多くの国民は「37.5度、4日待機」は厚労省が定めたPCR検査のための要件だと考えてきましたが、厚労相は誤解であると国会で答弁しました。
4日経っていないことを理由に保健所に検査を断られたケースも相次いでいますが、これは本当に私たちの誤解だったのでしょうか。事実関係をチェックしてみました。
◆加藤厚労相「37.5度、4日待機はPCR検査要件ではなく目安」
問題となった国会答弁が行われたのは2020年4月29日の参議院予算委員会での立件民主党の蓮舫議員による質疑の中でした。
蓮舫議員が「37.5度、4日待機」が基準とされているPCR検査の要件を緩和するように求めた際、加藤厚労相はこの基準について「誤解がある」と答弁。以下、当該部分を書き起こします。
加藤厚労相:
これは別に検査を受ける要件ではなくて診療の目安ということ。これについては37.5度4日というのは、そこを超えるなら必ず受診していただきたいということで出した。
倦怠感等がある、これも4日だ、あるいは37.5度と倦怠感の両方だという誤解がありましたが、それはそうではないんだと。
倦怠感があればすぐに連絡していただきたい。こういうことは幾度となく周知しています。さらにまたそうした誤解があれば解消するよう努力をしていかなければならないと思います。
蓮舫:
誤解したのは国民や保健所が悪いんですか?政府がずっと説明してきたじゃないですか。尾身座長は3月10日の予算委員会でPCR検査のキャパシティの問題があったから、そして今回の場合は症状が長く続くから「まあ5日ぐらいまで、一般の人は3日ぐらいまで、まあ4日というのが普通の人です」とすごくざっくりとした説明をしたのですが、それを受けて厚労省は4日以上、37.5度以上、だるさ、息苦しさ、だから電話相談したら「あなたは典型例に合わない。まだもっと家にいてくれ。その症状だと外来につなげません」と断られているんです。誤解じゃないでしょ。誤解を生んだのは厚労省の説明じゃないですか。ちゃんと直してください。
◆厚労省の保健所などへの通達では「37.5度、4日待機」がベースに
さて、ここでまず見ていただきたいのは2020年2月17日に厚生労働省健康局結核感染症課が各都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部に宛てた「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安について」とする通達です。
これは「新型コロナウイルス感染症専門家会議の議論を踏まえ、一般の方々に向けた新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安」としてまとめられたもの。
そして厚労省は通達先に対して「内容を御了知の上、関係各所への周知及び住民の方々への情報発信を行っていただきますようお願いいたします」としています。
そして厚労省が「帰国者・接触者相談センターに御相談いただく目安」として挙げているのが以下のもの。
〇以下のいずれかに該当する方は、帰国者・接触者相談センターに御相談ください。
・ 風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く方
(解熱剤を飲み続けなければならない方も同様です。)
・ 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある方
(新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安についてより引用)
高齢者や糖尿病などの基礎疾患を持つ人、人工透析を受けている人、面延期抑制剤や抗がん剤治療を受けている人、妊婦については「この状態が2日程度続く場合」に相談するよう求めています。
この時点で厚労省は相談の目安として「37.5度、4日待機」を明示しており、内容を了知の上で関係各所への周知、住民への情報発信を求めています。
同日に各都道府県、保健所設置市、特別区の民生主管部に向けた「『新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安』を踏まえた対応について」でも同様の目安を掲載しており、参考資料として提示した「新型コロナウイルスを防ぐには」とする書類でも以下のように「37.5度、4日待機」としています。
この1ヶ月後、3月22日にふたたび出された「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安について」とする通達では注意点として以下のように指摘されています。長くなりますが引用します。
〇帰国者・接触者相談センターに御相談いただく目安として、「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く方」「強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある方」を挙げていますが、両方の条件がそろわないと相談できないと受け止められているのではないかとの声もあります。これら2条件がともにそろった方ではなく、どちらかの条件にあてはまる方には、帰国者・接触者相談センターまで御相談いただき、帰国者・接触者外来への受診調整を行う等の対応をお願いします。
○ また、目安では「風邪の症状や37.5度以上の発熱」のある方については「4日以上」となっているので、「強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)」のある方についても、4日以上続くことが必要と受け止められているのではないかとの声もあります。「強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)」のある方には、直ちに帰国者・接触者相談センターまで御相談いただき、帰国者・接触者外来への受診調整を行う等の対応をお願いします。
(新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安についてより引用)
ということで、2つの条件が揃わなくてはいけないわけではないこと、強いだるさや息苦しさがあれば直ちに相談できるとしています。
ですが、強いだるさや息苦しさを伴わなければ「37.5度が4日以上続く」ことが検査の目安というのは「誤解」ではありません。この基準は現時点でも同様で、厚労省公式サイトの「国民の皆さまへ (新型コロナウイルス感染症)」というページにも明記されています。
そしてこのような厚労省からの通知があった以上、都道府県の保健所でこれらの「目安」が要件としてルール化されることは言うまでもありません。
管轄官庁からの通達を無視することがいわゆる下部組織にとってはあり得ない話であることは、公的機関と仕事をした経験のある人であれば誰でも知っています。
もちろん厚労省も通達を出す以上そのことは重々承知している話なので、ここでの「目安であって要件ではない」という答弁は「募ったが募集はしていない」と同レベルの言い逃れでしかありません。
◆専門家会議も「37.5度、4日待機」を一貫して主張
なお、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長の3月10日の参院予算委公聴会での発言は以下のとおり。
尾身副座長:
はっきり申し上げたのは、4日というのは普通の人です。高齢者、基礎疾患のある人は2日となっていて、個人的には初日でもいいと思います。そうすると例の、(対応機関が)いっぱいになっちゃうというのがある。
一般の人がなぜ4日かというと、国内の患者を診た臨床家の先生によると、どうも今回の場合は症状がずいぶん長く続いて5日ぐらいまで。で、症状が悪くなるのは1週間超えてということになるので、一般の人は3日くらいまでは我慢していただいて。ただし高齢者については4日じゃなくてもっと前にして、症状で特にだるさは今回の特徴と。あと初日から息切れや息の速さがあって、それは初日から。
加えて、政府対策本部の専門家会議や厚労省クラスター対策班等の関係者で組織された専門家の有志の会である「コロナ専門家有志の会」は4月8日のポストで「持病がない64歳以下の方は、風邪の症状や37.5℃以上の発熱でも4日間はご自宅で、回復を待つようにしてください」と明言。
「#うちで治そう」「#4日間はうちで」「#風邪か熱が4日」といったキャッチフレーズで自宅待機を呼び掛けています。
そして4月22日、専門家会議は記者会見で疑い例についての見解を更新。そこでは高齢者や基礎疾患がある重症化リスクの高い人、妊婦に対し「肺炎が疑われるような強いだるさ、息苦しさ、37.5℃以上の発熱が続くなどの症状が、ひとつでもある場合は、4日を待たずすぐに相談して欲しい」と、発熱初日の相談も積極的にしてほしいと呼びかけています。
お分かりでしょうか。この時点でも尾身副座長の言葉を借りれば「普通の人」に対しては「37.5度、4日待機」という基準は変更されていません。
なお、この記者会見では釜萢敏委員が「37.5度、4日待機」について「普段あまり受診されていない方でも体調が悪い状態が4日も続くようなら受診してくださいという趣旨だった」と嘘の釈明をして炎上しています。
現実問題として女優の岡江久美子(享年63)さんは4月3日に発熱し、医師から様子を見るようにと言われた後の6日に病状が急変し入院。その後PCR検査で陽性となりましたが、23日に死去しました。
なお志村けん(享年70)さんも3月17日に倦怠感を覚えて自宅静養したものの、19日には発熱と呼吸困難が出現し、20日に訪問診察した医師の判断で入院。PRC検査陽性判明は23日で、29日に死去。高齢者らへの「2日待機」も手遅れになる可能性があることが分かります。
◆結論「37.5度、4日待機」は政府方針でした
ということで、政府の下で感染対策について医学的な見地から助言等を行う専門家会議が国会で答弁し、自ら発信した記事でも明言しているのが「37.5度、4日待機」という基準。そして厚労省も通達において明確に「37.5度、4日待機」をうたっており、現在までその基準は変更されていません。
PCR検査の要件自体について誤解が生じた部分はあったにせよ、「37.5度、4日待機」というベースについては政府の一貫した方針となっており、保健所や国民が誤解したわけではなかったということになります。
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