7月30日にツイッター上でSEALDsの主張を利己的個人主義と批判して大炎上した武藤貴也議員ですが、この発言はまだまだ穏当だったと思えるほどに極端な主張を繰り返していました。詳細は以下から。
◆問題の発端
問題の発端となったのは以下のツイート。現在ネットやニュース番組などを通じて全国的な認知度を誇ることとなったSEALDsに対し、「自分中心、極端な利己的考えに基づく」と暴言を発した上に、戦後教育がそうした「利己的個人主義」を蔓延させたとしています。
SEALDsという学生集団が自由と民主主義のために行動すると言って、国会前でマイクを持ち演説をしてるが、彼ら彼女らの主張は「だって戦争に行きたくないじゃん」という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ。
— 武藤貴也 (@takaya_mutou) 2015, 7月 30
この発言に対しては当然多くの批判が相次ぎ、武藤議員は140字では説明しきれないとしてFacebookで補足の説明をポストしています。
様々なご意見ありがとうございます。ツイッターは文字数に限りがありますので、私の考えはFACEBOOKにて書かせて頂きました。ご関心のある方はそちらをご覧下さい。https://t.co/2sCjrMPSBe
— 武藤貴也 (@takaya_mutou) 2015, 8月 1
まず武藤議員の発言の根底にはSEALDsに対する悪意に満ちた誤読が存在しています。武藤議員はSEALDsの主張を「『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考えに基づく」と断じていますが、これは完全に誤り。
「だって戦争に行きたくないじゃん」という気持ちを持っている事自体は武藤議員もFacebookのポストで自ら「誰もが戦争に行きたくないし、戦争が起こって欲しいなどと考えている人はいないと思います」と書いているようにごく自然なものであり、誰にも決して否定できるものではありません。
そしてSEALDsの主張は彼らのHPのOPINIONの項目に明確なヴィジョンが示されています。安全保障についての主張の一部を抜粋すると
平和憲法を持ち、唯一の被爆国でもある日本は、その平和の理念を現実的なヴィジョンとともに発信し、北東アジアの協調的安全保障体制の構築へ向けてイニシアティブを発揮するべきです。私たちは、こうした国際社会への貢献こそが、最も日本の安全に寄与すると考えています。
先の大戦による多大な犠牲と侵略の反省を経て平和主義/自由民主主義を確立した日本には、世界、特に東アジアの軍縮・民主化の流れをリードしていく、強い責任とポテンシャルがあります。私たちは、対話と協調に基づく平和的かつ現実的な外交・安全保障政策を求めます。
としており、武藤議員の指摘する「だって戦争に行きたくないじゃん」という「自分中心、極端な利己的考え」に立脚しているわけではありません。
また、武藤議員はFacebookポストの中で砂川事件の最高裁判決について触れていますが、この裁判は以前BUZZAP!でも指摘しているように、米軍の駐留の合憲性に関するものであり、横畠裕介内閣法制局長官さえもが「集団的自衛権について触れているわけではございません」と国会で明言しています。
【追記あり】安倍政権が「戦争法案」を「合憲と確信」などと反論するも全方位から袋叩きに | Your News Online
「違憲かどうかの議論意味無い」「考えるのは政治家」安倍政権から憲法を軽視する声が続々と上がる、新国立競技場問題でも | Your News Online
こうした判決の中から、裁判では触れられていない集団的自衛権に関わる「戦争法案」を養護するために裁判長の補足意見を都合よく抜き出し、SEALDsを「真の平和主義に忠実なものとは言えない」と指摘してみせる行為は恣意的なミスリードでしかありません。
また、武藤議員は「他国が侵略してきた時は、嫌でも自国を守るために戦わなければならない」とも書いていますが、これは100%個別的自衛権の件であり、違憲とされる集団的自衛権とは明確に区別されるもの。こうした意図的な「自衛権」の混同もミスリードです。
ですが、武藤貴也議員の本当の暴言はこれどころのものではありませんでした。
◆わが国は核武装するしかない
対米自立の月刊誌、「月刊日本」の2014年5月号に掲載された武藤議員へのインタビューが以下に全文掲載されています。
日本は自力で国を守れるように自主核武装を急ぐべきなのです。日本の核武装反対論は、論理ではなく感情的なものです。かつて広島、長崎に原爆を落とされた国として核兵器を許さないという心情的レベルで反核運動が展開されてきたのです。しかし、中国の台頭、アメリカの衰退という国際情勢の変化に対応して、いまこそ日本の核武装について、政治家が冷静な議論を開始する必要があると思っています。
核武装のコストについては様々な試算がありますが、私は安上がりな兵器だと考えています。何より、核の抑止力によって戦争を抑止することができます。核武装国家同士は戦争できないからです。
武藤貴也(衆議院議員) 『わが国は核武装するしかない』 維新と興亜 Asia Restoration
核武装反対論は感情的なもので、中国の脅威に対向するために「安上がりな兵器」である核兵器を日本が抑止力として持つべきだとの主張を行っています。
ネット上で時折見かけるようなよくある稚拙な核抑止論ですが、日本が核武装するということが世界からどのように認識され、そのことが外交関係にどのようなインパクトをもたらすのかを一切考慮していない以上、暴論であると断ずる他ありません。
◆「国民主権・基本的人権の尊重・平和主義」は日本精神を破壊する
そして2012年のオフィシャルブログの記事で武藤議員は日本国憲法の「三大原理」である「国民主権・基本的人権の尊重・平和主義」が日本精神を破壊する大きな問題を孕んだ思想であると主張します。その中で基本的人権について述べた部分を抜粋すると
「基本的人権の尊重」について。私はこれが日本精神を破壊した「主犯」だと考えているが、この「基本的人権」は、戦前は制限されて当たり前だと考えられていた。全ての国民は、国家があり、地域があり、家族があり、その中で生きている。国家が滅ぼされてしまったら、当然その国の国民も滅びてしまう。従って、国家や地域を守るためには基本的人権は、例え「生存権」であっても制限されるものだというのがいわば「常識」であった。もちろんその根底には「滅私奉公」という「日本精神」があったことは言うまでも無い。だからこそ第二次世界大戦時に国を守る為に日本国民は命を捧げたのである。しかし、戦後憲法によってもたらされたこの「基本的人権の尊重」という思想によって「滅私奉公」の概念は破壊されてしまった。「基本的人権の尊重」という言葉に表された思想の根底には、国家がどうなろうと社会がどうなろうと自分の「基本的人権」は守られるべきだという、身勝手な「個人主義」が存在している。従って、国民は国家や社会に奉仕することをしなくなり、その身勝手な個人主義に基づく投票行動が政治を衆愚政治に向かわせ、政治は大衆迎合するようになっていった。それは言うまでも無く「国民の生活が第一」を高らかに叫ぶ今の政治に如実に表れている。
(日本国憲法によって破壊された日本人的価値観。|武藤貴也オフィシャルブログ「私には、守りたい日本がある。」Powered by Amebaより引用)
といったように第二次世界大戦の死者たちは「滅私奉公」という「日本精神」によって、国を守るために命を捧げたと美化しています。さらに日本国憲法のもたらした「基本的人権の尊重」という思想によってこの「滅私奉公」の概念が破壊され、身勝手な「個人主義」が広がるようになってしまったと嘆いてみせます。
ここで批判される「身勝手な『個人主義』」はSEALDs批判での「自分中心、極端な利己的考え」「利己的個人主義」と同質のものであり、上記ポストの「国民主権」「平和主義」への批判とともに武藤議員が日本国憲法を始めとした戦後の日本のあり方をこの上なく敵視していることが分かります。
こうした文脈から、武藤議員がSEALDsら自由と民主主義のために行動する若者たちに求めているのは「滅私奉公」を始めとする「日本精神」であり、国を守るために命を捧げることであるということが容易に読み取れます。
なお、武藤議員の述べる「日本精神」とは
「徳」とはまさしく「勤勉」「正直」「誠実」「勇気」「謙虚」「滅私奉公」等々といった古来からある「日本人的価値観」である。今の政治を見ていると想像もつかないが、かつて日本の武士は「法」より高い次元の「徳」や「礼」で裁かれた。いわゆる「法治主義」では無く「徳治主義」だった。
といったもので、「徳」や「礼」は明らかに中国の儒教から輸入されたこの上なく中国的な精神なのですが、その辺りの矛盾に無自覚的であるのは大きな謎です。
先月も大きな騒動になったように、自民党の若手には公然と報道機関への圧力を公言する議員も存在していることは周知の事実ですが(当該勉強会「文化芸術懇話会」にはやはり武藤議員も参加しています)、核武装を主張した上に日本国憲法を激しく適しする武藤貴也議員は憲法99条の憲法尊重擁護義務に反しており、即刻辞任すべきではないでしょうか。
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