散々批判されてきた与党の保育士と介護職への待遇改善策、ようやく提言が出てきましたがこれまでの話を聞いていたのでしょうか?詳細は以下から。
自民党の1億総活躍推進本部は21日に、政府が5月にまとめる「ニッポン1億総活躍プラン」に向けた提言案をまとめました。この中で保育士と介護職の賃金をそれぞれ引き上げることが盛り込まれています。肝心の中身はどうなのでしょうか?
◆保育士は「既定アップ分込み」で4%アップ
提言案では保育士の給与を昨年秋と比べて4%引き上げることが盛り込まれています。ただし、これは「保育園落ちた」ブログが大きく話題になる前に既に確保済みの1.9%の引き上げも込みでの下駄を履かせた数字。新たな賃金引き上げは2.1%に留まっています。
なお、なぜか日経新聞の記事ではいつの間にか保育士の月給の平均が「約22万円」となっています。「保育園落ちた」ブログに応答する認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表理事の記事では2013年度の統計を引いて20.7万円としており、特に注意書きなどもなく1.3万円アップしています。さらに「4%分に当たる12000円を上乗せする」となっていますが、仮に平均が22万円であったとしてもその4%は8800円となり、どこから12000円という数字が出てきたのかは不明です。
なお、保育士の給与に関しては現、民進の民主、維新と共産、生活、社民の野党5党が3月24日に保育士、保育施設職員、幼稚園教諭らの月給を5万円引き上げる保育士処遇改善法案を提出しています。
◆介護職に関しては、以前反対した「1万円引き上げ」を盛り込む
介護職の賃金引き上げに関しては、BUZZAP!でも以前お伝えしましたが、3月2日に野党5党が提出した「介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案」を自公与党が反対し、否決されています。これは保育士と同様に低賃金で人手不足が深刻な介護職の賃金を月額1万円程引き上げようとしたもの。
賃金1万円の引き上げでは到底解決になるものでもありませんが、塩崎厚労相はこの法案に理由も述べずに反対、自公が反対に回ったため否決されてしまいました。民主党の中島議員は法案の趣旨説明で以下のように述べています
賃金を引き上げることができるよう介護報酬のプラス改定が求められてきたが、あろうことか安倍政権は2015年4月から介護報酬を2.27%も引き下げてしまった。それによって介護事業者に深刻な影響が出ており、介護分野の人手不足は深刻の度を増している。著しい人手不足によって、サービスの休止や事業所の廃止に追い込まれる事例も多く出てきている。
こうした深刻な状況の中での待遇改善案だったわけですが、それを否決に追い込んだ与党側から「2017年度から月額平均1万円相当」の賃金上昇の提言が出てくるのは実に不思議なところ。上述の法案に賛成していればこうした提言を行うまでもなく引き上げられていたはずなのですが…。
◆どちらにしても解決にはほど遠い引き上げ額
なお、保育士にしても介護職にしても、どちらの賃金も全産業平均より10万円ほども低い水準にあり、それが1万円引き上げられても「焼け石に水」でしかありません。さらには非正規雇用などの理由で、勤続5年以上でも20万円どころか10万円台前半の賃金しかもらえない事例も多数Twitterなどでは報告されています。
7年働いてこの給料ってことをわかってほしい…。保育士不足の現状を議論してくれるのはありがたいな。#ワイドナショー#保育士 pic.twitter.com/1DBlsToofe
— snowwhite034 (@0sqvdn34) 2016年3月6日
国の規制緩和を皮切りに、効率化、コストカット。民間委託、競争入札で低価格の発注。現場の労働者の賃金にしわ寄せ。担い手不足に。 VTRで紹介された京都のある保育士さん、30何年?努めた保育所を雇い止め、今は非正規で手取り13万円と。 pic.twitter.com/opcqSQ50Kl
— はぐれみかん (@ore_mikan) 2016年2月22日
保育所が民営化され、委託先の運営会社の方針でベテラン保育士を全員を1年契約の非正規雇用に。賃金引き下げを強要され退職。#nhk #ニュース7 pic.twitter.com/OWNjxlgT2w
— きやすめ。 (@ZeroE13A1) 2016年2月22日
例えこれらの提言が全て実現したとしても、「何もしなかったわけではない」というアリバイづくり以上の実質的な待遇改善には繋がらず、それはすなわち数万人規模の待機児童問題や今後膨れあがる介護問題の解決の糸口にはならないということです。
なお、政府はこうした賃金引き上げの他に規制緩和によって無資格の人が保育や介護に携われるようにするという方針も口にしていますが、それはただでさえ劣悪な環境に置かれた保育士や介護職をさらに疲弊させるだけでなく、危険な事故を誘発することは間違いありません。
日経新聞はこうした方針を「与党が保育充実に力を入れるのは7月に控える参院選を意識するため」と指摘していますが、小手先の選挙対策でどうにかなる問題ではないことは与野党共にしっかり認識していただく必要があるでしょう。
保育士月給1.2万円増 政府・与党、17年春の定昇導入に助成金 :日本経済新聞
保育士や介護職の待遇改善を 自民が1億総活躍へ提言案:朝日新聞デジタル
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