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「在日特権を許さない市民の会(在特会)」のデモや、それに対するカウンター運動が全国的に話題になる中で「レイシズム」、そして「レイシスト」という言葉をよく聞くようになりました。「人種差別」と訳されることもありますが、実際はどんな差別を指しているのでしょうか。
まず、手元にある辞書でracismの和訳を見てみると
1.民族主義、民族的優越感
2.人種差別主義、人種的偏見
3.民族主義政策、民族主義体制
(ジーニアス英和大辞典)
とされており、「人種」と「民族」に関する差別とされていますが、「主義」「体制」「偏見」など、多くの異なるレイヤーにまたがっていることも見て取れます。Weblioで検索しても少しずつ違う意味で解釈されており、なかなか総体が見えて来ません。
基本に戻って考えてみると、1966年に採択された国際連合の「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(通称:人種差別撤廃条約)」にレイシズムについての詳しい言及があります。以下に外務省のHP(英語原文)の記述を抜粋します。
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約 第1部 第1条
1 この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。
レイシズムはカギ括弧つきで「人種差別」と訳されていますが、レイシズムの差別理由として明記されているのが「人種、皮膚の色、世系(血統)、民族的若しくは種族的出身」、そして差別内容としては、「それらに基づいた区別、排除、制限又は優先」が挙げられています。
この時点でレイシズムはまだ「racial discrimination」と表現されていたこと、また人種隔離やアパルトヘイトの問題が大きな問題として取り上げられていたことから「人種差別」というレイシズムの一面を強調した言葉が日本で多く使われることとなったと考えられます。
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ですが、この定義によればレイシズムは人種間のみならず、民族や種族、血統といった先天的な属性による差別全般を指しています。この定義はその後も拡張されており、Wikipediaのraceの項では
Race is a classification system used to categorize humans into large and distinct populations or groups by anatomical, cultural, ethnic, genetic, geographical, historical, linguistic, religious, or social affiliation.(Raceとは人類を解剖学的、文化的、民族的、遺伝子的、地理的、歴史的、言語的、宗教的、社会的な起源や所属によって、大きく、他とは異なった集合や集団として区分するための分類体系である)
とされています。ここでは純粋に先天的な属性に加えて宗教や文化、社会的な所属などがRaceの中に導入されており、日本語の「人種」とは大きく異なります。レイシズムという言葉が使われる時に、こうした違いに十分留意する必要があります。
レイシストの訳語としては現時点ではニュースでも使われるようになった「排外主義」という言葉が比較的妥当ですが、外なるものを排斥することだけではないことも忘れてはなりません。
こうして見ると、在特会へのカウンターに対して「レイシストを差別するのもレイシズム」というSNS上で時折見られる意見はレイシズムの意味を取り違えており、カウンター側の言説は(例えそれが罵詈雑言であったとしても)レイシズムとは呼べません。
先日は安倍首相が在特会の排外デモとネット上の排外的書き込みについて非難の声明を出したばかり。今後さらにこの問題はオリンピック招致とも絡みクローズアップされるものと考えられます。
時事ドットコム:安倍首相、排外的デモを非難=フェイスブックで呼び掛けへ
安倍首相 韓国・朝鮮人への排斥デモ非難 参院予算委で- 毎日jp(毎日新聞)
「日本国旗焼かれても、その国の国旗を焼かない」 首相、排外的書き込みに呼び掛け - MSN産経ニュース
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