老後や定年、引退という言葉は死語になってゆくのかもしれません。詳細は以下から。
会社で60歳まで勤め上げ、その後はのんびり趣味に浸りながら年金生活。そんな昭和時代の人生設計は終身雇用制の崩壊で既に終わりを告げていましたが、定年や老後、年金生活なども遠い日の夢になってゆきそうです。
◆70歳まで働かされる国へ
安倍首相は10月22日、自らが議長を務める未来投資会議で、高齢者が希望すればこれまでよりも長く働けるよう、企業の継続雇用年齢を65歳から70歳に引き上げる方針を表明しました。
これは高齢者が人材として市場に出回ることで人手不足解消に寄与すると共に、年金制度の安定も図れる一石二鳥の方針とのこと。関連法改正案を2020年の通常国会に提出する予定です。
なお、現在の高年齢者雇用安定法では企業に対して「65歳への定年延長」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年制の廃止」のいずれかの採用が義務づけられ、希望者全員が65歳まで働けるようになっています。
◆過労死や労働事故が増加する可能性も
こうした方針に関して企業側からは人件費の高騰を懸念する声も上がっており、安倍首相はこれに応ずるように「70歳までの就業機会の確保を図り、高齢者の希望・特性に応じて多様な選択肢を許容する方向で検討したい」と発言しています。
高齢者側からすれば気力や体力の衰え、持病などから短時間勤務を望むケースなどが考えられますが、企業側にとっては必要な時間だけ使える人材を安く確保できる道が開けることにもなります。
一見するとWin-Winな関係にも見えてしまいますが、高齢者側としては60歳までもらっていた給与よりも安い値段での短時間勤務で年金受給開始年齢まで食いつながなければならなくなる可能性もあり、「老人の貧困」を生む原因のひとつともなり得ます。
また、実際には私立高校の警備員として勤務していた68歳男性が帰宅なしの3連勤や月130時間の残業の末に急性心筋梗塞で死亡し、遺族が労災を申請するという事件も起こりました。
生活のために劣悪な待遇や低賃金で長時間労働を余儀なくされる65~70歳の高齢者が増加することで、これまで以上にこうした過労死や労働事故などの増加も十分に考えられることは認識しておく必要もあります。
◆「年金受給開始年齢引き上げの前哨戦」との懸念も
今回の未来投資会議では、現在原則65歳となっている公的年金の受給開始年齢は維持する方向で一致したとされています。
しかし70歳まで働けるようにする道筋が整えられていることから、この方針が年金受給開始年齢引き上げに至る第一歩となるのではないかという懸念の声も上がっています。
実際に以前は60歳定年後すぐに受給できた年金は、現在原則65歳からしか受取れないように法改正されており、今後さらに引き上げられる可能性は誰にも否定できません。
実際に自民党の1億総活躍推進本部は2017年5月には公的年金の繰り下げ受給の期限を71歳以降にまで拡大する提言を行っています。
高齢者の割合が今後増える一方の日本で「年金制度の安定」を目指すのであれば、受給者数を減らすことは極めて「分かりやすい対策」となります。つまり、70歳まで高齢者が働いてせっせと税金を納め、その上で年金をもらわなくなるのであれば、まさに一石二鳥ということ。
もちろんこうした高齢者の存在をコストと見る考え方は極めて危険で、「働けもしないのに年金目当てでおめおめと生きながらえる老人は無駄飯食いの邪魔者」といった発想にも直結します。
「生涯現役」という聞こえのいい言葉の裏側で、私達が何十年後かに迎える「老後」が確実に厳しいものへと変わりつつあると言えるでしょう。
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