらに技術者が転職した海外企業で国内の重要技術を漏らした場合に処罰できる規定を用いての監視強化を急ぎますが、技術者の賃金や待遇の保証の話はどこからも聞こえてきません。

そもそも日本企業も70年代にはシリコンバレーから高額の報酬でアメリカ人技術者を引き抜いて技術を得ようとしてバッシングされた過去もあり、こうした技術の「移動」を完全に止める
ことは事実上不可能です。

であれば何よりも「外国企業に行こうと思わない環境作り」が目下の最大の目標のはずですが、目先のコストばかりを気にして結局大切な技術者に逃げられるのであれば、リスクマネジメントの大いなる失敗と呼ばざるを得ないのではないでしょうか?

電機トップ技術者1000人流出 中韓、70年代から引き抜き:日本経済新聞

(Photo by 健 ?, Martin Thomas, Lux magazine


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