Photo by Christos Tsoumplekas
子どもの貧困が大きな問題となっていますが、貧困が子供の脳の発達に関連があるという研究結果が発表されています。詳細は以下から。
子供の振る舞いや認知能力と社会経済的状況の関連性については、貧困問題との関連も含めて注目されてきましたが、ストレスの多い家庭環境、栄養失調、化学物質への曝露、教育格差など多くの要因が関連している見られていながら明確な回答はこれまで得られていませんでした。
コロンビア大学の神経科学者Kimberly Noble博士らのチームとロサンゼルスのChildren's Hospital Los AngelesのElizabeth Sowell医師らは最新の研究で、生物学的な根拠にアプローチしています。
研究チームはアメリカ合衆国の複数の都市から1099人の子供と青年、若い大人の脳のイメージを作成。アメリカ合衆国では低所得者層はエスニックマイノリティのグループに多いという事情から、子供らの遺伝的な家計を調べて調整を施しており、貧困に寄る脳の構造の差異にエスニックグループの差が出ないように工夫されています。
その結果、年間所得が25000ドル(約300万円)未満の貧困層の子供たちの脳の表面積は、年収15万ドル(約1800万円)以上の家庭の子供より最大6%少ないということが判明しました。
その中でも年収数千ドル(数十万円)の最貧困層の子供たちは脳の構造、特に言語や意思決定技術に関する部位に大きな差が見られることが分かりました。また、子供たちの認知能力を計測するテストでも、読書や記憶技術などが両親の収入と共に低下していきます。
また、ペンシルバニア大学の神経科学者Martha Farah博士はフィラデルフィア州の社会経済状況の違う44人のアフリカン・アメリカンの生後1ヶ月の女児の脳をスキャンして調査。その結果、この赤ちゃんの段階でも、貧困層の女児の脳は富裕層の女児の脳よりも小さいことが分かりました。
Farah博士らのチームはこれらの女児たちを今後2年間に渡って追跡調査する予定。その際それぞれの家庭を訪問し、子供の感性を刺激するような玩具の有無や、両親がどれだけ子供に注意を向けているかなどから原因を特定しようと計画しています。
双方の実験の研究者たちは、子供たちの脳の差異に遺伝的な要因が関連している可能性を認めつつも、ストレスや栄養状況などの環境曝露がより重要であり、しかもそれは妊娠中から始まっていると考えています。
なお、より年齢の高い子供たちにおいては、例えば両親が共働きで複数の仕事を掛け持ちしている場合、子供たちと過ごせる時間は短くなり、また貧困から感性を刺激するような玩具を買い与えられない場合などより広範な環境から影響を受けることになります。
しかし、仮に貧困によって脳に違いが出たとしても、それは外部からのチャイルドケアや栄養状態の改善などの介入によって可逆的であるとのこと。メキシコで行われた研究では、貧困層の家庭の収入を改善させることで、18ヶ月以内に子供たちの認知能力や言語スキルが改善しています。
Poverty shrinks brains from birth Nature News & Comment
なお、この研究について以下のサイトでは「社会経済状況と人種の適切な区別ができていない」「収入と教育を分けて調査できていない」などと批判もされています。
Study Finds Association Between Poverty And Brain Development During Childhood IFLScience
社会経済状況と人種の関連はアメリカ合衆国の非常にセンシティブな部分でもあり、適切な区別は容易なことではないでしょう。下手をすれば優生学にも繋がる極めて機微な部分であるため、慎重に読み込む必要があります。
また、収入が教育レベルに影響することは十分起こり得ますが、教育政策などにより大きく改善される可能性のある部分でもあり、より精密な切り分けが必要と言えます。
日本でも子どもの貧困が大きな問題となり、平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす18歳未満の割合を示す「子供の貧困率」は16.3%と、子供の6人に1人が貧困状態になっている事実は大きな衝撃を持って迎えられました。
夕食は「おにぎりパーティー」 子どもの貧困6人に1人 - 選挙:朝日新聞デジタル
こうした状況が子供の人生にマイナスの影響を与える可能性が大きいことはもちろん、社会から見れば少子高齢化社会が進む中で、数少ない若い世代の人的リソースをさらに小さくしてしまうとも言えます。
なお、これを受けて官邸では、昨日「子供の未来応援国民運動」の発起人集会が開かれ、官民一体となって子供の貧困対策に取り組む姿勢が示されたところ。
子供の貧困対策で国民運動 官邸で発起人集会 - 産経ニュース
貧困家庭を制度的、経済的な面から支援し、子供の生育、健康、教育状況を改善させてゆく支えとなる政策が強く求められます。
(Photo by Christos Tsoumplekas)
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