朝日新聞さえ叩ければ嘘でもいいという自称保守界隈が大喜びで飛びついた様子が極めて痛々しいものとなっています。詳細は以下から。
◆愛媛県新文書の波紋
先日愛媛県中村知事が提出した、安倍首相と加計孝太郎理事長が2015年2月25日に面会し、獣医学部新設構想に対して「新しい獣医大学の考えはいいね」と発言したことが記されていた事が明記されている公文書は大きな波紋を呼び起こしました。
安倍首相は山本幸三地方創生担当相、萩生田光一官房副長官、菅義偉官房長官が保存されていないと明言した「官邸訪問者の記録」を「調べた」と発言してしまいますし、加計学園も愛媛県と今治市に「2月25日に安倍首相と面会を行った」と嘘の報告をしたというコメントを出してしまいました。
こうした中で派生的に飛び出してきたのが新聞各紙の首相動静記事に絡んだ問題です。安倍政権に批判的な存在を徹底的に叩く組織運営のツイッターアカウント「DAPPI(@take_off_dress)」が2015年2月25日の首相動静に加計理事長との面談が載っていなかったことをツイート。これが発端となり「愛媛県の文書は捏造だ」などという呆れたデマが拡散します。
しかし安倍首相その人が国会や「笑っていいとも」で首相動静に載らない訪問者がたくさんいることを明らかにしていた事から、これは完全なる不発に終わってしまいました。
あれは実際にはですね、例えば役所の人たちでもあれに乗るのは局長以上なんですよ。それより若い人たちもいっぱい来てるんですが名前でないですから。秘書官とか官邸のスタッフでも名前の出る人と、ある程度の一定以上しか出ないもんですから、もっともっとたくさんの方がですね。
安倍首相、タモリを無形文化財に認定か? いいとも生出演で
で、おまけ。
— 尾張おっぺけぺー (@toubennbenn) 2018年5月21日
安倍さん曰く、首相動静に名前が出ていないことは「よくあること」。
これは2018年5月14日の衆議院予算委員会での江田憲司議員と安倍さんのやりとりでの一場面。 pic.twitter.com/mviSrylhIv
◆「朝日が首相動静記事を削除した!」というフェイクニュースが拡散
ですが、そうした中で朝日新聞のWeb版である「朝日新聞デジタル」が2015年2月25日の首相動静記事を突然削除したという不確定情報がネット上に出回り、早速フェイクニュースサイトNetgeekがこれを「【加計学園問題】朝日新聞、2015年2月25日の首相動静を削除 _ netgeek」として記事化。
また、同様にフェイクニュースサイトShare News Japanも「【証拠隠滅】“加計新文書”公表後、朝日新聞が平成27年2月25日の首相動静を削除!前後の日にちも続々削除」と記事化します。
さらにまとめサイトも追随し、有名どころではツイッター速報が「【騒いで自分で答え合わせ】愛媛県職員の「新加計文書」、2015年2月25日 朝日新聞の首相動静で「面談」は確認できずww その後突っ込まれて慌てて削除した模様」と憶測に草を生やしています。
また、BUZZAP!でも繰り返し批判している悪質まとめサイトオレ的ゲーム速報@刃は「【加計問題】朝日新聞さん、愛媛県の資料と矛盾する首相動静を削除した疑惑で大炎上 _ オレ的ゲーム速報@刃」などと、炎上騒ぎとして記事化しています。
こうした騒動に釣られたのがお馴染みの自称保守界隈の「有名人」たち。作家でテロ扇動家の百田尚樹はNetgeek記事を拡散した上に「朝日新聞は終わりましたね」「ここまで腐っているとは」「まるで犯罪者」などと酷評して見せます。
その後間違いに気付かされたのか「いかにひどい新聞社でも、そこまではやらないということがわかって、日本人として、胸をなでおろした」などとツイートしていますが、あれだけこき下ろしておいて謝罪のひとつもありません。
同様に自称保守界隈で有名な「経済評論家」の上念司もNetgeekの記事を拡散。
こちらは「なーんだ。仕様か。さっきの朝日が首相動静削除したっていうのは間違いです。訂正しときます。」と一言ツイートしておしまいです。
ワック・マガジンズの発行する保守系雑誌「WiLL」の編集部も「都合が悪いと、あっさり削除ですか……」などと揶揄しています。雑誌の公式アカウントがフェイクニュースサイトを信じて騙されるという限りなく恥ずかしい状況ですが、訂正も謝罪もありません。
元衆議院議員の渡辺篤に至っては、これらのフェイクニュースサイトを元ネタとしたYouTube動画を拡散してしまいましたが、こちらも訂正も謝罪もありません。
◆実際のところはどうなのか朝日新聞社に聞いてみました
ではいったい実際のところはどうなのか。まず朝日新聞デジタルのQ&Aをチェックしてみますと「記事検索ができる期間はどのぐらいですか」との質問に対して以下のように回答があります。
朝日新聞紙面や朝日新聞デジタルに掲載された記事は1年間分収録されています。(一部の記事を除きます)
1年以上前の記事を検索したい場合は、記事検索サービス「朝日新聞デジタルselect 朝刊ダイジェスト」(有料)をご利用ください。
(記事検索ができる期間はどのぐらいですか _ Q&A(よくある質問):朝日新聞デジタルより引用)
とのこと。記事の掲載期間は1年間となっているため、2015年2月25日の首相動静記事が削除されていてもおかしなことは全くありません。
ただし、Netgeekの記事では2015年8月15日の首相動静記事が閲覧できることから、「都合が悪い部分をまとめて削除したのでは?」との意見を紹介しています。
事実関係を確認するためにBUZZAP!編集部では朝日新聞に以下の質問を直接問い合わせ、広報室から回答を得ました。
1.ネット上で「朝日新聞が昨日今日で突然ウェブ版の2015年2月25日の首相動静記事を消した」との意見が発信されていますが、これは事実なのでしょうか?
答:
そのような事実はありません。
2.消したとしたらそれは通常の仕様としての消去なのでしょうか?1年以上前の記事でも消えているものと消えていないものがあることから「都合の悪いものを選んで消しているのでは?」という意見を載せている記事もありますが、どういった基準で消去しているのでしょうか?
答:
原則的に掲載からおよそ1年でシステム的に消去されます。企画ものの記事などを一部残す場合もありますが、あくまで例外的なものです。
また削除漏れの記事が存在している可能性はないとは言えませんが、掲載から1年以上経った記事を意図的に残すことはありません。
3.これら「朝日新聞デジタル」の既に消去された記事は有料アーカイブからも消去しているのでしょうか?
答:
記事検索サービス「朝日新聞デジタルselect 朝刊ダイジェスト」や「朝日新聞 有料記事データベース」などのサービス上には残っています。
ということで、朝日新聞が都合の悪い首相動静記事を突然削除したという話は完全にフェイクニュースである事が明らかになりました。「朝日叩き」さえできればどんなソースでも見境なしに飛びついた人が見事に踊らされるハメになりましたが、実はこれは今回だけの話ではありません。
以前も「泉放送制作のせいで民放が偏向報道」というNetgeekらのフェイクニュースに自称保守界隈の著名人らが「爆釣」状態になったことをBUZZAP!では紹介しています。
つまり、自称保守界隈は以前このNetgeekを始めとするフェイクニュースサイトに踊らされて赤っ恥をかかされた経験があるにもかかわらず、今回再びこのサイトのフェイクニュースを一時的にせよ信じ込んでしまったということ。
嬉々として朝日新聞を攻撃する前に、まずは自らがソースを丁寧にチェックしてから発言するという、情報発信者としての基本をもう少し身につける必要がありそうです。
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