厚労省の「低所得層はバランスの良い食事を」という提言に非難殺到、何が問題で本来どうするべきだったのか


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厚労省の低所得層の食事に対する提言が「現代のマリー・アントワネット」とまで揶揄され大きな反発を引き起こしています。

一体発言の何が問題で、低所得層が栄養バランスのよい食事をとる余裕がないのはなぜなのでしょうか?


◆「低所得層はバランスの良い食事を」、厚労省の提言が炎上
12月13日にNHKが放映した所得低いほど栄養バランスよい食事取れずとのニュースの中で、所得が200万円未満の層は600万円以上の層に比べて炭水化物の1日あたりの摂取量が多く、野菜や肉類の摂取量も少なく、所得が低い人ほど栄養バランスのよい食事が取れていないことが報じられました。

この中で厚生労働省が「所得が低い人は栄養バランスのよい食事をとる余裕がなくなっているのではないか。食事の内容を見直すなど健康への関心を高めてほしい」とコメントしたことが大炎上してしまいました。

これは「栄養バランスのよい食事を食べられるよう、食事の内容を見直してほしい」という、低所得者層に努力を促す内容であったこと、そして栄養バランスのよい食事をとるということ自体が所得の低い層にとっては簡単なことではないため。

フランス革命前夜、飢えた民衆に対して王妃マリー・アントワネットが言い放ったとされる「パンが無ければバター入りのケーキを食べればいいじゃない」に勝るとも劣らない迷言とまで言われてしまいました。

では低所得層が栄養バランスのよい食事をとる余裕がなくなっている理由はいったい何なのでしょうか、どうして食事の内容を見直し、健康への感心を高めるのが難しいのでしょうか。

◆そもそも食費が増大している
現在「軽減税率」という名の据え置き税率が外食を除く食料品に適用されることで議論が行われていますが、すでに8%へと消費税が上がって以来、食料を買うために必要な金額が上昇しています。人間は食べなければ生きていけないので、毎日必要になる食事にまつわる税金が増えるのは低所得層にとっては極めて大きな問題となります。

また、日本は多くの食料品を輸入していますが、政府による円安誘導によって、原材料費も大きく高騰。過去10年で最も円が高くなった「1ドル80円」時代と、最も円が安くなった「1ドル120円」時代を比較すると、どれだけ輸入品が値上がりしたのかは顕著です。


このように、消費税率アップと円安のダブルパンチによって「一見値段が据え置かれているように見えても、実は内容量が減少している」というケースも多く、満足に食事をするのに必要な金額は増える一方。栄養バランスを意識した食事を心掛けようとすると、それなりのコストがかかるわけです。

◆料理にかかるイニシャルコストは決して安くない
そして栄養バランスを意識した食事をリーズナブルに摂ろうとした場合、自炊するのが一番コストがかからずに済みますが、これまで料理をしてこなかった人が自炊するためには少なからぬイニシャルコストがかかります。

例を挙げれば鍋やフライパン、包丁、電子レンジといった調理器具、食器、保存容器、キッチン清掃器具、調味料、乾物や保存食品などなど。本格的にやろうと思うほどに必要な物も増えていきます。

時折マンガなどで「風邪で寝込んでいるひとり暮らしの男の子の家に女の子が料理を作りに行く」といった場面が描かれることがありますが、どれだけ大量に食材だけを買っていったとしても、あらかじめ調理器具や調味料が揃っていなければ男の子が感動して恋に落ちてしまうような料理は作れないのです。

◆そもそも料理はそれなりのスキルを要求される
料理というものは大人になれば自然とできるようになる類のものではありません。特に家計が厳しく、両親が共働きであるような場合、親から十分な料理のスキルを身につけさせてもらうことも困難です。

つまり、料理を習う環境に無かった低所得層に対して「食事の内容を見なおせ」というのはまったくの無茶ぶり。もしスーパーで大根を80円で買えたとしても、どのような食材を組み合わせ、どのように料理するのかや、栄養バランスを考えるのは決して簡単ではありません。

特に、献立を決めずにスーパーの特売品の棚を見ながらその日のメニューをさっと決めたり、村上春樹の小説の主人公のように「冷蔵庫の余り物でちゃちゃっと何品か料理を作る」といった空中殺法が使えるようになるには長い経験が必要です。

◆料理をする時間も気力も残っていない
極めつけが「低所得者層は過酷な労働環境にある場合が多い」という点。今でこそ「ブラック企業」という呼称が一般的となりましたが、命を削るほどに極端なブラックではなかったとしても、残業や土日出勤が当たり前の職場はそれこそ星の数ほど存在します。

夜遅くまで残業し、深夜の0時近くにようやく帰宅した後、頑張って料理をしようという気持ちになるでしょうか?ただでさえ少ない睡眠時間をさらに削り、慣れない料理をして健康に気を使え……というのはいくらなんでも酷い話。結果として自炊を諦め、安い出来合いの弁当や外食を選ぶことになれば、やはり栄養バランスは保てないわけです。

◆厚生労働省はどうすべきだったのか
おそらくこの上なく正しいにもかかわらず、「マリー・アントワネットと並ぶ」とまで言われた厚生労働省の指摘。

これは貧困層の栄養バランスの偏りについて、国として解決を試みたり、低所得者層を支援しようという姿勢すら見せず、あたかも自己責任であるかのように自助努力を促したからにほかなりません。

栄養バランスのよい食事を取れるだけの収入がもたらされ、健康に関心を持てるだけの時間的、肉体的、精神的な余裕が取れるよう、労働環境の整備を国と企業に対して働きかけていくことこそが本来厚生労働省のなすべきことではないでしょうか。

医療費削減に繋がることなどを考えても、決して悪いものではないと思われる低所得者層の栄養バランス改善。国を挙げて取り組む価値は十分にあると思われます。

所得低いほど栄養バランスよい食事取れず NHKニュース

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