「獣医学部新設より公務員獣医師の待遇改善」国家戦略特区の八田座長、加計学園問題の本質を2015年の段階で認識していた



あったことがなかったことにされた2015年6月の加計同席WGの場で、実は八田座長は加計学園問題の本質を言い当てていました。ここから現在に至る発言の変遷は極めて興味深いものです。詳細は以下から。


◆書き換えられたWGヒアリング議事要旨
2015年6月に行われた獣医学部新設を巡る国家戦略特区ワーキンググループ(WG)のヒアリング。この場には3人の加計学園の幹部が同席しており、教員確保の見通しなどについて質疑が交わされたことが明らかになっています。

しかし、公開された議事要旨には加計学園幹部の同席の事実も発言内容も記載されていませんでした。WGの八田達夫座長と原英史委員(この日のヒアリングには参加せず)は記者会見を行い、原委員は4年後に公表される詳細な議事録にも加計学園幹部の同席の事実と発言は掲載されないと明言しました。

同時に内閣府の塩見英之参事官も、速記録は業者に委託したもので「議事要旨を作れば用済みになるので元の速記録は存在しない」と述べており、加計学園幹部らがこのヒアリングで語った内容が名実ともに「なかったこと」にされてしまいました。

また、ヒアリングの際に愛媛県と今治市側は議事内容の非公開を希望していたものの、八田座長の判断で議事要旨は公開されました。しかしその際には当初から公開でよいと愛媛県・今治市側が了承した形に内容が書き換えられています。

内閣府はこれを「公開にあたっての調整」としていますが、速記録が「破棄」され、加計学園幹部の同席の事実と発言が「抹消」され、議事要旨の内容も実際の発言から「調整」されたとなれば、このヒアリングでのやり取りの信憑性を担保するものが何もなくなってしまいます。

八田座長は2017年6月13日に記者会見で規制改革のプロセスに一点の曇りもない。加計ありきで検討されたなんていうことは全くございませんと述べており、7月24日の衆院予算委員会の閉会中審査で参考人招致でも議論の経過は議事を公開している。一般の政策決定よりはるかに透明性の高いプロセスだと証言していますが、この主張が完全に崩壊した形になりました。

◆ヒアリング議事要旨での八田座長の極めて的を射た指摘
ではいったいこの2015年6月のヒアリングではどのようなことが話されたのでしょうか。公開された議事要旨を読むと、加計学園幹部らの発言こそ抹消されていますが、八田座長が愛媛県・今治市側に対して極めて鋭い指摘を行っていることが読み取れます。

委員からの「獣医学部卒業生を公務員として採用する特別なスキームが存在するのか」との質問に山下一行愛媛県企画振興部地域振興局長が以下のように回答したところから始まります。少し長くなりますが当該部分を引用します。

○山下地域振興局長(前略)公務員獣医師ですけれども、地域に偏在はあるのですが、四国では公務員獣医師不足の状況がございます。そのような状況を解消するために、学校と連携して公務員獣医師の道もつくっていくということでございます。その方法は、地域入学枠ということで、学校側にも、四国内から進学する人を優先するとか、先ほどちょっと御説明しましたけれども、奨学金を貸与することで、公務員獣医師になって9年間働けば、860万ほどがただになりますから、そのような誘導もかけまして、四国で不足している公務員獣医師についても充足を図るということでございます。

○八田座長 私は獣医学部の新設はそれなりの意味があると思うのですが、今治ということの理由づけは何なのでしょうか。もし愛媛や四国の各県が、このような国際的な感染症対策をしたいし、専門家が欲しいということであれば、大体1人当たり860万円のお金を、何らかの形で全国の獣医学部卒業生を募るときに出せば、それで済むはずで、こんなにいろいろとコストをかけて手間をかけてやるよりは、そこで人材を整えたほうがよほどいいのではないかと言う意見があると思うのですけれども、それに対しては、どうでしょうか。

○山下地域振興局長 奨学金は、各県も既存でございます。農林水産省の補助で2分の1がついて、奨学金制度はございますけれども、聞いてみると、そんなに応募がないみたいです。

○八田座長 それならこの分野の人を愛媛県庁が雇うときに、給料を上げるなり何なり、待遇を改善するなり、全国どこの大学に行こうと使える今治で獣医奨学金というものをつくって、将来愛媛県庁に来たらちゃらにしてあげますという仕組みをつくったほうがよほど簡単な気がするのです。要するに、現在はどこの県も自分のところの大学と連携しているわけでもないのですから、市役所にきちんとしたそのような専門家が欲しい、学術的なネットワークを持った人が欲しいということなら、むしろそちらをまずやるべきではないでしょうか。

○山下地域振興局長 それは現状でもいろいろと獣医師の募集を本県もしておりまして、つてを頼ったりして、いろいろな形で公務員獣医師を集める努力をしております。環境改善といいますか、給料を上げるという仕組みなのですけれども、県は国の給与水準に合わせて県の水準も見合わせるという形で従来からしておりますので、その中でぽんと給料を上げるとなるとなかなか難しいところはありまして、諸手当とか、待遇とか、そのような面でできるだけの努力はしておるところです。

○八田座長 ここでやるような奨学金を出すことは可能なわけですね。

○山下地域振興局長 例えば、他の大学におる人に奨学金を出して、その奨学金の代わりと言ったら何ですけれども、愛媛県に就職してもらうと。

○八田座長 そうです。

○山下地域振興局長 そのようなことは、別に不可能な話ではありません。

○八田座長 そうしたら、それで大部分の問題は解決しそうですね。

国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)より引用)



これはBUZZAP!でも以前から指摘してきた内容と大きく被っていますが、加計学園の主張する国際的な感染症の統御、輸入食品等の安全性確保、感染症の水際対策など、国際的視野で危機管理対応のできる公務員獣医師を要請するために必要なのは獣医学部新設ではなく給与や待遇の改善だということ。公務員獣医師の確保についての八田座長の

「この分野の人を愛媛県庁が雇うときに、給料を上げるなり何なり、待遇を改善するなり、全国どこの大学に行こうと使える今治で獣医奨学金というものをつくって、将来愛媛県庁に来たらちゃらにしてあげますという仕組みをつくったほうがよほど簡単な気がする」

という提案は加計学園問題に関して既に何度も言われ続けてきたもので、2015年6月の段階で既にWG座長からも明確に指摘されていたことが明示された事になります。

◆改めて「加計ありき」の実態が判明
なお、上記のやり取りの直前で一言だけですが極めて興味深い発言があります。

○阿曽沼委員 三点ほど確認、質問させて下さい。まず最初に、今回の獣医学部の開設は、
公設民営でやられるのですか、それとも私立大学として設置されるということでよろしい
ですか。(後略)

○山下地域振興局長 現状では、民設民営で考えております。

国家戦略特区ワーキンググループ ヒアリング(議事要旨)より引用)



繰り返しになりますが、このヒアリングの行われた2015年6月5日の時点で愛媛県・今治市側が「民設民営」で考えていることを明らかにし、加計学園の幹部3人を同席させ、教員確保の見通しなどについてまで質疑が交わされています。

萩生田光一官房副長官の指示によって獣医学部新設を国家戦略特区で加計学園に絞り込むための条件として「広域的に」と「限り」の文言が付け加えられたのは、2016年11月1日の電子メールと添付された文書によるものですが、実際には既にこの時点で加計学園側の希望がWGにも周知され、具体的な質疑が行われていたことになります。

BUZZAP!では先日2015年12月15日の国家戦略特別区域諮問会議における安倍総理の発言で、しまなみ街道でつながった広島県と愛媛県今治市に設置される国家戦略特区において「ライフサイエンスなどの新たに対応すべき分野における獣医師系の国際教育拠点の整備」が盛り込まれていることを報じました。


さらに、加戸前愛媛県知事は産経新聞のインタビューで「今治市選出の本宮勇県議が『加計学園が大学を進出してもいいというが、今の天下の状況をみていたら獣医学なんかはどうでしょうか』という話を持ってきたから、飛びついた」と答えています。


これらの事実に今回のヒアリングの件を重ねて考えれば、既に2015年時点で国家戦略特区を使った獣医学部新設は「加計ありき」であったと言わざるを得ないことになりそうです。

それにしてもこのヒアリングから2年の間に八田座長の発言が180度変わってしまったように見受けられますが、いったいなぜこうした変化が起こったのでしょうか。

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