「公益及び公の秩序を害する」表現の自由を制約する。一見もっともらしいこの理屈、どこが問題なのでしょうか?詳細は以下から。
11月24日に開催された衆院憲法審査会では立憲主義などをテーマに議論が行われました。
この中で中谷元元防衛相は集会、結社、言論の自由を認める憲法21条の自民党改憲案が「公益及び公の秩序を害すること」を目的とした活動は認められないとしていることについて「極めて当然のこと」と発言、草案の撤回にも応じませんでした。
民進党の奥野総一郎議員は「精神の自由の尊重は憲法の基本原理。修正を加えることは改正限界を超える」と問題視しましたが、中谷議員は「オウム真理教に破壊活動防止法が適用できなかった反省を踏まえた」と制約を付け加えた理由を述べ「公益及び公の秩序を害すること」という表現が「制限を厳しく限定している」と説明しています。
◆もっともらしいけど…問題点は何?
戦後最悪の毒ガステロ事件を起こしたオウム真理教の活動の抑止力にならなかったという理由は一見最もらしいものですが、これは極めて危険な制限となります。現行憲法の21条は
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
となっており、制限の文言はありません。ただし、この表現の自由は憲法12条で
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
とあるように「濫用してはならず、公共の福祉のために利用する責任を負う」とあります。公共の福祉については改憲に絡んでBUZZAP!でも何度か取り上げて来ましたが、自民党の改正草案Q&Aの記述に寄れば
「公共の福祉は、人権相互の衝突の場合に限って、その権利行使を制約するものであって、個々の人権を超えた公益による直接的な権利制約を正当化するものではない」
(改正草案Q&A 自由民主党 憲法改正推進本部より引用)
というもの。つまりこの場合では自分の表現の自由が他者の人権と衝突した場合にその権利行使を制約するものであり、個々の人権を超えた公益によって直接的な権利制約を正当化することはできません。
中谷議員が「極めて当然のこと」とする「公益及び公の秩序を害すること」を目的とした活動は認められないとする草案は、明確に公共の福祉の枠を逸脱しています。草案では人権相互の衝突の場合に限らず、公益という考え方で憲法によって保障される基本的人権がより広く制約されることになります。
◆それでは公益って何なの?
中谷議員は草案の「公益及び公の秩序を害すること」という表現が「制限を厳しく限定している」としています。では、公益及び公の秩序とはいったい何なのでしょうか?
高村自民党副総裁は以前、公益及び公の秩序を「今の憲法の「公共の福祉」という言葉を置き換えただけです」と自党のHPに書いてあることすら理解せずにドヤ顔で大間違いを曝け出して赤っ恥をかきましたが、では草案での意図は何なのでしょうか?
先ほども引用した草案のQ&Aの記述を見ると、「公益及び公の秩序」という文言を用いた理由は
憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにしたもの
(改正草案Q&A 自由民主党 憲法改正推進本部より引用)
と書かれており、これまで公共の福祉という「人権相互の衝突の場合」に限られてきた基本的人権の制約の基準が緩められることが明らかにされています。
Q&Aでは具体例として「街の美観や性道徳の維持など」と書かれていますが、単に2つの例が示されているだけに過ぎません。「公益及び公の秩序を害すること」という表現によって「制限を厳しく限定している」としていますが、これでは何ひとつ限定されていないのと変わりありません。
実際に閣議決定でこれまで数十年間認められていなかった集団的自衛権がいきなり認められてしまうような政治状況が日本には存在しているため、ある日「〇〇は公益を害する」「××は公の秩序を害している」と閣議決定されれば、これまで認められてた「表現の自由」が突然違憲状態になることも十分にあり得ます。
もちろん具体例でやり玉に挙げられている「性道徳の維持」について見てみれば、これまではゾーニングの問題として論じられてきた「18禁」の絵や書籍、マンガ、ゲームなどがいきなり違憲な表現とされ、弾圧される可能性が極めて高いことになります。
◆ヘイトスピーチ規制と一緒?
ネット上ではヘイトスピーチ規制法の制定を求めた人々がこの見解に反するのは矛盾しているのではないかとの意見も少なからず見られましたが、これはまったく話が違います。ヘイトスピーチはあくまである個人の言論などの表現行為が他者の人権と衝突するから問題にされています。
それは殺人や強盗、強姦といった犯罪行為が他者の人権を侵害するから現行の法律で禁止されているのと同様の話で、ここでは導入されてすらいない「公益及び公の秩序」という概念はそもそも問題になり得ません。
結果的にはヘイトスピーチも殺人、強盗、強姦も「公益及び公の秩序を害する」行為と呼ぶことはできるでしょう。しかし、この「公益及び公の秩序」という文言があまりにも曖昧で恣意的な解釈を容易に行えること、そしてより国民の基本的人権や自由を縛ることになるため、導入は極めて危険です。
◆立憲主義への決定的な不理解
現行憲法は国会議員ら権力側だけに憲法の尊重擁護義務を課しています。これは憲法が国家権力を制限し、国民を保護するという立憲主義の立場で作られているため当然のこと。しかし自民党の草案は国民にも尊重義務を課しています。
中谷議員はこれについても「国民も憲法を尊重すべきことは当然」と指摘し、立憲主義への無理解を露呈してしまいました。また草案が立憲主義に反しているとの民進党などからの批判に「立憲主義を何ら否定するものではない」と答えており、この無理解が根本的なものであることが見て取れます。
立憲主義に対する理解がない、もしくは理解するつもりがないからこそ、安易に基本的人権の制約を拡大する草案が提出されると言い換えることもでき、この自民党の草案をベースにした改憲が行われれば国民の基本的人権がこれまで以上に制限され、脅かされることは火を見るよりも明らかです。
東京新聞_表現の自由に制約「当然」 自民、改憲草案撤回せず_政治(TOKYO Web)
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