「年金では老後2000万円不足」菅官房長官が否定したつもりでうっかり認めてしまう



「老後資金2000万円不足」問題の大炎上が続いていますが、この問題に対する菅官房長官の発言を検証してみたところ、思わぬ結果が判明しました。詳細は以下から。


◆「老後資金2000万円不足」問題、参議院選挙を見据えて火消しへ
「95歳まで生きるには年金の他に夫婦で2000万円の蓄えが必要」とする金融庁金融審議会の試算は「年金100年安心」とされた年金制度では安定した老後を送れない事を示しており、全国的に大きな波紋を呼んでいます。

7月に参議院選挙を控えた自民・公明両党は、この降って湧いた「足りない年金」問題を争点化させないために火消しに追われています。

自民党の二階幹事長は我々選挙を控えておるわけですから、そうした方々に迷惑を許すようなことのないように注意したいとして金融庁に撤回を含め厳重に抗議。

公明党の山口代表は与党の枢要な人に(金融庁から)事前に何の説明もなかったのではないか。猛省を促したいとして、火種となるような報告を与党側に説明せずに出したことを強く批判しています。

岸田政調会長は報告書について極めてずさんなもので、まともな政策議論に役立つものではないとデータとしての正確性を否定。

また麻生金融相は当初は「個々人の状況に応じて上手な資産形成ができるようにすることも大切」と擁護していたものの、炎上を受けて「政府の政策スタンスと異なっている」ため正式な報告書として受け取らないと、報告書の受け取りを拒否しました。

◆データの根拠は厚労省の資料によるものでした
政府与党の姿勢には「年金問題に背を向けて選挙で勝つことばかり考えているのではないか」といった指摘も出ていましたが、そうした中でこのデータの根拠は厚労省の資料だったことが明らかになりました。

報告書をまとめた金融庁の金融審議会の市場ワーキンググループ(WG)報告書によると、この資料を示したのは厚労省年金局の課長でした。

総務省の家計調査を元に高齢夫婦無職世帯の現在の収入・支出状況の資料を示しており「実収入20万9198円と家計支出26万3718円との差は月5.5万円程度となっている」と説明されています。

事務局説明資料(「高齢社会における資産形成・管理」報告書(案))の10ページにあるこちらの資料がそのまま該当します。

(クリックして拡大)

ここでは民間委員から、将来の公的年金の給付水準の低下を見越し「(試算にある)社会保障給付の19万円は、団塊ジュニア世代から先は15万円ぐらいまで下がっていくだろう。月々の赤字は10万円ぐらいになってくるのではないか」との発言もありました。

なお、この厚労省の課長は2月22日に開かれた厚労省の社会保障審議会企業年金・個人年金部会でも同じ資料を配って同様の説明をしていました。

つまりWGの示した「5.5万円不足」は厚労省の従来の考え方と一致しており、麻生金融相の「政府の政策スタンスと異なっている」との説明とは矛盾が生じています。

◆菅官房長官「2000万円不足はWGの独自見解」→計算してみると
この流れを受けて6月13日に菅官房長官が記者会見で「WGの議論の中で厚労省が家計調査の平均値として、高齢者世帯の収支差額が(月に)5万5000円となっているとの説明を行ったことは事実だ」と説明。

一報で報告書に盛り込まれた30年で約2000万円の金融資産の取り崩しが必要というのは、WGの独自の意見だとして政府が正式な報告書として受け取らないとの立場を改めて強調しました。

さて、月5万5000円不足が厚労省の資料を根拠にしているものの、30年で2000万円不足するのはWGの独自見解だという主張は成り立つのでしょうか?実際に計算してみました。まず、月5万5000円の不足が1年間続くと考えると

5万5000円×12ヶ月=66万円

となります。これが30年続くので

66万円×30年=1980万円

となりました。小学生レベルのかけ算で機械的に計算した結果、月に5万5000円不足する場合は30年で約2000万円の不足となります。

つまりWGは機械的にかけ算を行っただけで独自見解が入り込む余地はなく、菅官房長官は結果的に30年で約2000万円が不足することを認めてしまったことになります。

もちろん先日BUZZAP!でも指摘したように、この2000万円には10年間で最大1000万円とされる介護費用や、病気や老衰に伴うバリアフリー化といったリフォーム費用465万円は含まれていません。


参考資料」より引用(クリックして拡大)

実際には95歳まで夫婦が生きてゆくために3500万円近くの老後資産が不足する可能性もあり、介護疲れと貧困の末の痛ましい事件も既に少なからず発生しています。

選挙に響くからと日本国民の老後の人生に大きく影響する報告書を無視するのではなく、この問題を直視した上で解決策を見いだしていかなければならないのではないでしょうか。

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