休暇は完全に仕事から離れて休むための時間ですが、日本社会はまだその基本すら理解できていないようです。
◆仕事と休暇を組み合わさせられるという地獄
「旅先で休暇を楽しみながら仕事もこなす」という悪夢のような仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた「ワーケーション」が広がり始めたと日経新聞が報じています。
この目的は「休暇先での仕事を認める」ことによって「確実に長期休暇を取りやすくする」ことだとしていますが、既にこの時点で大きな矛盾が生じていることに気付いていないことは致命的です。
夏休みに吐きそうな量の宿題を押しつけられて育ってきた日本人にはあまり実感できないのかもしれませんが、休暇というのは仕事を離れ、仕事の責任からも離れ、仕事のことなど何も考えずにプライベートな時間をゆっくりと、思う存分楽しむ事を指します。
「休暇先での仕事を認める」ことは単に出先で仕事をしているだけで、在宅勤務やリモートオフィスと変わりありません。そう、つまりこれは休暇ではありません。
記事中では日本航空の例が紹介され「半日単位で認められ、利用した日は出勤扱いとなる」とされていますが、まさに「休暇中に旅行先から出勤させている」事になります。
日経新聞はツイッター公式アカウントで「『休暇中は仕事を離れて』が理想ですが、どうしても外せない会議や仕事ができてしまう場合もあります」としていますが、「休暇中は仕事を離れて」は理想ではなく当然の権利です。
「休暇中は仕事を離れて」が理想ですが、どうしても外せない会議や仕事ができてしまう場合もあります。長期休暇を促すために、旅先でも短時間働ける仕組みや環境を整えようという動きが広がっています。#ワーケーション
— 日本経済新聞 電子版 (@nikkei) 2018年3月31日
▶旅先で仕事「ワーケーション」認めます 長期休暇促すhttps://t.co/PQiE89Oprk pic.twitter.com/Rw16nCn4lQ
どうしても外れない会議や仕事ができてしまうのであれば、その会議の日程をずらすなり、その人が休暇を取っても仕事が回る体制を整えておくことが企業側の責務。
それができていないのであれば企業のマネジメントの致命的な欠如でしかなく、休暇中の社員に出勤を強いる事は下策中の下策と言わざるを得ません。
◆日本社会とワーケーションという最悪のコンビ
ここまでワーケーションという概念のおかしさを指摘してきましたが、実際に日本社会でこの制度が広まる時に何が起こるのかを考えてみれば、どれだけ危険な代物かがよく分かると思います。
記事内で紹介されている日本航空の制度では「仕事を持ち帰って休暇中にこなすことは禁止で、やむを得ず入った仕事や休暇明けの準備などの目的で利用できる」としています。
ですが、過労死ラインを超えた長時間労働が常態化している日本で実際に広く導入されれば「仕事を持ち帰って休暇中にこなす」ためにこの制度の利用を促される未来しか見えてきません。
また、日本航空は「利用した日は出勤扱いとなる」と定めていますが、これはあくまで民間企業の取り組みの一例でしかなく、出勤扱いにせよという法律があるわけでもありません。
つまり休暇中に無理矢理ワーケーションを使わせて仕事をさせた上に「有給休暇はしっかりと消化させています」と企業が申告することも可能ということ。サービス残業が蔓延る日本社会の現状を考えればこれをあり得ないと言える人は誰もいないでしょう。
この制度結局のところ会社の都合で従業員の休暇中に「やむを得ず入った」とする仕事をやらせたり「休暇明けの準備」をしておくこと、さらには「仕事を持ち帰って休暇中にこなすこと」を強いる「回路」を作る事にしかなりません。
果たして日本社会でブラック企業の求めを振り切ってこのワーケーションの利用を拒絶できる従業員がどこまでいるでしょうか?断れないのであればもうこれは「強要」でしかありません。
◆リモートオフィスや在宅勤務とワーケーションは全く別物
ネット上では既にこのワーケーションは袋だたき状態になっていますが、気になるのはリモートオフィスや在宅勤務と比較している人がちらほらいること。
リモートオフィスなり在宅勤務が通勤の手間や費用、体力などを省くことは事実ですし、これらが普及することはメリットも大きいでしょう。しかしそれはあくまで勤務形態の話であり、休暇に仕事を持ち込ませるワーケーションとは全く別物です。
例えばネットがあれば仕事ができるという理由でタイのビーチやインドの山奥に滞在しながら仕事をしていた人を筆者は実際に見たことがありますが、彼らは単に自分が仕事をする場所を自分で選んでいるだけで、休暇を仕事に土足で踏み荒らさせていたわけではありません。
仕事と休暇の境界線を曖昧にし、本来ならば全てプライベートに使えて当然なはずの時間に仕事を押し込めようとする行為の結果、利益を得るのは会社だけです。これまでなら「休暇をやめるしかなかった」のにワーケーションのおかげで休暇を楽しめると思ってしまった方、ずいぶんと日本社会の歪みに馴染んでしまっている自分に思いを馳せてみるタイミングかもしれません。
最後に仕事なんて放り出して思いっきりバケーションを楽しみたくなる動画を掲載しておきます。
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旅先で仕事「ワーケーション」認めます 長期休暇促す:日本経済新聞
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