高プロはやはり経営者側のための「働かせ方改革」でしかなかったことを安倍首相本人が白状しました。詳細は以下から。
BUZZAP!でも繰り返し危険性を指摘してきた「残業代ゼロ法案」こと高度プロフェッショナル制度。
厚労省の調査がデタラメだったことが発覚し、裁量労働制の拡大が潰れた後も「働き方改革」の片翼としてしぶとく生き残っていましたが、その立法事実を安倍首相自らが嘘だったと正式に認めてしまいました。
◆「高プロ」がどれだけ危険な制度か
おさらいしておくと、高度プロフェッショナル制度(以下、高プロ)とは(現状では)年収1075万円以上の高度な専門知識を扱う専門職を対象に、一定の要件の下で労働基準法の1日8時間、週40時間の労働時間規制を撤廃するという制度です。
この制度の下では、該当者に労基法4章の労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定が適用されなくなります。つまりは1日8時間、週40時間の労働時間規制が無くなりますから「残業」自体が存在しないことになってしまうのです。また、休日出勤や夜勤などでの割増料金の支払いもありません。
健康確保措置が設けられていますが、以下の3種類のうち1つだけを選べばいいという極めてずさんなもの。
四 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。
イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。
ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。
ハ 一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を確保すること。
これによって以下のような働かせ方すら「合法化」されることを当時の塩崎厚労相が国会で正式に認めています。
予算委員会。岡本充功議員「残業代ゼロ法案(高度プロフェッショナル制)が成立すれば1日13時間の連続勤務を360日続けて、年に5日だけ休ませる、という働かせ方が可能になるのか」。塩崎大臣「理論的には、そういうことになります」絶句!#fb pic.twitter.com/dMcsb8mnRF
— 山井和則 (@yamanoikazunori) 2015年2月25日
◆成果主義でもなく、一部の高所得者向けでもなく、「過労死」認定すらされなくなる
また、高プロに付いては与党や一部メディアなどが意図的と思わざるを得ない誤解を振りまいています。それが「時間に縛られない働き方」「成果主義になる」というもの。
残念ながらこの法案のどこにも成果主義になるという記述は一切なく、どのような成果主義による賃金支払いを義務づける制度の導入も記されていません。
また「年収1075万円以上」が対象とされているため、自分には関係ないと考えている人も多いかもしれませんが、これは単に政府案で示されている数字に過ぎません。
法案には「基準年間平均給与額の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること」とありますが、法案成立時に年収1075万円だったとしても、それ以降は国会で法改正をすることなく、厚生労働省の省令によって対象となる額が変更してしまえるつくりになっています。
最後に労働時間規制がなくなり、「残業」という概念が適用されなくなることから、長時間労働への歯止めが効かなくなる可能性が強く指摘されています。高プロは「裁量労働制」ではないため、雇用側がノルマや働き方への指示を与えることも可能。
つまり「この仕事をやれとは言ったが、本人の能力が足りないから長時間労働になっただけで過労死は自己責任」という言い逃れを可能としてしまいます。この事実は実際の労災認定にも大きな影響を与える恐れがあると考えられており、総じて雇用者側を免責する働きをします。
◆安倍首相自らが立法事実を否定
さて、こうした状況下で安倍政権は粛々と高プロを含む「働き方改革」の今国会成立を目指していますが、6月25日の参院予算委員会で安倍首相自らがこの法案の立法事実を堂々と否定してしまいました。
既に高プロ創設に対して労働者にニーズを聞き取ったとされるヒアリング結果はたった12人に対して行なったものに過ぎず、しかも法案要綱が示された2015年3月2日の前には誰にもヒアリングしていないという後付けの大嘘だったことが判明しています。
その12人に関しても全て匿名とされていることからヤラセとの指摘も相次いでおり、加藤厚労相の虚偽答弁も発覚するなど、法案としては既に空中分解状態となっています。
それでもなお安倍政権が議席数だけを頼みにこの高プロをどうにかして成立させたい理由とは何なのでしょうか?
国民民主党の伊藤孝恵議員が高プロ旗振り役として知られる竹中平蔵パソナ会長の言葉を並べた後、「この期に及んでなお、労働者のニーズがあると答弁するのか?」との質問に対して安倍首相は以下のように語っています。
高度プロフェッショナル制度はですね、産業競争力会議で、経済人や学識経験者から制度創設の意見があり、日本再興戦略において、とりまとめられたもの。
その後、労使が参加した労働政策審議会で審議を行い、とりまとめた建議に基づき法制化を行なったものであろうと思います。本制度は望まない方に適用されることはないため、このような方への影響はありません。
このため、適用を望む企業や従業員が多いから導入するというものではなくて、多様で柔軟な働き方の選択肢として整備するものであります。
利用するか分からないという企業が多いと言われていますが、経団連会長等の経営団体の代表からは高度プロフェッショナル制度の導入をすべきとのご意見を頂いておりまして、傘下の企業の要望がある事を前提にご意見を頂いたものと理解をしているところであります。
(参議院インターネット審議中継 2018年6月25日 予算委員会より、該当部分は48:20から)
としています。つまり、安倍首相は質問に対して労働者のニーズに対して一言も触れず、経団連会長を含む経営側からの要望があった事から高プロを導入するのだと説明しているのです。
ですがこれは法案を提出する理由たる立法事実の「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を推進するため(編集部注:リンク先78ページ)」に完全に反しています。
つまり高プロは、労働者から一切ヒアリングすることなく法案要綱を作り、担当する厚労相が虚偽答弁を行ってまでニーズを捏造した挙句、安倍首相本人が労働者ではなく経団連会長ら経営団体からのニーズであった事を白状してしまったのです。
実に最初から全てが嘘で塗り固められた法案でしかなく、その嘘も全てバレた上に安倍首相本人が嘘だったことを認めた時点で立法事実が完全消滅したわけですから、立法府としてはこの法案は廃案にする以外ありません。
このまま与党が高プロを成立させるのであれば、立法府がでっち上げられた(そしてそれが完全にバレた)嘘のニーズに基づいて法律を作るという、法治国家として致命的な自爆を行う事になります。
与党議員らは自らの1票が日本という法治国家を跡形もなく踏み潰す可能性をよく考えるべきではないでしょうか?
KADOKAWA (2018-07-07)
売り上げランキング: 278,421
・関連記事
「裁量労働制拡大」の今国会断念でもしぶとく生き残る「残業代ゼロ法案」の片翼「高度プロフェッショナル制度」の恐怖 | Your News Online
【?】政府「裁量労働制の拡大を邪魔するなら残業時間の上限規制もできない!」 | Your News Online
安倍首相の「裁量労働制のデータは不適切だから答弁撤回するけど、厚労省に言われただけで再調査も不要でデータ撤回はしない」はいかに無理筋なのか | Your News Online
日本政府「契約社員や最低賃金で働く労働者も裁量労働で使い潰して構わない」と閣議決定 | Your News Online
「残業代ゼロ法案」また復活、「脱時間給」法案と名を変えて臨時国会での成立を目指すことが判明 | Your News Online
全てのブラック企業が合法化!?与党が参院選後に成立を目指す恐怖の「残業代ゼロ法案」 | Your News Online