安倍首相の指示で作られた「改憲推進マンガ」がデタラメだらけであることが判明



自民党憲法改正推進本部が作成したマンガ冊子「憲法改正ってなあに?」があまりにもデタラメだらけの内容であることに大きな批判が巻き起こっています。


自民党憲法改正推進本部が安倍首相の肝いりで制作し、昭和27年にサンフランシスコ講和条約が発行して主権を回復した4月28に合わせて発表されたのが、問題になっている憲法改正の意義を若者らに分かりやすく説明するためのマンガ冊子「憲法改正ってなあに?」です。

自民が憲法改正漫画 若者ターゲット - 西日本新聞

冊子では日本国憲法が「外国人の手でわずか8日間で草案が固められた」などと、いわゆる「押し付け憲法」であることを繰り返し強調、現憲法を「みっともない憲法」と断ずる安倍首相の意向を強く受けたものとなっています。

本部長の船田元衆議院議員も会見で「憲法はGHQの影響下で作られたという歴史的事実を踏まえるべきだ。勇気を持って改正したい」などと発言しており、約5万部が無料配布される見込み。なお、既に自民党のHPからはpdfでダウンロード可能です。

ほのぼの一家の 憲法改正ってなあに?(pdf)

マンガでの若者への政策アピールは既に珍しいことではありませんが、このマンガに関しては内容があまりにもデタラメだらけであることがネットでは大きな批判の的となっています。

マンガの登場人物は戦争体験を持つ曽祖父(92歳)と祖父(64歳)、父(35歳)、母(29歳)に孫(2歳)の5人家族、ほのぼの一家。彼らが憲法改正について語り合うというもの。主に曽祖父が敗戦と日本国憲法の成立過程について昔語りを交えて会話をリードしていきます。

まず最初におかしな話は11ページから。昭和21年というネットもケータイも環境問題という考え方もなかった時代に作られた憲法が今の社会とかけ離れておりついてこれるのかに疑問を呈しています。




風営法のダンス規制問題で似たような理由で法改正を目指していましたが、法律と憲法はもちろん一緒くたにはできません。憲法にITやエコの話が書かれていないのは、それらが個別の法律ないし条例で規制なり運用されるべきものであるからです。

そもそも、憲法は国民ではなく国家が守らなければならない法律であるという立憲主義の基本中の基本を理解できているのか怪しくなってくる内容です。AKB48の内山奈月さんが以下のようにシンプルに述べている認識は憲法を語る上では必須。これを前提としない議論はその一歩目から致命的に間違っていることになります。




この後に語られる日本国憲法成立に至る過程の描写も非常に恣意的で、安倍首相の「押し付け憲法」という憲法観に沿った描き方をされています。

日本国憲法の成立過程については、美智子皇后の2013年の誕生日に際した談話でも言及されている、日本国憲法のGHQ草案に実際に関わったベアテ・ゴードンさんへのインタビューを改憲派、護憲派共に一読頂きたいところ。

ベアテ・シロタ・ゴードンさんロングインタビュー 日本国憲法第9条にかける私の想い

非常に長いですが、「PART2 GHQ憲法の草案の話。」だけでも目を通し、マンガの描写と比較してみてください。これに関してはひとつの資料やストーリーで全てを理解したつもりになることは非常に危険です。

そして「その2」の27ページでは公共の福祉って?」という疑問に曽祖父が自信満々で公益と答えていますが、これは中学校の公民のテストでもバツをもらいます。自民党の改憲草案では公共の福祉が全て「公益及び公の秩序」と言い換えられてることが大きな話題となりましたが、本気で公共の福祉と公益を同一視しているのであれば大問題です。


また、次のページでは「公益に反してなきゃ個人の幸福を追求するためなら何でもやっていいってこと?」との質問に「原則はその通り!!ほかの人の人権を侵さなければ何をしても自由ってことじゃ!!」と答えていますが、いつの間にか「公益(敢えてこの言葉を使います)」「ほかの人の人権」へと二重にすり替わっています。


そして次のコマで出てくる国際人権規約の記述が出てきます。これが日本の憲法より厳密に書いてあるとしていますが、日本もこの国際人権規約は批准していることには触れずに「日本じゃ国の安全に反してもワガママOKってこと!?」と続けます。批准していることの意味が分かっていないのか、あまりにも憲法のみにフォーカスしすぎて個別法や国際法との関連への視点がすっぽり抜け落ちています。

また、先に指摘した「憲法は国家が守らなければならないもの」とする立憲主義の前提が抜け落ちたままのため、なぜか国民の「ワガママ」を縛るルールの話になっています。


なお、憲法で危険な結社や宗教団体が簡単に解散させられないことを問題視していますが、もし解散させられるようになれば安倍首相と関係の深い韓国発のキリスト教系カルト、世界基督教統一神霊協会(統一教会)は真っ先に規制されることになりそうですが、大丈夫でしょうか?


また、憲法改正の回数ですが、ドイツが60回も改憲しているということが驚きを持って語られていますが、永久条項と呼ばれる絶対に変えられない条項が存在していることへの説明は省かれて単純比較されるというミスリードが為されています。


そして極めつけは最終章のこのセリフ「敗戦した日本にGHQが与えた憲法のままではいつまで経っても日本は敗戦国なんじゃ」。憲法を変えれば敗戦国でなくなるという理屈がどこをどう考えても全く意味不明。独自憲法を持てば敗戦国でなくなると認識しているならば、それは歴史修正主義と言われても仕方のないもの。


ここで指摘した以外にも、どこから突っ込んだらいいのか迷うレベルに細かいデタラメやミスリードが散見されている自民党のこの改憲マンガ。分かりやすくしたため、で済む話ではありません。

これが自民党の目指す改憲であるとしたら、憲法や現在の法制度に対する認識から疑わなくてはならなくなりそうです。そして、仮にもこれで「問題ない」と考えるのであれば、ぜひとも英訳してオバマ大統領や米国議員各位に贈呈してみてはいかがでしょうか?安倍政権の「真意」を理解してもらえるかもしれません。

最後に、かつて大きな話題となった自民党憲法草案を現憲法との対照表にして分析を加えているサイトへのリンクを掲載しておきます。単純に改憲容認か反対かという枠を超え、自民党の目指す独自憲法が以下のような内容であることは十分に認識する必要があるでしょう。

自民党憲法草案の条文解説 - 全文対照表、改正の概要、法的分析

せっかくの憲法記念日、ほのぼの一家だけに任せることなく憲法について考えてみてはいかがでしょうか。

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