菊池桃子が1億総活躍国民会議で提唱してネットで絶賛されている「ソーシャル・インクルージョン」ってどんな考え方?



提唱された瞬間から批判の嵐だった「1億総活躍社会」、タレントの菊池桃子さんから「ソーシャル・インクルージョン」という言葉の提案が行われて絶賛されていますが、果たしてどんな考え方なのでしょうか?


◆1億総活躍国民会議に民間議員として参加した菊池桃子さんの発言
第3次安倍改造内閣が提唱した「1億総活躍社会」。戦中のスローガン「進め1億火の玉だ」や戦後の「1億総懺悔」、そして「1億総中流」などを思い起こさせる古臭さと日本人全員に同じ方向を向かせようとする同調圧力を感じさせる言葉であるとして不評でしたが、意外なところからダメ出しが入りました。

10月29日に開催された「1億総活躍社会」を実現させるための具体策を話し合う「1億総活躍国民会議」。子育てとタレント業を両立させ、教育問題にも関わり続けている菊池桃子さんは民間議員としてこの会議に参加していました。知名度の高い女性タレントの起用に「安直な『客寄せパンダ』である」などと批判されていましたが、ダメ出しを行ったのはこの菊池桃子さんでした。

菊池桃子さんは会合後に記者団の取材に応じ、「1億総活躍」の定義について意見したと述べています。それによると

1億総活躍のその定義につきましては、ちょっとなかなかご理解いただいていない部分があると思いますので、私の方からは、1つの見方として、言い方として『ソーシャル・インクルージョン』という言葉を使うのはどうでしょうかと申し上げました。ご存じのとおり、ソーシャル・インクルージョンというのは、社会の中から排除する者をつくらない、全ての人々に活躍の機会があるという言葉でございまして、反対の言葉は、対義語は「ソーシャル・エクスクルージョン」になります。

今、排除されているであろうと思われる方々を全て見渡して救っていくことを、あらゆる視点から、今日各大臣がご参加いただきましたので、考えていただきたいと、そのように申し上げました。



とのこと。ネット上では大きな反響が起こっています。
















◆ソーシャル・インクルージョンってどんな考え方?
初会合で「1億総活躍」というネーミングをいきなり否定して新しい言葉を提唱してしまったことに大きな驚きの声が上がりましたが、絶賛された理由は彼女の提案した「ソーシャル・インクルージョン」という考え方です。

菊池さん本人が説明している通り、ソーシャル・インクルージョンは「社会の中から排除する者をつくらない、全ての人々に活躍の機会がある」という意味で、日本語には「社会的包摂」と訳されます。傷害保険福祉研究情報システムのHPでは以下のようにも説明されます。

ソーシャルインクルージョンは、「全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」という理念である。EUやその加盟国では、近年の社会福祉の再編にあたって、社会的排除(失業、技術および所得の低さ、粗末な住宅、犯罪率の高さ、健康状態の悪さおよび家庭崩壊などの、互いに関連する複数の問題を抱えた個人、あるいは地域)に対処する戦略として、その中心的政策課題のひとつとされている。

傷害保険福祉研究情報システム ソーシャルインクルージョンより引用)



また、世界銀行のHPでは以下のように説明され、ソーシャル・インクルージョンは世界銀行グループがが2030年までに貧困を撲滅するというゴールへの中心的な方針であるとされます。

ただ貧困のみが遮断の包括的な印なのではない。人種、民族、ジェンダー、宗教、居住地域、障がい、年齢、HIV感染の有無、性的指向といったスティグマ的な印が様々な工程や機会から排除する不利益を与える。

世界銀行はソーシャル・インクルージョンを個人や集団が社会に参加するための折り合いを改善させてゆくプロセスだと定義する。

ソーシャル・インクルージョンは貧しい人や無用のものとして軽んじられている人々に力を与え、芽吹き始めている世界的な機会を利用できるようにすることを目指す。そしてソーシャル・インクルージョンは人々が自らの生命や、市場、サービス、政治的・社会的・物理的空間への平等なアクセスの享受に影響を及ぼす決定に対して発言権を有することを保証する。

The World Bank Social Inclusionより引用 拙訳)



◆では対義語のソーシャル・エクスクルージョンとは?
この言葉をさらに知るために「社会的排除」と訳される対義語の「ソーシャル・エクスクルージョン」の意味を考えてみます。少し長いですが公益財団法人日本女性学習財団のHPから引用します。

「社会的排除」とは、「福祉制度や労働市場等、社会のさまざまな領域において、その構成員の地位・資格を喪失すること」である。雇用からの排除が市民としての権利を縮小し、健康悪化を招き、家族・近隣関係も希薄にするというように、ある領域での排除が他の領域での排除を誘発するプロセスに着目する点に特徴がある。

フランスで生まれた「社会的排除」は、戦後復興から取り残された人々の存在を問題化する概念だった。脱工業化とグローバリゼーションが顕著となった1980年代、若者の長期失業や不安定雇用など、新たな社会問題が生じ、それらを総称するキー概念として「社会的排除」は欧州全体に広がった。EUでは「社会的排除」の撲滅と、社会参加の可能性を保障する「社会的包摂」施策の推進を加盟国共通の目標に掲げている。「社会的排除」の調査も進み、若者、傷病者、障害者、母子世帯、退職者等が、明らかに高い確率で被排除者グループになると報告されている。

日本では、1990年代に浮上したホームレスや格差など、新たな社会問題の背後に、排除の累積や連鎖があると言われる。「社会生活に関する実態調査」(国立社会保障・人口問題研究所2006)によれば、過去の不利な要因(離婚、解雇、傷病、15歳時の生活苦等)が、現在の「社会的排除」(生活必需品・住居・社会関係の欠如、社会制度への未加入等)に深く関連することが示された。(2009.8)

社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)|日本女性学習財団|キーワード・用語解説より引用)



こうして見るとまずソーシャル・エクスクルージョンが問題となり、それらへの解決策としてEUなどでソーシャル・インクルージョンが提唱されてきた歴史が分かります。日本でも1990年代に浮上した新たな社会問題の根にソーシャル・エクスクルージョンの連鎖が起こっているとされており、その解決にソーシャル・インクルージョンという考え方が広く導入されることは重要です。

菊池桃子さんがこうした考え方に行き着いたきっかけには障がいを持って生まれた2番目の子供の存在があったといい、記者団の取材に対しても以下のように答えています。

ハンディキャップを持った2番目の子供につきましては、就学も難しく、また学習機会というのも、義務教育であるにもかかわらず、なかなかその場所がなくて、探すのに苦労したことがございました。その辺りの社会的構造に関しても、それはまさにソーシャル・エクスクルージョンになるかという思いがございました。



◆現代日本の「ソーシャル・エクスクルージョン」問題は?
現代日本でも、それぞれの言葉を借りるのであれば「若者、傷病者、障害者、母子世帯、退職者等」「離婚、解雇、傷病、15歳時の生活苦」などの不利な要因によって「失業、技術および所得の低さ、粗末な住宅、犯罪率の高さ、健康状態の悪さおよび家庭崩壊などの、互いに関連する複数の問題」に苛まれており、まさに「ソーシャル・エクスクルージョン」が大発生している状態です。

具体的には格差の拡大、子供の貧困、非正規雇用、ひとり親家庭への支援の不足、介護、少子高齢化などなど「互いに関連する複数の問題」として考えていかなければ立ち行かない問題が山積しています。

そうした問題に対し「社会の中から排除する者をつくらない、全ての人々に活躍の機会がある」「今、排除されているであろうと思われる方々を全て見渡して救っていくこと」は喫緊の課題であり、「1億総活躍社会」を実現させるのであればその大前提となります。

教育、雇用、社会保障などの政策はこうしたソーシャル・インクルージョンの核となりうる重要なもの。現在はこれと真逆の方向性となる政策も多いですが、これを機に大きな方向転換が為されることが強く望まれます。

最後に、菊池桃子さんと反貧困ネットワークの湯浅誠さんが出演したブラック企業に関するテレビ番組のリンクを掲載します。


菊池桃子氏が名前に「ダメ出し」1億総活躍国民会議初会合「ソーシャル・インクルージョンと言い換えては?」記者団とのやり取り詳報 - 産経ニュース

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