VR上で「異性の身体」になる体験をすると、現実での性自認にも影響があると判明



私たちの性自認は思ったよりも身体の性別に固定されたものではなさそうです。詳細は以下から。


私たちの性自認は自分の身体への知覚と関りがあると考えられてきましたが、それが正確にどのように結びついているのか、という確立した説明はいまだ行われていません。

Pawel Tacikowski氏らの研究チームがジャーナルScientific Reportsに発表した最新の研究では、性自認とは「生まれた時の身体の性別に対応するかどうかに関わらず、自分の性別について考えたことや感じたことの集まり」と描写されます。

なおこれまでの研究では、性自認は「男か女という二択」へと押し込められるものでしたが、この研究では「両性の関連性の連続体」として扱われます。

研究者らは、VRによって別の肉体を所有する体験が個人の性自認にどのような影響を与えるのかを3つの研究を通して探りました

最初の実験では被験者は4つの状況下に置かれます。いずれの場合もヘッドマウントディスプレイを装着し、一人称視点で他人の身体から見た映像を体験します。この際の身体には男性と女性の双方が用いられます。


そのうち2つの状況下ではVR内の「物体」によって、他人の身体である男女がそれぞれ叩かれます。その際に現実でも同じ部位を同時に叩かれるため、体験がVRと現実で同期して他人の身体が自分のものであるかのような錯覚を生じさせます。

対照実験の2つの状況下では男女双方の身体が用いられますが叩かれる体験がVRと現実でバラバラで同期しません。それぞれの状況の前後で被験者らは自分が男と女どちらであると感じたかのレートを付けます。

この実験で被験者らは、VR内と現実で同じように叩かれた体験をした際に、他人の身体を所有している感覚を非常に強く持ったと感じたことを報告しています。

そして興味深いことに、VRと現実が同期した際に異性の身体になっていた状況下では、通常のベースラインを大きく超えて自分が異性になっていたと感じたことが報告されました


次の実験では、こうした錯覚がそれぞれの性自認への凝り固まった態度を変化させることが示されました。 こちらでは潜在連合テスト(Implicit Association Test、IAT)が被験者の性自認を測定するために用いられました。

研究者らはこの測定により、被験者らがVRで異性の身体を体験することをとおして、両性の関係に対してよりバランスのとれた見方をするようになったことを指摘しています。

最後の実験では、VRでの異性体験することが被験者の性別に関連する自分の個性について、自ら信じ込んでいることに影響を与えたことを示しました。

被験者らはここでは自分の男性性や女性性に対するステレオタイプな特性についてどの程度自認しているかを問われました。通常の状態では男性はより男性的とされる特性、女性はより女性的とされる特性を選びがちです。

ですが、このVRでの異性体験の後には男性性と女性性の特性とされる要素の両方を自認しているとの答えがいずれも上昇していました。


研究者らは、これらの回答に対してVRでの異性体験が「既存の性自認が潜在的なレベルで認知的葛藤を起こしており、それを調整するために性自認の方を調整しているのだろう」と指摘しています。

つまり、性自認はこれまで考えられていたよりも流動性が強いもであることが示されたことになります。研究者らは性自認と自分の身体への知覚の繫がりが「動的で、堅牢で、直接的だ」と指摘しています。

異性装をすることで異性の感覚が多少なりとも分かるといった言説はこれまでもありましたが、VRでの異性体験を触覚的に現実とリンクさせることで、私たちは男性性と女性性の双方を今よりももっと理解できるようになるのかもしれません。

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