今日になってにわかに悪評高い「レジ袋の有料化」の責任を日本学術会議に押し付けようとする動きが出ていますが、本当なのでしょうか。ファクトチェックします。
◆レジ袋有料化は日本学術会議が提言したせい?
今年から始まり、全国的に大きな不評を買っているレジ袋の有料化。この政策のきっかけが日本学術会議だったと非難する動きが出ています。
この発端は日本学術会議の大西隆元会長が東京新聞に寄稿した「『総理は多様性を認め、政策に生かして』日本学術会議・大西隆元会長が本紙に寄稿」とする記事。
この記事の冒頭で「◆レジ袋有料化も学術会議の提唱がきっかけ」という小見出しがあり、これが現在大不評のレジ袋有料化を招いたとして「日本学術会議はろくなことをしない」という批判を呼んでいます。実際に記されている内容は以下のとおり。
微細なプラスチック片が分解されずに海に滞留し、摂取した魚、さらに人に害を及ぼすから、プラスチックの利用を大幅に削減しようというキャンペーンが、レジバッグ有料化やマイバッグ携帯につながった。このきっかけの1つは学術会議が海外の学術会議と手を携えて行った提唱であった。
(「総理は多様性を認め、政策に生かして」 日本学術会議・大西隆元会長が本紙に寄稿:東京新聞 TOKYO Webより引用)
つまり日本学術会議が海外の学術会議と共に行った提唱が、いわゆるマイクロプラスチックによる海洋汚染を削減しようというキャンペーンとなり、結果的に「レジバッグ有料化やマイバッグ携帯につながった」というものです。
該当する問題への提言は「マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンス」に記されています。
提言の部分(15ページ)は以下のとおり。
レジ袋有料化に関係すると思われるのは提言の(2)ですが、読めば分かるように、国に対して使い捨てプラスチックの生産・使用を減らすことを求めているだけでレジ袋についての言及はなく、一般的なプラスチックによる海洋汚染に対するまっとうな提言であることが分かります。
つまり「レジ袋有料化は日本学術会議が提言したせい」というのはこの時点で誤り。なお、提言が行われたのが2020年4月7日であることを確認しておきましょう。
◆「レジ袋有料化」の経緯は?推し進めたのは誰?
レジ袋有料化の具体的な話が出てきたのは、2018年10月の事。環境省は「プラスチック資源循環戦略」を取りまとめ、2030年までにプラスチックごみを25%削減するために「小売店などにレジ袋の有料化を義務付ける」ことを謳っています。
これは2018年6月9日に開催されたG7の拡大会合で「プラスチックごみの問題は世界全体の課題として対処する必要がある」と指摘され、「海洋プラスチック憲章」がまとめられたことを発端とするもの。
安倍首相は国内の法整備がされていないことを理由に異議を唱え、アメリカ合衆国と共に合意文書への署名を見送っていましたが、これが批判を呼んで国内法整備が進められる運びとなりました。
2019年2月26日の記者会見で原田義昭環境相(当時)は以下のように発言、レジ袋有料化への決意を述べています。
中央環境審議会プラスチック資源循環戦略小委員会が開催されまして、長時間にわたる御審議の結果、委員長一任として戦略案が取りまとめられました。その中で、レジ袋の有料化についても方向性を整理していただいたところであります。これを受け、私といたしましても、全国一律のレジ袋有料化義務化を進める決意を固めたところでございます。今後、年度内に答申をいただいた上で、6月のG20までに政府として「プラスチック資源循環戦略」を策定してまいります。
2019年5月31日には会見での言葉どおり「プラスチック資源循環戦略」が発表され、ここに「レジ袋の有料化義務化(無料配布禁止等)」が明記されます。
原田環境相はこれを受けて6月3日、「レジ袋がプラごみに占める割合は多くないが、有料化は(削減の)象徴になる」と述べ、「無償配布してはならないという法令を速やかに制定したい」とレジ袋有料化の法整備を行う意向を示しています。
この時点でプラごみ削減には大きな効果がないと表明していることには要注目。日本学術会議はこのタイミングでの発表の理由を以下のように指摘しています。
2019年6月に大阪で開催された主要20ケ国・地域(G20)首脳会議の議長国としての積極姿勢をアピールする必要に迫られていた。そこで、環境大臣(当時)がG20を前に、レジ袋の無料配布を禁じる法令を制定すると発表し、2020年7月1日からレジ袋の有料化が義務化された。
(マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンスより引用)
そして12月27日、梶山弘志経済産業相は2020年7月からプラスチック製のレジ袋の有料化を義務付ける容器包装リサイクル法の省令改正を実施したことを表明しました。
開始時期が20年7月なのはもちろん世界中から人が集まり、大きな注目を集める東京オリンピックの当初の開催時期に合わせたためです。
原田環境相が2020年2月のインタビューで「プラスチックの廃棄物が海洋を汚染することは、すでに国際的な常識になっている。なんとかして食い止めなくてはいけない」とも述べているように、G20や東京オリンピックという国際的な舞台で遅れがちだった日本の環境対策をアピールする目的だったというのが妥当な評価ということになります。
これは本質的なマイクロプラスチックによる海洋汚染への対策や研究を求める日本学術会議の提言とはある意味真逆の性質を持つもの。よってこの提言がレジ袋有料化をまねいたとする指摘はやはり誤りといえます。
最終的にこの騒動は、大西隆元会長が「きっかけの1つ」と控えめに述べていたところに「レジ袋有料化も学術会議の提唱がきっかけ」と小見出しを付けた東京新聞が一番誤解を招いたというオチということになりそうです。
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