9条改定を含む憲法改正を自民党が明言し始めました。やはり改憲が参院選の大きな争点となりそうです。いったいどんな内容になるのでしょうか?
参院選で憲法改正を「争点にする必要はない」とした安倍首相。しかし、参院選公示直前から改憲についての発言が野党はもとより安倍首相をはじめとした自民党議員からも行われ始めており、やはり争点になることは間違いなさそうです。
◆自民党の目指す改憲とは?
では、自民党が目指す改憲とはいったいどんなものなのでしょうか?昨今の発言から読み解きます。
安倍首相は参院選公示日の街頭演説では憲法改正については一言も触れず、アベノミクスの成果の強調を行っていました。しかし、同日にニコニコ動画での党首討論で改憲について「選挙の結果を受け、どの条文を変えていくか議論を進めていきたい」「次の国会から憲法審査会を動かしていきたい」と発言。
ただし争点化については「どの条文か決まっていないからこの選挙では議論できない。必ずしも争点とする必要はない。決めるのは国民投票だ」として否定的でした。
ですが安倍首相はどのように憲法を変えていくかについて「私たちは党草案(自民党憲法改正草案)を示しており、何も隠していない」としており、基本的に改憲草案に沿った改憲を目指すものであることがこの発言から分かります。
自民党の改憲草案と現憲法の対比については自民党のサイトに草案本体とQ&Aが存在している他、こちらのサイトが解説も充実しています。改憲についての議論のたたき台となるのがこの改憲草案であるため、一読しておくことをおすすめします。
日本国憲法改正草案 自由民主党 憲法改正推進本部
改正草案Q&A 自由民主党 憲法改正推進本部
自民党憲法草案の条文解説 - 全文対照表、改正の概要、法的分析
◆9条改定の議論を進めることを明言
また、改憲で常に取りざたされる9条について、21日に安倍首相はテレビ朝日「報道ステーション」の党首討論で「自民党は(党改憲草案で)改正案を示しているが、(戦争放棄をうたった)一項、(戦力を持たず交戦権を認めないとした)二項を残したうえで『自衛隊を設置する』と書くのか、ということを議論していない。そういうことはまさに憲法審査会で議論していく」と述べて改定に向けて議論を進めていくことを明言しています。
さらに22日のBSフジのプライムニュースでも、共産党の小池晃議員の質問に対して自民党の新藤義孝議員が9条改定の提案を行うことを肯定。
BSフジのプライムニュース。改憲がテーマとなり、私が自民党の新藤義孝議員に「自民党改憲案では憲法9条二項を削除し国防軍を持つとしているが、選挙後に自民党は憲法9条改定を提案するのか?」と聞いたら、あっさり「はい」。
— 小池晃 (@koike_akira) 2016年6月22日
自民党への1票は、憲法9条壊す1票。
はっきりしました!
番組の映像はこちら。間違いなく肯定しています。
おおおおお。断言きたね。
— ブルドッグ (@Bulldog_noh8) 2016年6月22日
自民党 新藤義孝議員「参院選後に憲法9条改正」
今日6月22日20時のBSフジプライムニュース pic.twitter.com/OIB1eTXlZ1
自民党の改憲草案では集団的自衛権が明確に肯定され、国連軍への参加や海外派兵が可能となる他、国防軍と軍法会議の創設、領土保全や資源確保を「国民と協力」して行うことが明記されています。
◆「公共の福祉」は「公益及び公の秩序」に
自民党の改憲の大きな方向性を暗示するものとして、昨年BUZZAP!でもこき下ろした自民党憲法改正推進本部が作成したマンガ冊子「憲法改正ってなあに?」があります。
このマンガは相当なデタラメで公共の福祉と公益の違いすら分かっていないという体たらくですが、それは今年4月の段階で弁護士で自民党副総裁の高村正彦議員すら分かっていなかったので致し方ないのかもしれません。
ですがなぜか改正草案Q&Aにはしっかりとその違いが掲載されており、改憲草案では公共の福祉が公益及び公の秩序に変えられることで「憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではない」ことを表しています。
Q15 「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変えたのは、なぜですか
答(「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に改めた理由)
従来の「公共の福祉」という表現は、その意味が曖昧で、分かりにくいものです。そのため、学説上は「公共の福祉は、人権相互の衝突の場合に限って、その権利行使を制約するものであって、個々の人権を超えた公益による直接的な権利制約を正当化するものではない」などという解釈が主張されています。しかし、街の美観や性道徳の維持などを人権相互の衝突という点だけで説明するのは困難です。
今回の改正では、このように意味が曖昧である「公共の福祉」という文言を「公益及び公の秩序」と改正することにより、その曖昧さの解消を図るとともに、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにしたものです。
(改正草案Q&A 自由民主党 憲法改正推進本部より引用)
つまりは自民党の憲法改正によって、現行憲法に比べて基本的人権の制約される場面が増えることは間違いありません。なお、Q&Aではその場面の具体例が「街の美観や性道徳の維持など」とされていますが、制約場面の限定はどこにもありません。
◆安倍首相が「極めて重く大切な課題」と強調する緊急事態条項
こうした流れの中で見逃せないのが、安倍首相が2015年11月11日の参院予算委員会の閉会中審査で「極めて重く大切な課題」と強調した緊急事態条項。自民党の改憲草案によると、以下の4つの事態において内閣が特に必要と認めた場合、「事前又は事後に国会の承認」を得て発することができるもの。
・我が国に対する外部からの武力攻撃
・内乱等による社会秩序の混乱
・地震等による大規模な自然災害
・その他の法律で定める緊急事態
緊急事態宣言が発せられた場合、内閣及び内閣総理大臣は強大な権力を行使できるようになります。
・内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる
・内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行える
・内閣総理大臣は地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる
特に、立法府である国会を経ずに法律と同一の効力を有する政令の制定は国民主権を一時的にであれ超越するもの。加えて私たちの税金を内閣総理大臣の一存で使用でき、地方自治体の長に対しても指示を行えることが明記されます。加えて国民に対しては
何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。
とされ、国や公的機関の指示に従うことが義務づけられる他、基本的人権も「法の下の平等」「身体の拘束及び苦役からの自由」「思想及び良心の自由・個人情報の不当取得の禁止等」「表現の自由」などは「最大限に尊重されなければならない」とされながらも「侵してはならない」とはされておらず、改憲草案Q&Aでも
「緊急事態であっても、基本的人権は制限すべきではない。」との意見もありますが、国民の生命、身体及び財産という大きな人権を守るために、そのため必要な範囲でより小さな人権がやむなく制限されることもあり得るものと考えます。
(改正草案Q&A 自由民主党 憲法改正推進本部より引用)
として、制限される可能性があると明言されています。
◆日本国憲法の基本原理の否定
この改憲草案によって、自民党は日本をどこへ導こうとしているのでしょうか?最近話題となっている動画がひとつのヒントになるかもしれません。
安倍首相が会長を務める団体、創世「日本」の2012年5月10日の東京研修会において、第一次安倍内閣で法務大臣を努めた長勢甚遠議員(当時)が「国民主権、基本的人権、平和主義、この3つはマッカーサーが押し付けた戦後レジームそのもの、この3つをなくさないと本当の自主憲法にならないんですよ」と発言しています。以下動画の12:25付近から。
創生「日本」東京研修会 第3回 平成24年5月10日 憲政記念会館 - YouTube
この発言は先の改憲マンガの最終章のセリフ「敗戦した日本にGHQが与えた憲法のままではいつまで経っても日本は敗戦国なんじゃ」と見事なまでに呼応しています。
安倍首相は今年3月2日の参院予算委員会でも「自民党は立党当初から党是として憲法改正を掲げており、私は党の総裁だ。先の衆院選でも訴えているわけであり、それを目指していく」として改憲を目指す旨を明言しています。
つまり、安倍首相のみならず自民党は現行憲法はGHQに押しつけられたものであるという「押しつけ憲法論」に依拠しており、現在の日本国憲法の三大基本原理である国民主権、基本的人権、平和主義を廃すべきだという発想があることに注意しなければなりません。改憲草案にある9条改定や「公共の福祉」の「公益と公の秩序」への書き換え、緊急事態条項などもこの文脈で捉える必要があります。
7月10日に投開票の行われる参議院選挙で与党をはじめとした改憲勢力が参議院の2/3の議席を獲得すれば、日本国憲法は改憲という大きな事態に直面することは間違いありません。
憲法は全ての法律の根本となる大切なもの。今の日本国憲法を選ぶにせよ、自民党の提示する新しい憲法を望むにせよ、棄権して他人の手にその選択をゆだねるのではなく、確実に自らの票を求める未来に託す必要があるのではないでしょうか。
東京新聞 首相、9条改憲議論に意欲 公明代表は否定的 民放党首討論 政治(TOKYO Web)
改憲議論「次の国会から」 首相、秋にも憲法審査会で:朝日新聞デジタル
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