そもそも抱き合わせにする必要がないので別個の法案として出せばいいだけの話なのですが…?詳細は以下から。
先日BUZZAP!でも詳報をお伝えしたように、政府は裁量労働制の拡大を目指すに当たって不適切なデータを論拠として3年に渡って「裁量労働制の拡大が必ずしも長時間労働につながるわけではない」と主張してきたことが白日の下に晒されました。
「最高責任者」を自称してきた安倍首相は加藤厚労相や厚労省に責任を押しつけて逃げの一手となりながらも間違ったデータに基づいた結論を撤回しようともせず、あくまでこの法案の強行採決を目指す構えを崩していません。
◆「残業時間の上限規制」を人質に「裁量労働制の拡大」を求めるという「恫喝」
2月22日の衆院予算委員会でも野党は追及を続けましたが、これに対して政府側はなんと「残業時間の上限規制」を人質にとって恫喝を行いました。
どういうことかというと、現在政府は残業時間の上限規制を裁量労働制の拡大などの複数の法案と「抱き合わせ」にして提出する方針である事から、裁量労働制の拡大の法案提出を見送れば「残業時間の上限規制」もできなくなるということ。
加藤勝信厚労相は法案を白紙に戻すよう求めた立憲民主党の岡本章子議員に気色ばんで「(厚生労働省の労働政策審議会で)時間外労働の上限を規制する結論が出ている。それをすべきでないということか」と反論。
この論法は要するに「残業時間の上限規制を行いたいのであれば、不適切なデータを論拠としての長時間労働にはならないという謝った結論を黙認して裁量労働制の拡大を認めろ」と迫っている事になります。
前記事でもこの法案を巡るやり取りでの政府のあまりの無理筋さを指摘しましたが、小学生の逆ギレでもここまで酷いものはなかなか見ることはできません。
当然のことながら、それらの法案を抱き合わせで出さなければならない理由はどこにもなく、野党側の「それなら最初から残業規制の法案にすればいい」という主張に反対する理由もどこにもないはずです。まさか残業時間の上限規制は裁量労働制の拡大を飲ませるための飴だとでも言うつもりなのでしょうか?
◆その「残業時間の上限規制」も過労死ライン超えの「100時間未満」
なお、政府側が人質に取っている残業時間の上限規制ですが、昨年何度もお伝えしたように経団連と連合の綱引きに対して安倍首相が鶴の一声で「残業100時間未満は合法」に決着しています。
月100時間の残業というと、月に20日間9時17時を定時として働くと仮定すると毎日22時まで残業するということになります。現在、健康障害の発生と、労働者との間の因果関係を判断するため設けられている「過労死ライン」が80時間とされており、これを20時間も越える残業が合法化されることになります。
当然ながらこの合法的な残業を行っていて体調不良に陥ったり、過労死・過労自殺が発生したとしても企業側はあくまで合法的な範囲内での残業をさせていたに過ぎないこととなり、労災認定のハードルが上がるという懸念も強く指摘されています。
司法の場では、83時間の残業について岐阜地裁は「(厚生労働省が残業上限の目安とする)月45時間の2倍に近く、相当な長時間労働を強いる根拠となり、公序良俗に違反すると言わざるを得ない」とし、札幌高裁も95時間の残業について「このような長時間の残業を義務付けることは、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反する恐れもある」との判断を下しています。
また、京都地裁は1カ月100時間という残業上限の中で過労死した男性の裁判で「労働者に配慮していたものとは全く認められない」と判断。この裁判はその後上告棄却によって原告勝訴が確定しています。
ということで、人質に取ったはずの残業時間の上限規制も「過労死ライン20時間超えまでの残業を合法化する」という公序良俗に反するものであるという地獄のような状況である事は認識しておいた方が良さそうです。
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