【コラム】10万円一律給付の「世帯主が家族分一括申請」はなぜ危険なのか



日本の全家庭がサザエさん一家のような理想的な家庭ではありません。この方法では給付金を受け取れない人が出てくることになります。詳細は以下から。


政府が4月20日、新型コロナウイルスの緊急経済対策として行う「10万円一律給付」の概要を決めましたが、大きな問題が指摘されています。

外国人を含め、4月27日時点で住民基本台帳に記載されている全ての人が給付対象となったことは高く評価されていますが、問題となっているのは申請と給付の方法です。

申請できるのは世帯主限定で、郵送かオンラインで家族分を含めた金額を申請し、市区町村が世帯主名義の銀行口座に家族分をまとめて振り込むというもの。

◆すべての家族が円満で理想的なわけではない
一見合理的にも見えますが、これはその世帯が円満であり、世帯主が金銭的に信頼に足る場合に限られます。そして、当然すべての家族が理想的な関係にあるとは言えません。

世帯主から配偶者や子どもらにDVや虐待が行われているような場合、モラルハラスメントに合っている場合、別居したり離婚調停中の場合でも、世帯が同じであれば世帯主がすべて自らの口座に入れることができてしまいます。

例えば、世帯主が生活費や子どもの学費をくすねてパチンコや競馬などのギャンブルに明け暮れるといった話は決して物語の中だけのものではありません。


そうしたケースでは必要な人に10万円が届かず、さらに窮乏させる結果になりかねません。無理をしてでも働かざるを得なくなり、感染を拡大させてしまえば本末転倒となります。

この件について4月18日のNHKは世帯主である夫の虐待から避難している親子などについては妻からの申請を受け付け、事実関係が確認できれば夫とは別に給付される見通しですと、DV被害者に関する見通しを報じています。

大きな問題は、DVの事実関係をこのパンデミックという難局の中で誰がどのように確認するのかということ。また確認されて給付されるまでにどれくらいの時間が掛かるのか、確認前に世帯主が給付金を申請してしまったらどうするのかなど疑問は尽きません。

◆新型コロナでDV・虐待は増加傾向に
もちろん問題なのは明確に確認できるDV事案だけでなく、隠れたDVや虐待、別居や離婚調停中といった世帯への給付をどうするかといった懸念は残ります。

実際に海外からはDVや虐待の増加が報告されており、4月5日にはグテーレス国連事務総長が新型コロナのパンデミックによるDV増加に対する警告の声明を発表しています。

日本国内でも3月30日時点で全国女性シェルターネットが学校の休校やテレワークの拡大によってDVや虐待の問題が深刻化しているとして新型コロナウイルス対策状況下におけるDV・児童虐待防止に関する要望書を提出しています。


全国女性シェルターネットはDVや虐待の深刻化に加え、配偶者や子どもが在宅していることから、相談すること自体が困難な状況にあるとも指摘。こうしたケースでは被害の認定が難しいことは十分考えられますし、今の時点から家を出ることも容易ではありません。

◆給付方法の再検討を
乳幼児や新型コロナを含む病人、認知症患者などの家族を持つケースもあり、すべての個人が正常に申請を行えるわけではないため、「世帯主が家族分一括申請」できること自体は合理的で有効ではあります。

とはいえ、あくまですべての個人に対して給付されるべき現金が家庭内の問題で行きわたらないようであれば、給付による感染拡大防止の効果は著しく減少します。

特に家庭内で弱い立場に立たされている人は、多くの場合経済的にも弱い立場にあります。そのためこうした人にもれなく給付金が行きわたることが何よりも優先される必要があります。

そのための最善策は申請なしでの一律給付ですが、あくまでも申請にこだわるのであっても、個人への給付を前提とした上で、世帯主への委任は未成年者や意思表示のできない人に対する代替手段との位置づけが妥当といえるでしょう。

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