「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)」と呼ばれるアメリカを代表するIT企業たち。
日本でもそれらが提供するサービスは広く普及しており、「プラットフォーマー」として市場に君臨することの弊害が懸念されていますが、なんと『日本はGAFAの言いなりになるしかない』という取り決めが結ばれていました。詳細は以下から。
◆日米デジタル貿易協定とは?
まずチェックしておきたいのが2019年12月4日に日本の国会で承認され、2020年1月1日に発行された「日米デジタル貿易協定」。デジタル貿易分野における高い水準のルールを確立し、日米両国がデジタル貿易に関する世界的なルールづくりにおいて引き続き主導的な役割を果たす」ことを目的としています。
「デジタル貿易」というのは、近年著しく発展するデジタル技術を用いた商品やサービスの国境を越えた取引全般のことを指しています。
具体的には自動運転車や産業用ロボットなどに加え、5G技術やAIを用いたサービス、電子マネーなどによる電子決済、そしてインターネット上での商品やサービスの売買も含まれています。
こうしたデジタル技術を支えているのは、米国のGAFAや中国のアリババのようなプラットフォーマーと呼ばれる巨大企業です。
身近なところで言えば、私たちの生活に今やなくてはならない存在となったスマホ。これらのOSはAppleのiPhoneやiPadに用いられる「iOS」とGoogleが開発し、多くのメーカーが採用する「Android」に二分されています。
そしてスマホを使う時に欠かせないのがアプリたち。SNSやブラウザ、ゲーム、カレンダーやメモ帳に至るまで、スマホを使うことは「スマホ上のアプリを使う」こととほぼ同義です。
そしてご存じのように、アプリを入手するにはiOSなら「App Store」、Androidなら「Google Play」からダウンロードしなければなりません。その際に既定の手数料がプラットフォーマーに支払われていくことになります。
このようにデジタル技術の多くは、使うたびにプラットフォーマーにいわゆる「ショバ代」が落ちる構造であることを押さえておく必要があります。
◆日米デジタル貿易協定の抱える大きな問題
ここで、日本貿易振興機構(ジェトロ)による日米デジタル貿易協定が何を定めているかの説明を見てみましょう。
・締約国間のデジタル製品(例えば、ソフトウエア、音楽、ビデオ、電子書籍)の送信に関税を課さない。
・他方の締約国のデジタル製品に対し、他の同種のデジタル・プロダクトに与える待遇よりも不利な待遇を与えてはならない。
・自国における事業を行うための条件として、データのローカライゼーションを要求してはならない。
・ソースコード、アルゴリズムの移転要求禁止。
・SNSなどの双方向コンピュータサービスについて、情報流通などに関連する損害の責任を決定するに当たって、提供者などを情報の発信主体として取り扱う措置を採用し、または維持してはならないことなど。
(日米貿易協定と日米デジタル貿易協定の主な内容について(日本、米国) _ ビジネス短信 - ジェトロより引用)
ご覧のように、相手国からのものやサービスの売買に対し、関税を掛けたり不利な扱いをすることができず、機密を独占させた上に損害の責任まで負わせないという、極めてプラットフォーマーに有利な内容となっています。
日米デジタル貿易協定が示しているのは、もともと存在するプラットフォーマーに有利な状況を日米間で壊すことなく、プラットフォーマーの利益を侵害するような措置を禁止するということ。
つまりスマホを使えば使うほど、GAFAやマイクロソフトなどの世界的サービスを展開するプラットフォーマーを数多く抱える米国の利益を保証する内容というわけです。
これは日本の資産が自動的に米国に流れ出ていくことと同義でもあり、「デジタル分野を通じて日本の富を米国の思うまま際限なく流出させてしまう協定」ということになります。
◆プラットフォーマーに戦いを挑む「フォートナイト問題」
この問題を考えるにあたって避けて通れないのがEpic Games社の開発した超人気ゲーム「フォートナイト」の問題です。フォートナイトは基本無料ですが、プレーヤーが自キャラ用の「スキン」などを購入することで多額の収益を上げてきました。
ですがAppleとGoogleはアプリ内課金の売り上げの最大30%を手数料として徴収しており、この「30%税」とも呼ばれる一方的なシステムを不服としたEpicが8月13日、フォートナイトの内部で「App Store」や「Google Play」を迂回してEpicに直接支課金できるようにしました。
これに激怒したAppleとGoogleは相次いでフォートナイトの配信を停止。この配信停止を受けてEpic GamesはかつてAppleが1984年にMacintoshを発表した際のプロモのパロディとなる動画を公開。同時にAppleとGoogleを提訴しました。
これは同時にディストピア小説「1984年」へのオマージュにもなっており、プラットフォーマーという独占的な立場を用いた市場支配に異を唱える形になっています。
Appleはこれに対してEpic Gamesの開発者アカウントを停止し、同時に世界のゲーム開発者の間で広く普及しているEpicのゲーム制作ツール「Unreal Engine」の排除を通告。
これを受け、連邦地裁判事はフォートナイト配信停止は妥当としながらも、サードパーティのゲームやアプリでも使われている「Unreal Engine」の排除は第三者の開発会社やユーザーを巻き込む報復として差し止めを命じました。
結果的に8月28日、Epic Gamesの開発者アカウントが停止され、iOS上でのフォートナイトのアップデートが不可能となっており、両者痛み分けの状態でにらみ合いが続ています。
◆ロシアがEpic Gamesに同調、「30%税」強制引き下げ法案を提出
このフォートナイト問題に呼応したのがロシアです。ロシアのFedot Tumusov下院議員は「App Store」と「Google Play」の手数料をアプリ価格の20%を上限とする法案を提出。
加えてこの法案には、Googleと違ってサードパーティによるアプリストア許可を認めていないAppleに対し、アプリストアの許可を強制する内容も含まれています。フォートナイト問題は当初はEpic GamesとAppleという私企業同士の争いでしたが、これにロシアという巨大な国家が介入したことになります。
現在は法案の段階ですが、成立すればフォートナイト問題はプラットフォーマーによるアプリストア「30%税」を巡る国際問題となります。
なお、同時期に韓国のアプリ開発企業らがAppleとGoogleのアプリ内購入仕様について政府に調査を求め、MSIT(科学技術情報通信部)が調査を開始しています。
いずれのケースも巨大なプラットフォーマーが市場を独占し、極めて強い立場を盾に「30%税」という利益を貪っていることへの対抗措置と呼べるものです。
◆日米デジタル貿易協定が日本にもたらすもの
フォートナイト問題、ロシアと韓国の国としての対応を見れば分かるように、プラットフォーマーによる独占的な体制には多くの批判が集まっているのが現状です。
ですが日米デジタル貿易協定の内容は、日本政府と日本企業によるこうした異議の申し立てを強力に縛り、封じようとするものとなっています。
もちろん日本発の世界的アプリやプラットフォームに対して米国側が文句を言えなくなるというメリットも理論上はありますが、そうしたアプリやプラットフォームを日本が作れていないことはいまさら指摘するまでもありません。
なお、BUZZAP!編集部ではこれまでの日米デジタル貿易協定に関する報道を調べてみましたが、テレビ・新聞共に極めて少ないのが現状です。Googleでニュース検索をしても上記のJetroや外務省のサイトがトップでヒットするありさまで、日本人が危機感を持つ前に既成事実化されてしまった感があります。
繰り返しになりますが、日米デジタル貿易協定は実質的に「デジタル分野を通じて日本の富を米国の思うまま際限なく流出させてしまう協定」。TPPから離脱した米国のために、2019年12月4日に衆参合わせて30時間弱の審議時間で無理矢理成立させましたが、これがどれほどの国益を損なうのか、明確な検証が必要です。
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