黒川弘務東京高検検事長の定年延長を閣議決定したことに端を発した問題に極めて大きな反対の声が上がっています。詳細は以下から。
◆「#検察庁法改正案に抗議します」に異例の270万ツイート
5月10日、ツイッターのトレンドのトップに「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが現れ、12:50現在で280万件を超えるツイートがされており、その後470万件にまで増加。
これには浅野忠信さんや秋元才加さん、しりあがり寿さんなど多くの著名人もツイート。
— 浅野忠信 ASANO TADANOBU (@asano_tadanobu) May 9, 2020
— 秋元才加 SAYAKA AKIMOTO (@akimotooo726) May 9, 2020
— しりあがり寿 (@shillyxkotobuki) May 9, 2020
こちらは小泉今日子さんが代表取締役を務める会社のもの。
#検察庁法改正案に抗議します https://t.co/tbNyrWTXQK
— 株式会社明後日 (@asatte2015) May 9, 2020
このハッシュタグで特徴的なのは、きゃりーぱみゅぱみゅさんや大仁田厚さんなど、これまで政治的な発言を行ってこなかった著名人らからの発信が目立っていること。
#検察庁法改正案に抗議します pic.twitter.com/QeVYWObxTc
— きゃりーぱみゅぱみゅ (@pamyurin) May 10, 2020
#検察庁法改正案に抗議します
— 大仁田厚 (@onitafire123) May 10, 2020
なぜ改める必要があるのか
理解できない pic.twitter.com/PkQvvESo8t
なんと糸井重里さんまでもがツイートする事態に。
三権分立の復習と、プーチンの例がわかりやすかった。
— 糸井 重里 (@itoi_shigesato) May 10, 2020
#検察庁法改正案に抗議します
◆検察庁法改正案って何が問題なの?
さて、いったいなぜここまでのムーブメントになっているのかおさらいしてみましょう。
事の発端は、安倍政権が2020年1月31日に、2月に63歳となる黒川弘務東京高検検事長の定年を8月までの半年間、延長することを閣議決定したこと。
検察庁法では検事総長の定年が65歳、高検検事長を含む検事の定年を63歳と定めていましたが、安倍政権は延長に関する法解釈を唐突に、そして前代未聞の「口頭決裁」による変更の下で閣議決定してしまいます。
法務省は規定に従って黒川氏を退官させる人事案を練っていたものの、これを官邸が土壇場でひっくり返したことになります。8月には検事総長の人事が行われるため、8月まで黒川氏が在任していると検事総長というトップの座への道が開けることになります。
当然ながらこの閣議決定には批判が殺到。野党はこうした根拠なき法解釈の変更がによる人事が「検察の中立性に対する信頼を失う」として激しく批判しています。
#検察庁法改正案に抗議します
— 立 憲 民 主 党(りっけん) (@CDP2017) May 9, 2020
トレンド入りしている検察官の定年延長の問題、そもそもの問題点は?ぜひ動画を見てください!
⑴ 検察官は国家公務員法の定年延長適用しないという政府解釈を無視
⑵ 政府から変更理由の説明がない
⑶ 検察の中立性に対する信頼を失う (2/27)pic.twitter.com/mLaeGxdr5C
なお、安倍政権が根拠としたのは国家公務員法ですが、特別法である検察庁法はこれに優先するため、多くの弁護士会がこれを違法として撤回を求める声明をだしています。
ところがこうした批判を受け、安倍政権は内閣の判断で検察幹部の役職定年を延長できるようにする検察庁法改正案を提出し、黒川氏の定年延長の「合法化」を目指す方針を示しました。
この法案は「検察官の定年を63歳から65歳に段階的に引き上げる」、そして「63歳の段階で(検事長などの)役職定年制を採用」するというもの。それ自体は高齢化社会への対応として一見妥当に見えますが、大きな問題が以下の部分。
改正案22条には、内閣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めるときは、その後も当該官職で勤務させられるものとするとあります。
さらに、検事総長や次長検事及び検事長が65歳の定年に達した場合にも、同様の事由により当該官職で引き続き勤務させられるとし、これらの更新も可能としています。
これにより、内閣が認めさえすれば63歳を超えても検事総長や検事長といった役職で続投できるうえに、65歳になっても同様に定年を延長して続投できるようになります。
要するに、これは内閣に都合のいい検察トップをいつまでも在任させることを可能とする改正案ということです。共産党の山添拓議員がこの件について質問していますが、満足な答弁は得られていません。
なお、この点に関しては「TBSサンデーモーニング」での青木理氏の解説も極めて分かりやすいため、公式動画を掲示します。
この法案が提出されるにあたり、4月6日に日本弁護士連合会の荒中会長は「法の支配と権力分立を揺るがすものだ」として閣議決定の撤回と法案への反対を訴える声明を出しています。
ですがこの法案の委員会審議は5月8日に与党が強行する形で始められました。野党側は、森雅子法相の出席が必須と求めていますが、与党は応じず松本文明衆院内閣委員長(自民)が職権で委員会開催を決定。
国公法を扱う内閣委員会のみで審議し、武田良太国家公務員制度担当相に答弁させる方針で、週明けの委員会で強行採決も辞さない構えです。
◆「安倍政権ベッタリ」とされる黒川検事長
どうして安倍政権はここまで黒川検事長の定年延長と検事総長への就任に意欲を燃やすのでしょうか。
それはこの黒川検事長が「官邸の用心棒」と呼ばれるほどに政権に近く、安倍政権絡みの犯罪を片っ端から不起訴としていると指摘されるほどの人物であるから。
立憲民主党の本多平直議員は黒川検事長が不起訴にした事件として小渕優子元経産相「政治資金規正法違反ドリル問題」、松島みどり元法相「うちわ選挙区配布問題」、甘利明元経済再生担当相「UR都市再生機構への口利き疑惑」、下村博文元文科相「加計学園パーティー券200万円不記載その他諸々」、佐川宣寿元国税庁長官以下37名「森友学園での公文書改竄問題」を挙げています。
安倍政権での閣僚経験者らの名前がずらりと並んでいるあたりはまさに壮観といったところでしょうか。このような人物が検察庁のトップに長年君臨した場合に政権に近い人物の犯罪への捜査がどうなるのか、ぜひイメージしてみてください。
◆三権分立の崩壊=近代国家の崩壊
今回の「#検察庁法改正案に抗議します」の大きな盛り上がりは、この問題が安倍政権への賛否を超え、近代国家に共通の普遍的な憲法上の基本原理である三権分立を粉々に破壊することになるからです。
行政府である内閣が、総理大臣すら逮捕できる検察庁のトップ人事を思うままに操作し、内閣に都合のいい人物を登用できるようになれば、もはや誰がどう見ても三権分立は崩壊したことになります。
これまで政治的な発言をしてこなかった著名人らや、むしろ政権を支持していた人の中からも反対の声が上がっているのは、この問題が単純な政権への支持や不支持といったレベルを大きく超えていることを示しています。
最後に「検察庁は行政府に属するから三権分立崩壊は間違いだ」という擁護論に対し、検察庁の公式サイトの以下の文章を引用します。
検察官及び検察庁は,行政と司法との両性質を持つ機関であるため,その組織と機構も両者の特徴を併有していますが,我が国の検察制度の特色としては,以下の3点を指摘することができます。
第1に,検察官は,自ら被疑者,参考人などを取り調べるなど証拠の収集を直接かつ積極的に行っていることです。
第2に,検察官は,的確な証拠によって有罪判決が得られる高度の見込みのある場合に限って起訴することとしていることです。
第3に,起訴便宜主義(公訴を提起し,これを維持するに足りる十分な犯罪の嫌疑があり,かつ,訴訟条件が具備している場合においても,公訴権者(検察官)の裁量により起訴しないことを認める制度)が採られていることです。
このように我が国の刑事司法手続においては,検察審査会による起訴議決に基づく公訴提起の制度を例外とするほかは,検察官が,国家の刑事訴追機関として公訴権を独占し,その権限行使の適正を期するため捜査を行い,原告官として訴訟を遂行するとともに裁判の執行を指揮監督するなど,刑事司法運営の中核的機能を担っているのです。
(我が国の検察制度の特色:検察庁より引用)
【次の記事】
ハッシュタグ「 #検察庁法改正案に抗議します 」への反論がいくつか出現してきたため、それらの妥当性を考え、ファクトチェックしてみることにします。
【ファクトチェック】「 #検察庁法改正案に抗議します 」に沸き上がった反論の妥当性を考えてみた | Your News Online
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