安倍首相が改憲における「大切な課題」と強調した「緊急事態条項」とは?



安倍首相は11月11日の参院予算委員会で改憲について「緊急事態条項は大切な課題だ」との見解を示しました。


11月11日参院予算委員会の閉会中審査が開かれ、安倍首相はここで憲法改正について「緊急時に国民の安全を守るため、国家、国民自らがどのような役割を果たしていくべきかを憲法にどのように位置づけるかは極めて重く大切な課題だ」と述べて緊急事態条項の新設を強調しました。

◆緊急事態条項って何?
ではいったい緊急事態条項とは何なのでしょうか?日本国憲法にはその規定は存在していませんが、自民党の改憲案では第九章がまるまる「緊急事態」として新設されており、第98条と第99条でその宣言の手続と効果が記されています。まずは全文を引用します。

第九章 緊急事態
第98条(緊急事態の宣言)
1 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。

第99条(緊急事態の宣言の効果)
1 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

【自民党憲法改正草案】見やすい対照表で現憲法との違いが分かる! 第9章 緊急事態 [98~99]より引用



◆どんな時に宣言されるの?
大きく分けると改憲案では4つの事態が想定されています。

・我が国に対する外部からの武力攻撃
・内乱等による社会秩序の混乱
・地震等による大規模な自然災害
・その他の法律で定める緊急事態



簡単にいえば戦争、内乱、激甚災害、その他ということになります。自民党のトンデモ改憲マンガでは東日本大震災を引き合いに出して自然災害時に素早く対応できるようになることが強調されていましたが、それだけをクローズアップするのは大きなミスリードとなります。

◆どうやって宣言されるの?
閣議決定によって宣言を発することが可能。国会の承認は「事前または事後」とされていることから、ある日内閣が突然「特に必要があると認め」たとして閣議決定し、緊急事態を宣言することもできてしまいます。

◆何ができるようになるの?
内閣と内閣総理大臣賞が大きな権限を持てるようになります。具体的には

・内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる
・内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行える
・内閣総理大臣は地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる



つまりは内閣は国会による正式な立法のプロセスを経ずに好きなように法律と同じ効力のある政令を制定することができてしまいます。一応は「法律の定めるところにより」との但し書きが付いていますが、結局自ら国会の承認無しで法律と同じ効力のある政令を制定できるため、いくらでも抜け道を作れてしまいます。

そして内閣総理大臣は好きなように財政を動かせる、つまりは私たちの税金を国会に掛けずに使うことができるということ。また、都道府県や市町村といった地方自治体長に対して「指示」を出すことができるというのも大きな特徴となっています。

なお、これらへの国会の承認は「事後」でよいことが明記されています。

◆国民への影響は?
「国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない」とされており、緊急事態が宣言された場合は国や公的機関の「指示」には従わなければならなくなります。これは改憲案なので罰則規定などはもちろん盛り込まれていませんが、内閣が緊急事態宣言後に罰則規定を盛り込んだ政令を作ることもできます。

なお、この際にも「第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」とされています。これらはそれぞれ「法の下の平等」「身体の拘束及び苦役からの自由」「思想及び良心の自由・個人情報の不当取得の禁止等」「表現の自由」を指します。

ここで極めて大きな問題なのは緊急事態の際にこれらの基本的人権を「侵してはならない」のではなく「最大限に尊重されなければならない」としていること。基本的人権に対して何らかの侵犯があったとしても、内閣が「問題ない。基本的人権は最大限に尊重しており批判は当たらない」と強弁するケースが十分に考えられるのです。

なお、憲法草案へのQ&Aの中で自民党は

「緊急事態であっても、基本的人権は制限すべきではない。」との意見もありますが、国民の生命、身体及び財産という大きな人権を守るために、そのため必要な範囲でより小さな人権がやむなく制限されることもあり得るものと考えます。



と述べており、生命、身体及び財産という大きな人権を守るために「法の下の平等」「身体の拘束及び苦役からの自由」「思想及び良心の自由・個人情報の不当取得の禁止等」「表現の自由」などの小さな人権を制限することもやむを得ないとの考えを明らかにしています。

◆実際の危険性は?
現憲法下ですら閣議決定によって半世紀以上保たれてきた憲法の解釈を変え、違憲であるとの批判に聞く耳すら持たずに安保体制の根幹を変更してしまう内閣が存在しているわけです。

仮にそうした総理大臣の元で緊急事態条項ができてしまった場合、喜々として緊急事態を宣言し、それを錦の御旗として好き放題な「改革」を行って国民の基本的人権を抑圧する可能性も決して否定することはできません。

「災害時の迅速な対応」というもっともらしい言葉のみを鵜呑みにしてしまうのはあまりにも危険なのではないでしょうか?

首相、憲法改正「緊急事態条項は大切」 参院予算委 :日本経済新聞

緊急事態条項の新設は「大切な課題」 安倍首相が強調:朝日新聞デジタル


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