改憲に絡んだ首相発言が完全にひっくり返ってしまいましたが、むしろその事実の方が問題かもしれません。詳細は以下から。
厚労省の統計不正問題で大荒れの国会ですが、安倍首相が憲法改正に絡んで発言した自衛隊員募集に関する数字も大間違いだったことが岩屋防衛相によって確認されました。
◆当日に石破氏からも突っ込まれた「6割以上が協力を拒否」発言
問題となった発言は2月10日の自民党大会で安倍首相が憲法改正に言及した際にエピソードとして紹介したものです。
安倍首相は「都道府県の6割以上が新規隊員募集への協力を拒否している」と語り、「憲法にしっかりと自衛隊と明記して、違憲論争に終止符を打とうではないか」と改憲の必要性を強調していました。
なお、同日に防衛相の経験のある石破茂元幹事長は「『憲法違反なんで自衛隊の募集に協力しない』と言った自治体を私は知らない」と語り、「去年は自衛隊を憲法違反と言っている学者がいるから、憲法を変えるという論法だった。今年は自衛隊募集に協力しない自治体があるから、憲法を変えるという論法だった」とも指摘しています。
◆岩屋防衛相が首相発言を否定
安倍首相は2月12日の衆院予算委員会で、党大会での発言について「正しくは都道府県と市町村だ。自治体だ」と修正しましたが、岩屋防衛相はその後の記者会見でこの首相発言が間違いである事を公に認めてました。
岩屋防衛相によると、募集対象者の情報提供について、全国1741市区町村のうち、4割から氏名や住所などの資料提供がある他、「3割は(自治体が)該当情報を抽出して閲覧」、「2割は防衛省職員が全部を閲覧して自ら抽出しなければならない」、「1割はそういう協力もいただけていない」と述べており、実際には約9割の自治体が防衛省職員の住民基本台帳閲覧を認めています。
なお防衛省担当者によると、台帳閲覧を認めていない1割の自治体でも、学校などでの説明会開催や広報活動などには協力しているとのこと。全く協力していない自治体は全国で「5自治体のみ」という事でした。
◆自治体の「9割が協力」そのものが問題という指摘
ということで安倍首相の発言を閣僚が否定するという事態となりましたが、むしろ自治体の9割が自衛隊員募集に協力している事の方が問題だという声も上がっています。
これはつまり、先日大きな反響となったTポイントカードをはじめとする大手ポイントカード会社などが利用規約への明示もなく、令状無しでの捜査当局への情報提供を行っていた問題と同じ構図なのではないかという話です。
しかも任意に加入する民間のポイントカード会社と違い、住んでいる自治体の住民基本台帳には否応なく個人情報が掲載される事になります。そうした個人情報が、本人の了解を得ずに防衛省に利用されている状況はより深刻と言えるのかもしれません。
憲法学者の独協大、右崎正博名誉教授は「個人情報保護の観点からは、本人の了解を得ずに提供することには大きな疑問が残る。自治体が名簿提供を拒否しても間違っているとはいえない」と指摘しています。
現状でもこうした状況なわけですが、改憲後は全自治体で募集対象者の個人情報が防衛省に筒抜けになるのでしょうか?
【2/13 17:20追記】
安倍首相が2月13日の衆院予算委員会で、自衛官の募集について「6割以上の自治体は法令に基づく防衛相の求めに応じず、資料を提出していない。募集に対する協力の現状は誠に残念と言わざるを得ない」と発言しました。
合せて「住民基本台帳法に基づく閲覧は見るだけで、写しの交付は行われない。膨大な情報を自衛隊員が手書きで書き写している。これは協力していただけないと考えるのが普通だ」とも主張。
進んで募集対象者の個人情報を提供しなければ、例え住民基本台帳の閲覧を認めていたとしても協力には当たらないとする立場を鮮明にした事になります。
つまりは首相自ら「自治体は進んで住民の個人情報を国に提出すべき」という考え方を示したことになり、今後の自治体の対応にも大きな影響を与える可能性があります。
こうした方向性で改憲が行われれば、やはり全自治体で募集対象者の個人情報が防衛省に筒抜けになることは避けられなそうです。
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