迷走を続ける新国立競技場問題がさらにカオスに、ザハ案白紙撤回も「強行採決での支持率低下対策」との批判



紛糾を続ける新国立競技場問題。安藤忠雄氏の会見や森元首相のインタビューは責任のなすりつけ合いの様相を呈し、ザハ案が白紙撤回されるも混乱は留まるところを知りません。詳細は以下から。


ツイッターで「#新国立競技場クソコラグランプリ」が開催され、「#森喜朗古墳」とのニックネームが大きな広がりを見せるなど、無駄な大規模公共事業と旧態依然とした日本的体質のシンボルとしての地位を確立した新国立競技場問題。さらに二転三転し、混乱の度を深めています。

まずは7月16日、これまで沈黙を守っていたデザインコンペ審査委員長の安藤忠雄氏がついに会見を行い、政府もデザイン変更を表明するなど、大きく広がった批判の嵐に対応を余儀なくされている現状ですが、そうした対応についてもさらに批判が巻き起こるなど収拾の目処も立たない状態です。

安藤忠雄氏は7月16日に記者会見を実施。現在紛糾しているザハ案に関しては以下のように問題があったことは認めながらも、解決・調整が可能なものであると考えていたこと、そしてザハ案がオリンピック招致の原動力のひとつになったという認識を示しています。

ザハ・ハディド氏の案にはいくつかの課題がありました。技術的な難しさについては、日本の技術力を結集することにより実現できるものと考えられました。コストについては、ザハ・ハディド氏と日本の設計チームによる次の設計段階で、調整が可能なものと考えられました。

最終的に、世界に日本の先進性を発信し、優れた日本の技術をアピールできるデザインを高く評価し、ザハ・ハディド案を最優秀賞にする結論に達しました。実際、その力強いデザインは、2020年オリンピック・パラリンピック招致において原動力の一つとなりました。

【新国立競技場】コンペ審査委員長の安藤忠雄氏が会見(テキスト速報)より引用)



一方、安藤忠雄氏は自分が関わったのはこの決定が行われた2012年11月までとし、その後の責任に関してはどこ吹く風。そもそも敷地からはみ出たり高さの制限を超えるなど、コンペのルールを違反したザハ案を強力に推した責任については一切言及もありませんでした。さらにコストに関しても

私は1300億円で大丈夫かなと思った。こんなに大きなもの、私、作ったことないですからね。

物価上昇もあって1700億、1800億にはなるかなとは思っていた。

2520億円になったのは安藤さんのせいだ、と言われても、私は総理大臣じゃないから。



などと完全に他人事でお話にならない状態です。

一方、「#森喜朗古墳」と揶揄されるようにこの計画をゴリ押ししてきた森喜朗元首相のロングインタビューを産経新聞が掲載。森元首相はザハ案は「当初からあんな生牡蠣をドロッと垂らしたようなデザインを見せられて『へーっ、こんなのは嫌だなあ』と思った」として選考が自らのこだわりではないと発言。そして安倍首相に対しては、

2013年9月のブエノスアイレスのIOC総会で日本に投票した委員は「日本はこんなすごいものを造るのか」となった。それに安倍晋三首相は「他のどんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから確かな財源措置に至るまで、その確実な実行が確証されている」と演説して大拍手だったわけよ。

(【単刀直言】森喜朗元首相 「新国立競技場の経緯すべて語ろう」 - 産経ニュースより引用)



として、選考されたザハ案を強力にプッシュし、財源措置の確実さのアピールをしていたことを指摘しています。そして次のIOC総会で自らがメインスタジアムについて報告しなければならないとした上で

次のIOC総会できちんと報告できなかったら、契約違反になる。東京都とJOCが「こういう開会式でこういう風にやります」という文書をIOCに出し、契約したんですよ。

無責任な評論家は「そんな競技場がなくても五輪はできる」とか言うけど、これはメンツの問題でもある。



と、日本としてのメンツを保つためにザハ案で建築すべきだと考えていたことを告白しています。東京都の負担については石原元都知事にオリンピック招致を炊きつけたことについて「五輪をもう一度誘致すると宣言して辞めればいいじゃないですか」と説得したから申しわけないと思ってるなどとしながらも、舛添知事に対しては

だから現都知事の舛添要一さんにも言ったけど、東京都は国がメーン会場を作ることに感謝しなきゃいけない。「迷惑だ」みたいなことを言う立場じゃないでしょ。前々からの経緯から言えば、少しでも資金援助をするのが、むしろ常識ではないかな。



と、どう考えても「だから」という接続詞が相応しくない超論理を展開し、東京都が500億円なりの資金援助をするのが当然との見方を示しています。また、屋根をオリンピックまでに作らない話、座席を一部仮説にする話などについては下村文科相が舛添知事との対談の中で不用意に口を出したことでこじれてしまったと指摘しています。

こうした責任の押し付け合いやずさんな計画、見栄やメンツに引っ張られた決定のゴリ押しに対しては全方位から批判が寄せられ、ネット上では「#新国立競技場クソコラグランプリ」「#森喜朗古墳」などの形で噴き出したことはBUZZAP!でもお伝えした通り。

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安倍政権は折しも「戦争法案」の強行採決の日程と丸かぶりだったこともあり戦々恐々、安倍首相が自ら計画の見直しに言及するはめになり、ついには現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直すと決断したとしてザハ案での計画を17日午後に白紙撤回に追い込まれました。

もちろんこのタイミングでの白紙撤回は「強行採決で低下した支持率を盛り返すためのあまりに分かりやすい『飴』」であるとして、その露骨さを批判する声も新たに噴出しており、舛添都知事もツイッターで厳しく批判しています。




ですがこの見直しに伴う新たな総工費、確かに2520億円よりは減ったものの、当初の1300億円を500億円も超えた1800億円を目指すとされています。以前掲載したスタジアム建築費との比較ツイートを再掲しますが、しれっと通常のオリンピックのメインスタジアムひとつ分ほどの金額が上乗せされていることは見過ごされるべきではありません。






いかにも日本らしい体質の集大成に、安倍政権の支持率回復という政治判断までもが絡み合っての計画白紙撤回。今後どうなるかは完全にカオスな状況となっています。果たして負の遺産にならず、未来に向けて愛されるスタジアムになることはできるのでしょうか。

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