風営法のダンス規制問題、規制改革会議に見るそれぞれの意見と「噛み合わなさ」の原因とは


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2012年から始まったダンス規制を巡る風営法改正運動。ダンス文化推進議員連盟が発足し、規制改革会議の議題として論じられるなど、2年間で多くの議論が行われていますが、各々の立場からの議論にはズレもあり、問題の把握を困難にしています。一体誰が、何をどのように論じているのか、2014年1月の規制改革会議から読み解いてみます。


2013年11月22日に行われた規制改革会議において、風営法のダンス規制問題が始めて議題として扱われました。その中では専門委員から「1個1個の問題をつぶすように対応していけばいいはずであって、風営法でダンスを全般に取り締まれば解決する話でもない」との意見が出るなど、ダンス自体への規制の有効性について多くの指摘がありました。

風営法のダンス規制問題のヒアリングが規制改革会議で行われ「ダンス自体が問題ではない」ことが確認される BUZZAP!(バザップ!)

2014年1月20日に規制改革会議において「ダンスに係る風営法規制の見直し」に関するヒアリングが実施され、前回も出席したLet's Danceの齋藤弁護士、ダンス教室側から日本ダンススポーツ連盟、地元住民の代表として六本木商店街振興組合に加えて規制当局である警察庁も出席して見解を示しています。

創業・IT等ワーキング・グループ 議事次第 - 内閣府

警察庁、事業者からのヒアリング「ダンスに係る風営法規制の見直し」(pdf)


この中で警察庁の見解にはダンスが「享楽的」であることへの曖昧さ、恣意性が見られ、法改正を目指すLet's Dance、ダンス教室側はもちろん地元住民側とも認識が乖離していることが見て取れます。

警察庁の、特に3号営業に対してのスタンスは以下のとおり。

3号営業「設備を設けて客にダンスをさせ、かつ、客に飲食をさせる営業」をめぐっては、資料の上の方に記載してありますとおり、「騒音・い集」「年少者の出入り」「店内外における傷害事案・もめごと等」「薬物売買・使用容疑」「女性に対する性的事案」等の問題が見られるところであり、地域住民から警察に対して強い取締要望が寄せられているところでございます。

客にダンスをさせる営業について、風俗営業の規制の対象から除外すべきではないかという声もございますが、3号営業をめぐっては先ほど御説明したとおり問題となる事案が発生し、地元住民からの苦情・取締要望が寄せられております。

このような状況の中で3号営業に対する風営法の規制を撤廃することは、暴力団員等の悪質な営業者による不適切な営業行為により風俗上の問題が生じ得ること、騒音等により営業所周辺地域の生活環境が悪化し得ること、18歳未満の者を客として営業所に立ち入らせることにより少年の健全な育成に問題が生じることが懸念され、今以上に様々な問題を惹起するおそれがあることから問題が多いのではないかと考えております。まずは営業者が業界団体を作るなどして自主規制を行い、営業の健全化に向けた努力をする必要があるのではないかと考えております。





地元住民からの苦情と取締要望が存在していること、そして現状でのダンス規制の撤廃が暴力団組員等による不適切な営業や地元住民とのトラブルを招き、犯罪を増やすことになる。よって、まずは業界団体などを作って自主規制を行って健全化の努力をすべきだということ。

これに対し、齋藤弁護士はダンスの文化、観光、教育などの産業の裾野の広さを提示し、風営法がこれらを大きく制限していると弊害を指摘します。



文化としては、単に音楽、ダンスだけではなくて、ファッション、映像、あるいはいろいろなIT企業のアイデアの交換の場になっていたり、観光としては、オリンピックに向けて外国人をもてなすための非常に重要な資源になると思っております。教育に関しては、中学校の体育の必修科目としてヒップホップが取り上げられたりして、その効果が期待されております。

これが現行の風営法の規制の中で非常に大きな制限を受けてしまっていて、過度にわたる制約の中に非常に制限されてしまっているというところです。





また、近隣住民からの苦情や取締要望の内容に関して「そういったトラブルの事実はあったとして、それを回避、防ぐために風営法の現行のダンス営業規制が有効性を示していないのではないか」という疑問が前回の会議で指摘されたことを紹介。

さらに大阪のClub NOONの訴訟に関し、ダンスの基準が現場警察官の間でも混乱しており、「ダンスによる規制」の限界が露呈されていると指摘しています。

現時点で発生しているトラブル解決については「深夜営業をまず適法化しつつ、その中でより実効的なトラブルの解決策を探っていくべき」との要望が六本木商店街振興組合からあったことを挙げながら「個別の取締法規によっていかに実効的な取締りを実現していくべきか、どういった体制で個別取締法規を有効化していくのかというところだ」との方向性を示しています。



具体的なトラブルに即して、個別の取締法規で解決を目指していくべきと考えておりまして、例えば騒音・い集は迷惑防止条例などで取締りが可能ですし、暴行傷害、薬物などの事件、女性の性的事案については各種刑法犯で摘発が可能です。ゴミ問題については、現行の風営法ではなかなか解決が難しいので、事業者や地域などによって取組をしていく、取組を促していくことが必要だと思っています。





また、クラブ事業者の中で事業者団体設立に向けた動きが進んでいることも確認されました。

それに加え、営業が風俗営業とされることでの社会的にマイナスのレッテルが貼られる問題から、深夜酒類提供飲食店として届け出制の中で営業することでこの問題を回避するとともに、警察が業態を把握し、継続的な指導体制を構築することができるのではないかとの提案が行われています。

ここからが議論なのですが、日本ダンススポーツ連盟から「平成24年度の犯罪情勢」という警察庁発行の白書のようなものに「ダンスのダの字も出てこない」ことから



薬物販売・使用容疑とか、女性に対する性的事案と記載されている部分、こういうものがダンス営業に起因して実際にどのくらい把握されているのか?

もしかすると「1、2件あるのですよ」ということかもしれません。それにしてもこれだけ大きくダンス営業そのものを規制してしまうということに発展するだけの科学的根拠が今、あるのかどうか





との質問が出されます。これに対して警察庁は



ナイトクラブ営業等につきましてここに書いておりますけれども、これは110番で騒音だ、い集だという話がありましたり、あるいは検挙した事例の中で、クラブの中でどんなことが行われていたのかということをいろいろ捜査の中で明らかになってきた事案を見ますと、先ほどおっしゃられましたように、個別の事案として立件には至っていないものの、クラブの中でそういう事案も発生している





と回答しています。ここに大きな議論の噛み合わなさが存在しています。要するに、「クラブで(立件には至らずとも)問題が発生した」ということと「クラブでの問題がダンスに起因する」ことが立証されていないのに、ダンスが規制の対象になっているということ。

規制改革会議の安念座長は



根本問題は、ダンスという点に着目して規制をすることの是非、あるいは効率性ということに結局はなるのでしょうね。問題は恐らく警察庁さんとしては、戦後の一時期はダンスというものが非常に不健全な営業ということに直結する立法事実がやはり少なくとも一時期はあったのだろうと思うのです。それが今でも維持できるものかどうか。

ここにおっしゃるような騒音とか薬物とかごみとかいうのは悪いということは当たり前の話で、それをダンスという切り口で規制するのが効率的な規制になるのか。それとも齋藤弁護士その他おっしゃるように、それはそれで別途に対応すべきなのか、そちらのほうが効率的なのかという話だと思うのです。





と述べています。これに対し佐久間委員からは



ダンスと他が違うのは音と振動というところだと思うのです。これは物理的にはっきりしていて、静かに酒を飲む場合、これの深夜まで飲む場合とダンスをする場合で、それは物理的に違う。だから、そこについての合理的な規制というのはあってしかるべきだと思うのです。

そのときに、これを全部規制の対象から外すと、では騒音は、一般のもちろん環境規制というのはありますけれども、特別には何も規制されないということでいいのか。





との質問が出されます。この点に対して齋藤弁護士は「深夜酒類提供飲食店でも風営法の規制内容を準用しておりまして、そこで法的には対応可能」との認識を示した上で



今、町で実際に問題になっているのは、お店の中から出る騒音ではなくて、酔っ払ったお客さんがまちに出てわあわあ騒ぐ、そういった騒音が特に問題視されておりまして、そういうお客さんの出てくるところはもちろんクラブだけではなくて、カラオケボックスだったり居酒屋だったりバーだったりいろいろなところがありまして、それは風営法でダンスを規制するだけではむしろ不十分で、迷惑防止条例ですとかいろいろな店舗の事業者によるパトロールですとか、もう少し地域と密着した実効的な取締りが求められている





として、問題がクラブ内からの騒音よりも店外に出た酔客が騒ぐ時の騒音であることを指摘、さらに風営法によるダンス規制がこの問題に有効ではないことを示します。

ここで議論が更に噛み合わなくなるダンス規制の根拠が警察から提示されます。それが「『男女の享楽的な雰囲気』が問題を引き起こす可能性があり『善良の風俗と正常な風俗環境』を乱す」というもの。



男女の享楽的な雰囲気という意味では、そういったことからいろいろな問題が生じているということでありますので、完全に規制の外に外してしまうというのは問題ではないかと考えております。





久保利専門委員は風営法が享楽禁止法的な側面を禁ずるという側面に対し「享楽的なこと」を国が介入して取り締まることが過剰規制ではないかと反論。



この法律(筆者注:風営法)の保護法益は、一体誰に対して何を禁止するためにあるのかという根幹的なところで疑問があります。申しわけありませんけれども、私には、享楽的なことがいかんと言われますと、誰かにとっては享楽的なことというのはダンスだけではなくたっていろいろな享楽があるわけですから、国が介入して取り締まるというのがもし風営法の存在意義だとすると、これはちょっと過剰規制の法律なのではないかと私は思います。





しかし警察庁側はあくまで「善良の風俗と正常な風俗環境」を守るために風営法での規制が必要との見解を崩しません。



この法律によって守ろうといたしておりますのは、法令文上は善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、少年の健全育成に障害を及ぼす行為を防止するということでありますが、先ほど申し上げましたように、一番行き着くところまで行ってしまうと、売春だとか賭博だとかわいせつ行為だとかそういうことになりますけれども、それに至らないまでも、男女間のそういうお酒に酔っ払って嬌声を上げたりとかそういったものによって、社会的な道徳規範というようなものが乱れてきたり、周りに住んでいる人に対してそういった声が漏れていたりとかして環境が害されるとか、あるいはそういった酔っ払って男女がいろいろやっているところに少年が入っていくと健全育成上も問題があるだろうと、そういったことを踏まえまして規制を行っているというものでございます。





ですがここで挙げられている売春や賭博は言うに及ばず、男女がお酒に酔っ払って嬌声を上げて騒いだり周辺住民に迷惑をかけるといった事例に対しても、これらの問題を「ダンス規制」という切り口で規制することの有効性に疑問が呈され、個別の法律で取り締まるべきではないかという指摘がされています。

久保利専門委員はさらに



その目的だと言っていることがどうも騒音というのも外へ出てからうるさいのだとか、酔っ払った男女が往来で何かごちょごちょやるからいけないとか、要するにどこにも営業施設ということに絡む問題、それからダンスをするということに対する問題点という指摘にはなっていないのではないか。それではどうも合理性がないのではないか





と追求しますが、警察庁側は



それは、社会的な実態としてこういった形態の営業があって、そういう営業をやっている営業所の周辺ではそういった問題が起きているということがあって規制をしてきたということでございまして、現時点においてもその必要性というのは変わらないだろうと考えておるところでございます。





と回答。話が堂々巡りしています。まず「ダンスをさせる営業」が一連の問題の原因で、ダンスをさせることを規制すれば問題が解決するのかという問いへの答えがありません。

また、「風営法によるダンス規制がこれらの問題の解決に有効に機能していないばかりか、適法な営業ができないことで警察との連携を妨げている」という状況の指摘があるにも関わらず「問題があるから規制していて、その問題が未だ起きている以上変える必要はない」との考えで、時代遅れになった風営法のダンス規制そのものが問題を温存させている可能性が考慮されていません。

警察のこうした認識は周辺住民の代表として出席した六本木商店街振興組合の以下の様な要望からもずれており、周辺住民からの苦情や取締要望を根拠のひとつとするにあたっては不十分な対応と言えます。



大局的に見て、ダンスを風営法から外すというのはある意味では時代の要請なのかなと思っております。そういうところは理解を示すものではございますけれども、やはりまたこれを外しますと、先ほど警察庁さんが御指摘いただいたようないろいろな問題が別に発生をする可能性がある。そこの可能性のあるところを、また別の法律なり何なりでしっかりとやっていただきたいなと思っています。





長くなりましたが、風営法のダンス規制について考える時、クラブ・ダンス文化の当事者、周辺住民、取締当局の間での主張の齟齬について認識するのは議論を進める上で非常に重要です。

現在の風営法改正運動は「いつでもどこでも好き放題踊らせろ」というものではありません。諸問題をダンスによってではなく、それぞれに対応する法律で適切に規制し、社会の現状に則した形での法整備を行い、ダンス文化を守り、広めていこうという運動です。

前述したように取締当局との窓口となる事業者団体の設立に向けた動きが進んでいる他、クラブとクラブカルチャーを守る会が先導して自主ルールづくりにも着手しています。

夜の「ダンス文化」守れ クラブが自主ルール準備 :日本経済新聞

さらにはアーティストやDJら、プレイヤーからクラブファンに対しても「もっと粋に遊ぶことを考えようよ」というキャンペーン「playcool」も始められるとのこと。




なお、現時点でダンス文化推進議員連盟からは風営法改正案が以下の2案が挙げられています。




飲食店営業等(32条~34条)で規制を受けるか、新たにダンス飲食店営業(仮称)を創設して風営法の枠外での規制となるかとのこと。

どちらになるにせよ、最終的には踊りに行くクラブファンたちが法律やクラブの自主ルールを重んじ、大人としての責任ある遊び方ができなければ、風営法からダンス規制がなくなったとしても逗子市の海の家での音楽禁止を盛り込んだ条例のように、別の方法で規制されることになります。

「海の家」クラブ化規制 神奈川・逗子市「日本一厳しい」条例案 - MSN産経ニュース

風営法のダンス規制問題で問われているのは規制当局の現状認識だけではなく、クラブに関係する事業者からアーティスト、クラブファンまで全員の社会への態度であることは忘れてはなりません。



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