風営法とNOON裁判を巡るシンポジウム「どう考えたらいいの?ダンス営業規制問題」レポート<前編>



4月4日、ちょうど大阪梅田のClub NOONが摘発を受けた日から2年目のこの日、まさに同じ場所で現在進行中の風営法改正運動とNOON裁判を巡るシンポジウムが開催されました。これまでなかなか見えにくかった裁判の経緯が、実際の証言者と弁護人を招き報告されました。詳細は以下から。


2012年の4月4日21時43分、大阪梅田の老舗Club NOONが「無許可で客を踊らせた」として風営法違反容疑で摘発され、オーナーらが逮捕されるという事件がありました。

大阪の老舗クラブ「NOON」が22時前に客を踊らせていたという理由で摘発、スタッフ8人逮捕 BUZZAP!(バザップ!)

普段から地元に密着した老舗の優良Clubとして知られていたNOONの摘発は、摘発された時間帯が深夜帯ではなく22時前ということ、8人が実際に逮捕されたということからも日本のクラブシーン大きな衝撃を与えました。

同じ年の7月にはこの事件に対し、石野卓球やいとうせいこう、EGO-WRAPPIN’ら大物アーティストやDJが集結し、4日間に渡るNOON救済イベント「SAVE THE NOON」が開催されました。

摘発された大阪のクラブ「NOON」を救うべく立ち上がったイベント「SAVE THE NOON」が7月に開催、EGO-WRAPPIN’や石野卓球らが出演 BUZZAP!(バザップ!)

風営法で摘発されたクラブの救済イベント「SAVE THE NOON」にTHA BLUE HERB、七尾旅人、いとうせいこう、YOUR SONG IS GOODらが続々決定、出演日など詳細が明らかに BUZZAP!(バザップ!)



さらにはこの「SAVE THE NOON」の模様を撮影し、出演アーティスト、DJらのインタビューを交えたドキュメンタリー映画「SAVE THE CLUB NOON」がクラウドファンディングによる資金募集により制作され、現在も日本各地で公開が続いています。

【追記あり】風営法問題を扱ったドキュメンタリー映画「SAVE THE CLUB NOON」の制作、公開資金募集が目標達成 BUZZAP!(バザップ!)

風営法問題を扱ったドキュメンタリー映画「SAVE THE CLUB NOON」の11月末からの劇場公開が決定 BUZZAP!(バザップ!)



この間、2012年5月末からLet's Dance署名推進委員会による10万人署名活動が実施され、最終的に15万筆を集めて2013年5月に「ダンス規制法の見直しを求める請願」として国会に提出されました。この動きを受けて同月、60人を超える超党派の国会議員によってダンス文化推進議員連盟が発足、さらには内閣府の規制改革会議でも風営法のダンス問題が取り上げられ、議論が進んでいます。

渋谷区や町田市、最近では京都市などの地方自治体も風営法によるダンス規制への見直しを求める意見書が採択され、東京のクラブシーンの関係者やアーティストらにより自浄作用や内部ルールづくり、業界団体としての機能の役割などを目的としたクラブとクラブカルチャーを守る会も設立されました。

このように市民運動として始まった「風営法の規制対象から『ダンス』を削除」する運動は立法、行政、地方自治体、さらにはクラブシーンの当事者を巻き込む一大ムーブメントとなっています。その中で、これまでなかなか見えにくかった司法の場で何が起こっているのかについて当シンポジウムが光を当てることとなりました。

警察は何を持って「ダンス」とし、なぜ「ダンス」を規制するのか。そしてこのダンスを規制している風営法という法律はどういったもので、どう解釈し、どのように改正していくべきなのか、実際にNOON裁判で証言台に立った3人の法律学者と主任弁護士の言葉から読み解きます。


前編では3人の法律学者の目から見た風営法の立法の経緯から現代における妥当性、立法目的の考え方についてまでをまとめます。

出演したパネリストは以下の4名。

永井良和教授(関西大学社会学教授)
高山佳奈子教授(京都大学大学院法学研究科)
新井誠教授(広島大学大学院法務研究科)
水谷恭史弁護士(NOON訴訟弁護団主任弁護人)





司会:
そもそも風営法はいつ頃どのような時代背景の元で立法され、ダンスをさせる営業が規制対象になったのでしょうか。

永井:
第2次世界大戦に負けた後の混乱していた時期、人間の欲望がストレートな形で出てきて多くのトラブルを生み出し、その混乱を何とか抑えたいという思惑がありました。しかし戦前の社会を形作っていた秩序や法律が失効してしまっていて、法律の規制が何もない状態で人間の欲望がストレートに出てくるために大変なことになってしまっていた。

それらをとりあえず抑えるための規制が必要とされて作られたのが風俗営業取締法という法律でした。基本的には「飲む打つ買う」といった刺激の強い遊びを規制しようということでできあがったと言えます。


司会:
そのようにしてできた風営法の中に、ダンスをさせる営業というものが当初から含まれていたということですか?

永井:
はい、ダンスは最初から規制対象になっていました。これはダンスそのものが悪いのではなく、ダンスをさせる場所でお客さんとダンスの相手をする女性従業員が売春等と結びつく可能性が高いとされ、ダンスは抑えなければいけないということになっていきました。ただ、この時突然になったというわけではなく、戦前からもダンスに対する規制はあったということにはご注意いただきたい。

司会:
ダンス営業規制の目的、法文上の「ダンス」はどのように考えてゆけばよいでしょうか?

高山:
風営法の趣旨ははっきりしています。賭博と売春の防止です。これは制定当初から現在に至るまで趣旨としては変わっていません。現在も風営法で取り締まられているものは賭博ではないけれども射幸心を煽る可能性のあるパチンコやゲームセンターの類型。そして性風俗産業が対象となっている。ダンスも風営法が作られた時はそこに属するものと考えられていたということです。


司会:
そこで規制すべき「ダンス」とは何かカテゴライズされたものはあるのでしょうか?それとも押し並べて全てのダンスが対象となると考えられるのでしょうか?

高山:
当初想定されたのはダンスにかこつけて売春を誘うという行為でしたので、男女が体を密着させて動く形態のものが念頭に置かれていた。法律がターゲットとしていたのはそのような形のダンスということになります。

司会:
売春や賭博を規制するのが風営法の当初の目的であったのならば、直接売春なり賭博を規制する法律であっても良かったのではないか、そもそもダンスを規制する必要もなかったのではないでしょうか?なぜこのような法律になったのでしょうか?

新井:
ひとつには、売春も賭博も規制はしたいけれど、それに類似する何かは必要悪的に残さざるをえないから、何かしらの管理する必要があるということ。ダンスホールの規制は「ダンスそのものが悪い」のではなく、売春の可能性はあるが、だからといってダンスホールそのものを営業させないのではなく、そうした娯楽施設も必要なので管理する必要があるとして定めたのではないか。

しかし制定当初は合理性があったとしても、法律の制定には立法目的があり、大きな変化があったら法律を改修していく必要があるにも関わらず、そのまま残ってしまったというのが私の見立てです。




まずはダンス営業規制の成り立ちについて。この規制は戦前からあったものですが、理由としては当時のダンスホールと売春行為との結びつきが上げられています。風営法自体の目的が「賭博と売春」という刺激の強い遊びを規制するため戦後に設けられたものですが、ダンス営業が規制されたのはそのうち売春との結びつきが立法当初に認められていたことが主な理由。

そして「必要悪」としての刺激や娯楽の存在を認めるという、非常に人間臭いながらも大切な理由から、賭博や売春の規制は少なからずもって回ったものとなり、さらにはそれらが温存されたことが現在まで続くダンス営業規制の存在となっています。

話はここからさらに社会の変化とダンス営業規制の合理性、風営法改正によって付け加えられた「青少年の健全な育成を目的とする」という目的規定の解釈のあるべき姿に及びます。



司会:
売春を媒介するようなダンスが今日に存在するのか?立法当初から長い時間がたち、社会の状況も変化し、風営法も30回程改正がなされています。この間、ここで言われるようなダンスも変化してきていますがどのように考えますか?

永井:
戦後当時は何もないわけですから、男女が実際に出会う場所が「男女の出会う場所」だったのです。今はネットに書き込んで紹介してもらえるようなマッチングの仕組みもありますが、当時はその場に行って出会うしかなかったわけです。だからダンスホールという場所で男女が出会い、そこを使ってなにかしらの商売をしようとする人もいた。

当時は社交ダンスでしたが、それが手段となって悪いことに利用された面はあると思います。それは男女が出会うペアダンスだったからです。その後ペアダンスは盛り上がっているわけではなく、高度経済成長時代の社用族の人たちはキャバレーでホステス相手に踊ることはありましたが、それがペアダンスのピークだったと思います。その後も競技ダンスの形では生き残っていて高齢者の方が公民館で踊ったりもしていますが、若い人は70年代からディスコでひとりで踊るようになった。

そういう点で今のダンスはカップルで踊るペアダンスではないし、ペアダンスを踊らせるところもかなり少なくなっている。だからそういう点でダンスを踊らせる場所がその次に起こりうる売春などの可能性をはらむ場所とは考えにくい。


司会:
風営法は順次改正されていてもダンスの変化に対応しているとは思えないですが、裁判の中でも検察側や捜査側が重視していたのが昭和59年に創設された「青少年の健全な育成を目的とする」という目的規定です。青少年の健全な育成という意味で売春や賭博以外であったとしてもダンスは規制されるべきなんじゃないかという意見もありますが、青少年の健全育成という規定とダンス営業規制の目的や規制対象として変わったのでしょうか?

高山:
「青少年の健全な育成」を風営法のダンス規制に読み込むことは可能ではないと思います。風営法の中に未成年者の保護の規定というのは別にあって、ダンスとは関係なく書かれている条文がある。ダンスの解釈のところに青少年保護を読み込むのは無理があると思われます。

しかも青少年の健全な育成が法律に加わった時は、地方の都道府県条例によって青少年保護の政策が取られてきましたが、その後に出された最高裁の大法廷判決では、福岡県青少年保護育成条例によって「青少年保護は大事だけれど、青少年にも自己決定権がある。行動の自由があり恋愛もしていい。異性交際もしていいんだ」ということを前提にした判決が出ています。

青少年保護のためにいろいろできてきた条例や法律などの規制も、青少年の行動の自由や自己決定権を害さないように限定して規制を解釈しなければならないという最高裁判決が出ているんです。

なので、全ての法律や条例がそのような考え方に基いて理解されなければならないわけで、これに照らすとダンス規制はそれとは全く反対の方向です。ご存知のように中学校の体育でダンスが必修化されまして、その中にはHIP HOPなどの現代的なダンスを含めたいろいろな種類のダンスがあります。フォークダンスなどのペアダンスでは「男女がペアになってお互いの良さを認め合う」ということが教育目標になっていて、青少年の健全な育成のためにはダンスを必修化してまで勉強させようというのが今の学校の方針です。

それから、天皇皇后両陛下もチャリティーのダンスパーティでペアダンスを披露されています。このようにダンスはいいものと考えられるわけで、これが売春に繋がるものだというのは現代では意味を失っている。何万回ダンスを踊っても売春を引き起こすことはないというのが客観的な事実認識だと思います。

司会:
昭和34年に風営法が改正されて、ダンスさせる営業が接待と飲食を含む営業(1号営業)、飲食とダンスをさせる営業(3号営業)、ダンスのみをさせる営業(4号営業)に分割されて行ってるのですが、この点に関して警察庁は3号と4号のダンスは中身が違うんだという見解を出していますが、このダンスさせる営業についてダンスの内容が各号によって異なるように解釈するという立場は正しいのでしょうか?

高山:
これも無理があると思います。号が分かれているのは営業形態に応じて分かれているだけと理解されますし、実際にどの号の営業をとっても現在では売春の危険は認められないわけですので、なんとかそこを異なって解釈することで売春の危険が高い低いというのを読み込もうとする捜査機関の解釈はかなり無理があるともいます。

実際にダンスによって売春が起きて問題になっているという事実は現在ではないのではないでしょうか。当初の立法目的は役割を終えていると思います。


司会:
現在売春とダンスが結びつきにくい状況にあるということで、風営法のダンス営業規制の目的はどのように理解すべきだと考えますか?

新井:
風営法全体の規制目的は善良な風俗や健全な青少年の育成自体かと思いますが、このような規制目的は、それそのもの自体が悪いとは決して言えないところがあります。こういう規制目的の設定は万能性があり、「子供のために」「青少年のために」と言うと、それをダメだと言える人はいない。

しかしこれをそのままダンス営業規制について広く解釈してしまっていいのかという問題がある。現在における風営法のダンス規制の規制目的を考える場合、これら善良な風俗や健全な青少年の育成という目的はいいとして、それらを満たせば何でも規制していいと広く解釈すべきではなく、善良な風俗というものは何かということについて、一定程度の限定的な意味合いをもたせるか、青少年保護といっても、それを達成するためにどのような手段を取るかということにも関わるが、何でもかんでもこれらだからOKということにしないような目的の理解が必要。




時代が移り変わり、ダンスホールでの売春がなくなると共に、人々の踊るダンスにも変化が起こりました。ディスコブームから現在のクラブシーンまで繋がる「ペアにならないダンス」が主流となり、出会いの場が多様化したことからダンスホールが男女の享楽的な出会いの場や売春の場であるとする認識にも齟齬が生じてきています。

そして「青少年の健全な育成を目的とする」という文言が追加されます。これにより、直接的に賭博や売春に関わらなくとも青少年の健全な育成を阻害するという理由で風営法が機能するようになってしまいます。

「子供のため」「青少年のため」という、ある意味万能とも言えるこうした目的設定に対して最高裁が「青少年の行動の自由や自己決定権を害さないように限定して規制を解釈しなければならない」という判決を示したことは常に強調されなくてはならないでしょう。これを伝家の宝刀としてどんな規制もOKとすることは無理ということです。

さらには青少年の健全な育成のために中学校で必修化されたダンスに対し、青少年の健全な育成を阻害するとしてダンス営業を規制するのであれば、その点の矛盾についても説明する必要があるでしょう。

こうした風営法の抱える問題は、実際にNOON裁判の中でも如実に現れてきていました。

後編ではNOON訴訟弁護団主任弁護人を務める水谷恭史弁護士の話から、2年前NOONで摘発当時にどのようなことがあったのか、捜査機関は何を見てどのようにダンスをしていると判断したのかに至るまで、実際のNOON裁判の中で明らかにされた内容をレポートします。

NOON裁判から見えた「ダンス営業規制」の驚くべき実態「どう考えたらいいの?ダンス営業規制問題」レポート<後編> BUZZAP!(バザップ!)

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