日本政府の原発輸出案件が全滅、日立の英原発計画が凍結へ



日本政府の原発輸出案件が全て頓挫してしまいました。詳細は以下から。


日立製作所がイギリス政府とともにイギリス中西部アングルシー島で計画し、2020年代前半の運転開始を目指していた原発2基の建設計画が凍結されることになりました。

◆日立によるイギリスでの原発建設計画とは
この建設計画は計画は日立の英原発子会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」が手がけるもの。安全対策の強化などで事業費が当初予定の2兆円から1.5倍の3兆円規模に膨んでいました。

原発輸出をアベノミクスの成長戦略の目玉としてきた安倍政権は、安倍首相自らがインドやトルコなどにトップセールスを行ってきました。2016年にイギリスで就任したメイ首相がキャメロン前首相の中国重視の姿勢を翻すと、これを絶好のチャンスとして1兆円規模の支援を決定。

この際に提示されたのは日本政府がJBICと政府銀を通じてホライズンに投融資し、日本貿易保険が信用保証枠を設定し、日本のメガバンクやHephaestusといった日英大手金融機関を呼び込んで資金を融通する計画です。なお、この時点で既に総事業費は約2.6兆円にまで膨らんでいました。

さらに翌年にはこの原発建設に対し、日本のメガバンクが融資すると想定される数千億円について、日本政府が全額を補償する方向で検討している事が報じられるなど、日本政府として強力に原発輸出をバックアップしようという姿勢が打ち出されています。

しかし、2017年末の時点で日立の東原敏昭社長は企業だから、採算がとれないものはできない。政府の支援をいただきながら、採算性がきちんと取れる形で、投資家をどんどん募れる環境づくりをやっていくことが重要と発言。採算の見通しが厳しく、着工の条件としている出資者の確保が難航することが見込まれることから、日本政府に支援を求める考えを示していました。

これを受けて2018年頭に三菱東京UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクと国際協力銀行(JBIC)を含む銀行団が、総額1.5兆円規模の融資を行う方針を示し、事故などによる貸し倒れに備えて日本政府がメガバンクの融資の全額を債務保証する事を決定。当然ですが、債務保証に使われるのは全て日本人の税金です。

こうして政府主導の「オールジャパン体制」で総額3兆円規模に上るイギリスへの原発輸出が進められていた訳ですが、その計画が頓挫しました。

◆日本の原発輸出計画が崩壊
ですが日立は日本・イギリス両政府に計画を凍結する可能性を伝えました。理由としては3兆円規模にまで膨らんだ総事業費に対し、出資企業を確保するのが困難となったこと、そして巨額の損失が出た場合に単独では補えないためとされています。

この原発建設事業の凍結期間は決まっておらず、日立は事業の採算性を精査して再開する可能性も残すとしていますが、事実上撤退と見られています。

今月頭には三菱重工業らと政府が官民連合で建設予定だったトルコの原子力発電所を断念する方針である事が伝えられました。こちらも建設費が当初想定の2倍近くに膨らみ条件面で折り合えなかったことが原因とされています。

また東芝は子会社だった米原子力発電子会社ウェスチングハウスが経営破綻して巨額損失を抱え込み、既に原発輸出からの撤退方針を決めています。

日本の原発輸出はベトナムリトアニアでも撤回や凍結など計画の見直しが相次ぎ、今回のイギリスでの計画凍結で日本政府の原発輸出案件は全て頓挫してしまったことになります。

◆原発のオワコン化は止まらない
そもそも原発建設には巨額の資金が必要となる上に、ひとたび事故を起こした場合には広範囲に極めて大きな被害を与えることはチェルノブイリや福島の原発事故を見てきた私たちには自明です。

今回のイギリスでの原発建設の凍結の要因には、福島第一原発事故を受けて安全対策などでコストが大幅に増加したことが主原因。当初2兆円だった総事業費が3兆円規模にまで膨らみましたが、この傾向はイギリスだけに留まらず世界共通のもの。ベトナムでも計画中止はコスト増加に伴う資金不足と反原発世論の高まりが理由です。

リトアニアも反原発を掲げる政党が第1党となったことに加え、国家エネルギー戦略のガイドライン「市場環境が変化して費用対効果が高くなるか、エネルギー安全保障上、必要な状況となるまで、計画を凍結する」とするなど原発の費用対効果の低さを挙げています。

上述したトルコでの原発建設の計画も建設費が当初想定の2倍近くに膨らんだことが理由となっており、原発のイニシャルコストは既に国家レベルでもおいそれと受容できる価格ではなくなっています。

またそれだけの安全対策のコストを支払ったとしても、「経済大国であり技術大国である日本ですら過酷事故を起こしてしまった」という事実を消し去ることはできず、世論の支持を得ることは以前よりも極めて難しくなっています。

そうした中で太陽光発電や風力発電をはじめとした再生可能エネルギーの台頭が起こり、年々低価格化が進んでおり、原発を敢えて新設するメリットは急激に薄れています。

今回の日立の撤退はそうした意味ではむしろ「勇退」と呼べるもの。泥沼の中でにっちもさっちもいかなくなった末の破綻ではなく、計画段階で引くことを決定した事は長い目で見れば大きなプラスとなります。

こうして全ての原発輸出計画が頓挫した今、アベノミクスの成長戦略の目玉としてこの計画を長年にわたって推進してきた事への総括を行い、計画の失敗を潔く認めて方向転換を行う必要があります。

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