自民党の改憲草案の重要項目、「公共の福祉」と「公益及び公の秩序」の違いを自民党副総裁である高村議員が答えられないという珍事が発生しました。
今年の夏の参院選の大きな争点のひとつとなることが予想される改憲問題。自民党の改憲案に対してはこれまでも多くの疑問が投げかけられてきましたが、「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」と書き換えられることに対しては特に多くの懸念が示されています。
◆討論番組での自民党・高村副総裁の発言
そうした中、4月3日にNHKで放送された日曜討論に出演した自民党の高村正彦副総裁は「公共の福祉」と「公益及び公の秩序」の違いについて、自党の作成した「日本国憲法改正草案 Q&A」とは全く違う回答をしてしまいました。
高村自民党副総裁:
「公益及び公の秩序」、その言葉は今の憲法の「公共の福祉」という言葉を置き換えただけです。
志井共産党委員長:
それは全く違います。
高村:
置き換えただけです。
志井:
それは違う。
高村:
公共の福祉が制約要因にしてる、そのことは分かりにくいから、それを置き換えただけです。
その後司会が遮って別の出演者に話を振ったため、これ以上の議論は行われませんでした。当該のやり取りは以下動画の1:09:11から。
<日曜討論>9党代表に問う「どう臨む参院選」 2016-4-3 - YouTube
◆「公益及び公の秩序」は「公共の福祉」の単なる置き換え?
ではここで自民党が自ら作成した「日本国憲法改正草案 Q&A」を見てみましょう。
Q15 「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変えたのは、なぜですか
答(「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に改めた理由)
従来の「公共の福祉」という表現は、その意味が曖昧で、分かりにくいものです。そのため、学説上は「公共の福祉は、人権相互の衝突の場合に限って、その権利行使を制約するものであって、個々の人権を超えた公益による直接的な権利制約を正当化するものではない」などという解釈が主張されています。しかし、街の美観や性道徳の維持などを人権相互の衝突という点だけで説明するのは困難です。
今回の改正では、このように意味が曖昧である「公共の福祉」という文言を「公益及び公の秩序」と改正することにより、その曖昧さの解消を図るとともに、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにしたものです。
(改正草案Q&A 自由民主党 憲法改正推進本部より引用)
ここで自民党が明示しているように、「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に改正する理由として挙げているのは高村副総裁が述べた「曖昧さの解消を図る」というものがひとつ。ですが、もうひとつ「憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかに」することが記されています。
人権相互の衝突以外に憲法が保障する基本的人権が制約されるケースとして、この文章では「街の美観や性道徳の維持など」が挙げられていますが、改憲によって明らかに基本的人権を制約するケースがこれまでよりも増加するにも関わらず「分かりにくいから、それを置き換えただけ」とするのは完全な誤りです。
◆自党のトップクラスすら正しく理解していない状態で改憲?
自民党の副総裁であり、弁護士でもある高村正彦議員が自党の作り上げた改憲草案の、しかも基本的人権の制約という極めて重要なトピックにおいて、Q&Aにも取り上げて解説をしている「公共の福祉」と「公益及び公の秩序」の違いすらまともに答えられない状態で憲法改正を目指すのは極めて拙速と言わざるを得ません。
なお、自民党は去年BUZZAP!でも取り上げた「改憲推進マンガ」でも全く同じ間違いをしでかしたという「前科」があります。党内での基本事項の周知が1年前と同じレベルで、副総裁すら正しく理解できていないというのでは、改憲に対する姿勢が疑われても仕方の無いところ。
もちろん違いを分かった上でこのように答えていたのであれば完全なミスリードであり、国民を欺く背信行為であって、論外なのは言うまでもありません。
1947年に施行されて以来、70年近く戦後日本の礎となってきた日本国憲法。その根本原則を変えようというのであれば、国民に対する偽らざる真摯な説明は必須です。特にその変更が国民の権利を制約するものであれば、当事者たる国民に正確な情報を伝えないのはフェアなやり方とは言えません。
ぜひとも正々堂々と議論し、疑問や批判には真っ正面から答えていただきたいものです。
安保法廃止案「単なるプロパガンダ」 自民・高村副総裁:朝日新聞デジタル
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