【後編】天皇の肖像燃やす「遠近を抱えて Part II」で燃やされたのは何か、「表現の不自由展かんさい」展示レポート



紆余曲折の末に開催された「表現の不自由展かんさい」を訪れました。実際の会場の様子と展示についてレポートします。


こちらが富山県立近代美術館事件の発端となった大浦信行さんの「遠近を抱えて」です。


この事件は上記作品(実際には全14点)が右翼議員や右翼団体によって「不快」と抗議されて美術館が同作の展示を取りやめて売却したというもの。そして重要なところですが、美術館は「当の昭和天皇の肖像画が含まれる図録」を焼却処分にしたのです。

今回最も大きな物議を醸すこととなった同氏の動画作品「遠近を抱えて PartII」はこの事件を受けたものですが、天皇制への批判がまったくないことを大浦さん本人が明言しています。毎日新聞のインタビューでは

天皇が燃えているシーンは新作映画の方に入っています。これは昭和天皇の肖像といいますか、私が1986年に富山県立近代美術館の展覧会に自画像として出した、天皇のコラージュを含む版画「遠近を抱えて」の一部が燃えているものです。



と述べています。同作品は撮影禁止となっていましたが、実際に目の当たりにすると圧巻でした。

「昭和天皇の写真を燃やす」という一部のみがクローズアップされていますが、中盤の女性の独白を踏まえて全体を見渡す時、浮かび上がってくるのは天皇の肖像を用いた作品を「不快」とした抗議に屈し、天皇の肖像が掲載された目録を燃やした富山県立近代美術館という作品と、第二次世界大戦時の歴史の類似性です。

いったい「燃やしたのは誰か」、そして「何が燃やされたのか」、この作品で、そしてあの戦争で。このことをもう一度じっくりと考えさせられることになります。

天皇の肖像に絡む作品もこれ以外にも展示されています。やはりこのテーマも表現に当たって非常に機微なものであることが分かります。



それ以外では、こちらは「マネキンフラッシュモブ」という表現活動に参加した市議に、海老名市が禁止命令を出した件をめぐる裁判についての映像作品。横浜地裁は海老名市の主張を「条例の解釈適用を誤った違法なもの」と退けています。


こちらは福島第一原発事故に関する写真作品です。



話題になった富岡町のあの看板ですね。


人によっては、展示されている作品の多くにある種の拍子抜けを感じるかもしれません。いったいなぜこれを展示することが問題視されたのか。誰がそんなに問題だとしたのか。そこまでする必要があったのか。見た人がそうした疑問を抱けば、この展示は成功だったということになるのでしょうか。


もしくは、ネット上でも皮肉半分で言われているように、東京で延期、名古屋で中断となり、大阪でも裁判沙汰に発展、抗議に加え脅迫やテロ紛いの事件まで起きたことが「表現の不自由」そのものであり、これをも展示会の一部として日本の表現の自由の危機を示せたとして「成功」とすることもできるかもしれません。


実際にはそうした評価も含めて見た人が感じ、考えるのが芸術の醍醐味ということができそうです。「表現の不自由展かんさい」は7月18日(日)まで開催されており、午前9時に会場のエルおおさか7階にて当日整理券が配布される入れ替え制となっています。

10時から20時(最終日は16時)まで1時間ごとの時間指定が可能で、観覧時間は50分。1回につき50人限定で、整理券が無くなり次第配布終了となります。

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