超党派「演歌議連」が発足、でも演歌は本当に「日本の伝統文化」なのでしょうか?


Photo by Timothy Takemoto

超党派の有志議員が演歌や歌謡曲を支援する「演歌・歌謡曲を応援する国会議員の会」を発足。それはいいのですが、演歌はいわゆる「日本の伝統文化」ではなく、朝鮮半島とのつながりも深いものでした。詳細は以下から。


3月2日に自民、民主、公明党などの超党派の議員らが「演歌・歌謡曲を応援する国会議員の会」の発起人会合を開催しました。議員連盟は月内に正式に発足し、自民党の二階俊博総務会長が議連会長に就任する見通しです。

もちろんダンス議連が風営法改正に大きく寄与したように、国会議員が演歌や歌謡曲を支援することは素晴らしいですし、その点についてはなんら文句の付け所はありません。

しかし、今村雅弘元農林水産副大臣が「日本の国民的な文化である演歌、歌謡曲をしっかり応援しよう」と呼びかけ、歌手の杉良太郎さんが「演歌や歌謡曲は若者からの支持が低い。日本の良い伝統が忘れ去られようとしている」と発言する時、文字通りには受け取れません。

◆プロテストソングとしての「演説歌」
演歌の文字通りの意味での始まりは明治時代。自由民権運動の中で演説に対する取り締まりが厳しくなった際、「演説歌」として藩閥政治などへの批判を歌にしたのが始まりとされます。これが略されて「演歌」と呼ばれるようになったのが演歌の始まりとされます。代表作としては以前BUZZAP!でも取り上げたオッペケペー節などが有名です。


ブラジルのカポエイラが、黒人奴隷達が看守に格闘技とばれないようにダンスのふりをして訓練していたというエピソードを思い出すところがありますが、演歌は元来の意味ではフォークにも通ずるプロテストソングだったわけです。

◆現在の形の「演歌」の成立
その後、昭和時代に「流行歌」の隆盛と第二次世界大戦を経て、1950年代に民謡や浪曲などを下敷きにした現在「演歌」として知られるようなタイプの曲が生まれてきました。しかしこの時代でも今知られるような「演歌」や「歌謡曲」が広義の歌謡曲全般の中で確固たるジャンルとして確立したわけではありません。

なお、プロテストソングである「演説歌」としての「演歌」は海外から流入したフォークの影響を受け、以後は「フォークソング」と呼ばれるようになってゆきます。

この辺りは非常に混沌としていて面白いところ。「昔から中高年が歌っている古くさいジャンル」などと思われがちな演歌ですが、実はビートルズなどのロックに比べても成立は特に古いものではないのです。

◆「演歌」は日朝の融合文化?
また、産経新聞の子会社であるラジオ大阪が極めて興味深い番組を放送していました。それが2010年の「ラジオ大阪特別番組 演歌は海峡を越えて」です。

番組審議会議事録が公式サイト上に残っているのですが、大阪ラジオ側の番組についての説明がこちら。

演歌のルーツは韓国にあるのではないかという説があるほどに演歌は韓国(朝鮮) と関係が深い。国立民族学博物館に戦前日本コロムビアが日本統治下の朝鮮で販売していたレコードの原盤が多数保存されていることを知った。

また、産経新聞でも今回の発見について「海峡を越えて」というシリーズ企画で連載された。これらの資料を通して、ラジオ局としてこの音声を貴重な歴史的資料として活用しながら演歌の歴史、成り立ち、朝鮮との関わりに迫りたいと考え番組を制作した。

番組では、古賀政男の生い立ち、演歌の音階、演歌のテーマ、演歌の朝鮮への移入、朝鮮の伝統的芸能、朝鮮独特の感情表現「恨(はん)」、日本統治下での朝鮮の人々の苦しみなどを在日韓国・朝鮮人のインタビューを交え、朝鮮と日本の曲を比較を通し様々な面から検証した。

演歌は、日本と韓国(朝鮮)の融合文化ではないかという結論を導き出した過程も楽しんでほしい。

OBC 番組審議会だよりより引用)



この説明にも現れる産経新聞の「海峡を越えて-埋もれた日韓歌謡史」シリーズは第16回坂田記念ジャーナリズム賞の第2部門(国際交流・貢献報道)を受賞する連載です。現在産経新聞のサイトから見ることはできませんが、以下の個人Blogに転載があります。

【海峡を越えて】埋もれた日韓歌謡史第1部 Gucci Info Ex

【海峡を越えて】埋もれた日韓歌謡史第2部 Gucci Info Ex

【海峡を越えて】埋もれた日韓歌謡史第3部 Gucci Info Ex

【海峡を越えて】埋もれた日韓歌謡史第4部 Gucci Info Ex


◆より広く、深い「演歌」への理解を
議連の設立趣意書案では演歌を「日本の風土、文化、日本人の心情など、情感込めて歌い、日本の大衆に広く受け入れられてきた」ものとしていますが、全くもってそれだけにとどまらない複雑で入り組んだ歴史を持っていることが分かります。

せっかく「演歌議連」を立ち上げるのであれば、カラオケ大会に演歌歌手を呼ぶだけでなく、明治時代の「演説歌」から「韓国歌謡」との繋がり、戦後に確立した現代の「演歌」の成立過程などまで含め、より深く広く掘り下げて知らしめてゆくことが、次の世代の演歌への興味をかき立てることになるのではないでしょうか?

日本の伝統文化の演歌を絶やすな! 超党派「演歌議連」発足へ - 産経ニュース

演歌と若者のすきま風対策を 杉良太郎さんと議員が協力:朝日新聞デジタル

(Photo by Timothy Takemoto


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