「消費増税にはニンジンの皮と節約で勝つ!」日経のマネーハック記事がもはや戦時中レベルに



先日は「ニンジンの皮を美味しく食べて増税に勝つ」という記事が大いに話題になった日経新聞。今度は全力で消費を冷え込ませる節約術で消費増税との戦いを鼓舞しています。詳細は以下から。


◆日経「ニンジンの皮もおいしく!」増税対策記事が話題に
9月21日にニンジンの皮もおいしく!増税に勝つ食べ切り術という記事を掲載した日経新聞。「消費増税を前に、無駄なく、賢く食材を使い切る工夫を共有しよう」というコンセプトでフードロスを減らす記事を掲載しました。

「ダイコンの葉 いためて」「ブロッコリーは茎や葉も使う」「ニンジンは皮ごと料理」などのライフハックの数々に「戦中の決戦食かよ」「ニンジンの皮食べる事を増税対策だと紹介する経済誌って…」などのコメントが並びました。


なおこの記事が有料会員限定であったことには「一番必要な人に全然届かない記事だ」との意見も。

それぞれのライフハックは確かに有効で、ブロッコリーの茎は実際とても美味しいのですが、記事の発想が「この世界の片隅に」のすずさんの料理シーンを彷彿させることも確か。日経にカタバミやタンポポ、それに楠公飯が登場するのも遠い未来のことではないのかもしれません。

せっかくなので、総務省の戦時中の生活等を知るための用語集を引用してみましょう。完全に一致しているのが分かりますね。

決戦食(けっせんしょく)
戦争が長びくと物不足は進み、なかでも切実な問題は食料難でした。配給される米には、「コウリャン」や「トウモロコシ」がまぜられ、イモなどの代用品になることも増えてゆきました。
それに対して政府は、いままで捨てていたものでも工夫することで食べられるとし、「決戦食」と名づけ、そういったものを食べて飢えをしのぐように呼びかけました。
たとえば、茶がらを乾燥させて野菜の代わりにする。イモのつるや野菜の皮を使った調理方法。食べられる虫の特集など。さまざまな決戦食が、新聞や雑誌で紹介されました。

総務省|一般戦災死没者の追悼|用語集 -戦時中の生活等を知るための用語集- か行より引用)


◆今度は「消費増税に節約で勝つ」記事を掲載するも…
そんな日経が日を置かず9月23日にNIKKEI STYLEに掲載したのが消費増税に節約で勝つ 日常生活品にこそ削る余地ありという記事。増税前の特集のため、タイミング的には不思議はありませんが、内容が完全に景気低迷を誘発しています。

この記事は消費増税を前にした日常生活費の節約方法を紹介するもの。そのひとつ目はなんと「日常生活品を買わない」というもの。

最初に趣味に使っていたお金も「積みゲー」「積ん読」のようになるなら「買いすぎ」で「買わなくてもいいもの」に手を出しており無駄だと切り捨てます。

オタク趣味で散財していたという筆者が、趣味のグッズを買わないようにしたら「それまでは当然のように思っていた物欲が、ほとんど強迫観念のようなものだったことに気がつきました」と述べています。


京アニ放火殺人事件の際、多くのファンが京アニのDVDやグッズを購入して応援した事は記憶に新しいですが、当然ながら趣味への支出を切り詰めればその産業は衰退し、潰れる会社も出てきます。

記事ではスーパーやコンビニでも「買わない」ことへの挑戦を推奨。買った食材を悪くして捨てる「家庭内フードロス問題」への指摘は納得できますが「レジ前で一度立ち止まって本当に買う必要があるか再考する」「棚に数品戻して会計する」行為の推奨は営業妨害に当たらないか心配になってしまうレベルです。


ふたつ目のアプローチとして紹介されるのは「日常生活品を安値商品に切り替える」というもの。

その切り替え方のひとつは「同じ商品を買うが最安値を探索する」方法ですが、これは買い物に掛かる時間を少なからず増大させるというデメリットが生じ、車社会の地方ではガソリン代にも直結します。走行税が実現すればむしろ非現実的なお話。

そしてより問題なのは「違う商品でより安いものに変更する」という方法。筆者は大手スーパーなどが提供するプライベートブランドを推奨していますが、これは完全にメーカー殺しと言わざるを得ません。


また「コーヒーチェーン店ではなくコンビニでコーヒーを試してみたとき、『あれ、意外にうまいじゃん』と思えるなら、それだけで1杯100円は節約できる」という辺りの指摘も外食産業から見れば冗談では済みません。


「贅沢は敵だ!」「欲しがりません勝つまでは」は戦争に勝つための一時的な「我慢」のためのスローガンでしたが、下がる予定のない増税を相手にすれば、私たちは永続的にこの「戦い」を継続する事になります。

◆いったいこの先にいる「勝者」とは誰なのか
増税に伴って消費者がものを買わなくなるのならば、それはいかなる意味においても「消費の冷え込み」でしかありません。買うにしてもより安い商品やサービスを求めるのであれば、その結果はデフレにしかなり得ません。

BUZZAP!では以前から「消費者=労働者」であることを繰り返し指摘してきましたが、消費者がものやサービスを買えなくなり、可能な限り安いものを求める時、多くのビジネスが危機に瀕します。


そして多くのビジネスが危機に瀕すれば、そこで働く労働者は解雇されたり賃金や待遇が悪化することになり、さらに消費を削り、家計を切り詰めなければならなくなります。指摘するまでもなく、そのデフレスパイラルの先に勝者はいません。


問題はそこまで節約をしなければならない状態で増税を行う事の是非のはず。増税の延期や消費税率減少の可能性について考えることも、多くの国民の家計が苦しい現状を踏まえて賃金や待遇を改善するための提言もできるはずです。

日経新聞がそれらの点を論じず、ただ消費者に爪に火をともすような節約術を教えるだけというのは、経済誌としてさすがにいかがなものでしょうか。

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