日本貨物船のモーリシャスでの座礁・燃料流出事故の経緯まとめ



現在日本のメディアでは散発的な報道に留まっていますが、極めて甚大な環境破壊となっています。経緯をまとめました。


◆商船三井チャーターの貨物船が7月25日に座礁
事の発端は7月25日「商船三井」のチャーターした、日本の海運会社「長鋪汽船」の関連会社「OKIYO MARITIME」社が所有する、パナマ船籍の大型ばら積み貨物船「わかしお(MV Wakashio)」がモーリシャス島沖のサンゴ礁周辺で座礁したこと。

座礁の原因は調査中ですが、記者会見では悪天候による強い風やうねりで北方へ押し流された可能性があると説明しています。

乗り組んでいたインド人、スリランカ人、フィリピン人の乗組員20人は避難しました。しかしこの船に積み荷はなかったものの、約4000トン(重油3800トン、軽油200トン)の燃料を積載していました。

◆燃料タンクが8月6日に破損し燃料が流出
座礁から12日後の8月6日、約1180トンの重油を積んでいた右舷側の燃料タンクのひとつに
亀裂が生じ、重油が流出。1000トンを超える重油が流れ出しました。



これを受けてモーリシャスのジャグナット大統領は現地時間7日、ツイッター上で緊急の環境非常事態を宣言したと発表。フランスに支援を求めました。



フランスはこれに応じ、現場近くの仏海外県レユニオン(La Reunion)から長さ1.3キロのオイルフェンスやポンプ機材、防護服など計20トン以上に及ぶ技術装置を軍用機で輸送。また技術アドバイザーらを派遣しています。

商船三井は9日、長鋪汽船と共に記者会見を開いて謝罪し、被害を最小限に食い止めることに全力で取り組むと説明。この日漏油による環境被害を食い止めるためにわかしおの周囲に自社のオイルフェンスを設置しようとしたものの、荒波の影響でうまくいかなかったと述べています。



同日、ジャグナット大統領は横付けしたタンカーで船内に残る500トンの燃料をくみ上げたことを報告。また船体に大きな亀裂が入り、船が「真っ二つになる」恐れがあると警告しました。



この日モーリシャス警察の捜査班は座礁船に乗り込んで日誌などを押収。11日には船が海岸線に近づきすぎた理由を究明するため、インド出身の船長ら船員に対し事情聴取を行っています。捜査関係者によると「南アフリカの専門家たちが、運航情報を記録したブラックボックスの解析を試みる。すべてはその結果次第だ」とのこと。

日本政府は10日にフランスの活動を支援するため、国際緊急援助隊の専門家チーム6人を派遣しました。

12日になってジャグナット大統領は(船内に残っていた)燃料の大半を回収したと発表しました。また同日、モーリシャス政府は船を所有する長鋪汽船に環境被害などへの損害賠償を請求する方針を明らかにしました。

◆現地ではボランティアらが必死の対応
流出した重油はサンゴ礁やマングローブが広がる地域の海岸にも流れ着いています。

モーリシャス政府は海岸に近づかず、清掃作業は地方自治体に任せるよう呼びかけましたが、数千人の住民らがボランティアとして除去作業を行っています。



住民らは畑から集めたわらを袋に詰めたものやチューブを使って油の拡散防止作業ネットをつくり、特産のサトウキビの葉を束にして重油をかき集め、海に入ってヘドロ塗れになりながら重油の回収作業を行っています。




国連の専門家チームも11に日に現地入りし、環境被害の拡大防止を支援にあたっています。モーリシャスの国連事務所は「自然と住民の被害を軽減する努力を支援したい」と声明を出しました。

◆「回復に数十年」の甚大な環境破壊が発生
貨物船が罪障したのは希少な野生生物が生息する保護区域として知られる「ポワントデスニー」。このエリアには、ラムサール条約で国際的に重要な場所に指定されている湿地も含まれています。

モーリシャス野生生物基金の保護責任者ビカシュ・タタヤ氏によると、モーリシャスには野鳥をはじめ絶滅危惧種が多く生息し、食物連鎖など生態系への目に見えにくい影響も含めると「自然環境が元に戻るのに何十年もかかるかもしれない」とのこと。

モーリシャスは固有の野鳥や昆虫、植物が多数生息する「生物多様性の宝庫」であり「ユニークな遺伝子構造を持つ爬虫類の世界的に重要な個体群」があるが、これらも座礁事故の影響を受ける可能性があるとしています。

またタタヤ氏は、重油がマングローブ林や砂浜に大量に漂着し、サンゴ礁が広がる浅瀬で魚が海面から跳びはねて死に、カニも重油が付着し真っ黒になっていると現状を語っています。

なお、現在クラウドファンディングサイト「CrowdFund.mu」ではMauritius Oil Spill Cleaning 2020 - MV WAKASHIOというこの事故で流出した重油の清掃のためのファンディングが始まっています。


8月7日に1500万モーリシャス・ルピー(約4000万円)を目標額と開始されており、現時点で11,686,957モーリシャスルピー(約3100万円)を集めています。なんとか手を貸したいという方はこちらから支援してみてはいかがでしょうか。

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