教諭いじめに激辛カレーが使われた事で「給食にカレーを出さない」という対応にも日本列島がのけぞりましたが、こちらは単なるアホアホ案件に留まらない、極めて危険な対応です。詳細は以下から。
◆なぜか無関係な教師や職員もボーナス増額見送りに
神戸市議会が12月4日、神戸市立東須磨小で男性教諭が同僚教諭4人からいじめや暴行を受けていた問題に対し、市立小中高の校長や市教委幹部ら約320人分の冬のボーナス増額を見送る条例改正案を賛成多数で可決しました。
市立学校の校長や事務長約250人と市教委事務局の課長級以上の職員約70人のボーナス増額が見送られ、総額では約1000万円分となります。
毎日新聞はこの決定を「連帯責任」と表現していますが、単に同じ市内の学校や教育委員会に勤めているというだけで、何ら責任がないにも関わらずペナルティを受ける以上、これはやはり連帯責任と呼ばざるを得ないもの。
この決定について神戸市側は「市教委全体のガバナンスの欠如が問題の要因で、市民の理解が得られない」としています。
しかし加害教員やその上司へのペナルティはあって当然ですが、無関係な立場の人にペナルティを与えることに市民から理解を得られると考える発想がむしろ不可解なところ。
これでは「やってる感」の演出にしかならなそうですが、実際にはもっと大きな萎縮効果を生み出すことになる最低最悪の決定です。
◆この決定はいじめ告発を萎縮させる
なぜこの決定が最低最悪かというと、いじめの告発を構造的に萎縮させてしまうことになるからです。
つまり、いじめを告発して表面化させることで、自分だけでなく上司や同僚、他の職場の無関係な人々にまで(今回はボーナス増額見送りという)不利益が及んでしまう事になってしまうのです。
こうした決定が行われた以上、次に教師に対してであれ生徒児童に対してであれ、いじめを受けた当人や目撃した人が告発しようと思うでしょうか?
自分の正義感で自分だけが不利益を受けるのであれば、それでも構わないと告発をする人はいるでしょう。ですが、それが他の人にも「連帯責任」として及ぶのであれば、そこで二の足を踏む人は激増します。
もちろん教師に子供がいた場合、本人のみならず子供が「お前の親がいじめを告発したから俺たちのボーナスが増えなかったんだ」といじめの対象となる事も十分に考えられます。
日本の学校や社会を経験している人であれば、こうした陰湿ないじめが言い掛かりレベルの理由に基づいて日々繰り返されている場面を見たことがあるでしょう。
結局のところ、連帯責任は次のいじめの発生を防ぐどころか、告発の口を塞ぐ効果しかありません。まったくの本末転倒だと言わざるを得ないでしょう。
◆文科省の方針にも完全に逆行
文科省は2015年に中学生のいじめ自殺問題に絡み、児童生徒1000人当たりのいじめの認知件数が都道府県によって最大83倍の差が生じていることに触れて「実態を正確に反映しているとは考えがたい」と指摘。
いじめの認知件数の多い学校は「いじめが多い」のではなく「いじめを積極的に把握し、解消に向けて取り組んでいる」として、極めて肯定的に評価する方針に大転換を行いました。
この結果、2017年の沖縄県那覇市ではいじめ認知件数が13倍に爆増。「いじめゼロ」が誇れることではなく「いじめを認知する努力を怠っている」事であると認知されることで、いじめの隠蔽が減少したのです。
そして2018年に文科省は「いじめ0件」と報告した学校に対し、「0件」としたことを生徒・児童や保護者に公表し、把握漏れがないか確認することを要求。
今回の神戸市の条例改正の決定は、文科省のこうしたいじめを積極的に認知し、解決していこうという方針に真っ向から逆らうもの。
「いじめゼロ」をキープできなかったら「連帯責任」で数百人のボーナス増額を見送らせるというのはいじめ隠蔽をこれまで以上に加速させることになります。
そんなことをする暇があるのなら、同じようないじめが発生した初期段階で告発して解決させる環境を作るのが先決です。