【コラム】教員の負担軽減のため保護者が校舎消毒、「スクールサポーター」がこの上なく危険な理由



東京新聞が半ば美談であるかのように掲載した「スクールサポーター」についての記事がネット上で物議を醸しています。

一見とてもよい試みのように見えるかもしれないこの「スクールサポーター」、どこがどのように危険なのか解説します。詳細は以下から。


◆「スクールサポーター」とは?
問題となっているのは東京新聞が9月12日付で掲載した「保護者が校舎消毒します 府中市立府中第五小で自主組織が初出動「教員の負担軽減に」:東京新聞 TOKYO Web」という記事。


記事では新型コロナの感染から児童を守ると同時に教員の負担軽減も目指し、東京都の府中市立府中第五小学校の保護者らがボランティアで校舎を消毒する取り組みについて紹介しています。

これは保護者有志が結成した「スクールサポーター」の活動の一環で、平日の放課後に参加できるメンバーが来校し、教室の出入り口などを消毒するというもの。将来的には学校行事の手伝いなど活動の幅も広げる予定としています。

「スクールサポーター」は8月に発足したPTAとは異なる自主組織で、希望する保護者が事前登録し、自身の都合に合わせて来校日をメールで伝えます。同校の児童がいる590世帯中65人が登録しているということ。

9月7日の初の活動では14人の保護者が来校し「教室の出入り口や階段の手すり、トイレの扉など不特定多数が触れる場所に家庭用洗剤を吹き掛け、ぞうきんで念入りにふき取った」とされています。

◆いったい何が問題で何が危険なのか
・新型コロナ感染の危険
新型コロナに関しては、クラスターの発生した病院で清掃業者が感染した例が直近でも三重県と奈良県で確認されています。例えば三重県の例では

女性は感染者が多く出ている病棟の患者との接触はないということですが、県は病室内を清掃している際にウイルスがついた物を触って感染した可能性もあるとみて感染経路を調べています。

感染相次ぐ病院の『清掃業者の女性』も…新型コロナ 三重で新たに5人陽性判明 病院のクラスター53人に 東海テレビNEWSより引用)


とされており、これまで繰り返し報じられてきたように児童や教職員と接点がなくともものを触ることで感染する可能性があります。


児童を新型コロナから守るどころか、自分が感染すれば家庭で子供を含む家族に感染させるリスクが飛躍的に高まることは言うまでもありません。

・労災や責任問題はどうなるのか
保護者がボランティアで…という話題は耳障りはいいのですが、万が一新型コロナへの感染が生じた際、この作業に関しては何の保障も受けることはできません。

専業主婦の場合はともかく、パートなどで働いているケースでどこまで休業や治療へのサポートが受けられるかは職場次第となってしまいます。

反対に、「スクールサポーター」に参加している保護者が外部から新型コロナを持ち込む可能性もあります。無症状の感染者からも感染することは周知の事実ですが、元気に見えた保護者が実は感染している場合も十分考えられます。

またこれまでの国内の感染者への差別や誹謗中傷の数々を見れば、逆にこの活動によってクラスターが発生した場合、感染源となった保護者に批判が集まる可能性も十分にあります。

・同調圧力という日本独自の事情
加えて、こうした活動がPTAと同様に「参加しない保護者への批判やマウンティング」のための道具として機能することも十分に考えられます。

共働きやひとり親家庭で平日夕方に時間を取れないケースはいくらでもありますし、家庭に高齢者や持病持ちなどの新型コロナの感染リスクの高い人がいる場合もあります。新型コロナで仕事に影響が出て、ボランティアどころではない人も少なくありません。

現時点で当人たちがそう考えていなかったとしても、日本の同調圧力という極めて強い文化土壌を考えれば、どこかの時点で同調圧力が発生し、半強制的な参加への要望が生じてもおかしくはありません。


そうなれば各家庭の生活に大きな負担を強いるとともに、新型コロナへの感染リスクも高める結果となります。

・「教師の負担軽減」は仕事として行うべき
部活や大量の雑務を含め、教師の負担が大きく、そこに十分な対価が支払われてこなかったことはこれまでも指摘されてきた大きな問題です。

ですがそれをボランティアが肩代わりするとなれば、対価が十分に支払われない労働を対価なしで保護者が肩代わりしているにすぎません。

本来であれば人を雇い、給料が発生するはずの仕事を女性の無償労働で置き換えるという発想は、現在発生している仕事を仕分けすることなく、好意に甘えて丸投げすることにしかなりません。


当然ながらこれは前述の労災や責任問題とも関係するもの。学校として必要な仕事であるならば対価を払い、責任ある仕事を求めなければ教育が疎かにされることになります

・外部の人間の侵入という危険
なお、この「スクールサポーター」の最も大きな危険は「感染防止のため、本年度のサポーターは保護者に限っているが、将来は地域住民も登録できるようにするという」ところ。

つまり学校の近くに住んでいる見知らぬ大人が小学校に堂々と出入りするようになるということ。

松戸小3女児殺害事件の犯人、渋谷恭正容疑者が被害児童が通う小学校のPTA会長だったことを考えると、保護者ですらない地域住民が登録し、小学校内に出入りするのは大きなリスクです。

◆それらは「仕事」として行うべき
結論としては、新型コロナの感染拡大防止のための消毒や清掃も、教師の負担軽減も、仕事として人を雇い、対価を支払うべきということになります。

これまでもPTAや部活動での保護者のサポートなど、学校の活動は保護者の無償の働きに支えられてきた面があります。同時に教師にも上記のように授業以外の部分で残業代も支払われずに強いられてきた労働が多々あります。

新型コロナで教師の負担が増えていることは間違いありませんが、それは少なからぬ他の仕事でも影響があるもの。

その負担をボランティアで肩代わりするのではなく、まずはそれらが本当に必要な仕事や作業なのかを見極める必要があります。その上で、必要であれば過負荷にならないように仕事を割り振り、必要であれば仕事として依頼するのが筋ということになるでしょう。

新型コロナで「新しい生活様式」が求められている以上、ボランティアを美談とするのではなく、構造からしっかり変えていくべきところ。「自助・共助・公助」が新政権のスローガンとなるようですが、教育という極めて重要な公の場の話で感染などのリスクもある以上、公助でしっかり支えていく必要があるのではないでしょうか。

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