新型コロナウイルスの「感染を完全に防止することは不可能」であることを政府の招集した専門家会議が認めてしまいました。
その上で、政府に助言をする会議のはずがひたすら国民への「お願い」に終始するという奇妙な見解を発表しています。見てみましょう。
◆新型コロナウイルス感染症対策専門家会議とは?
まず、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議とはどのような存在なのでしょうか。首相官邸公式サイトの「新型コロナウイルス感染症対策本部」に記載があります。
新型コロナウイルス感染症対策本部の下、新型コロナウイルス感染症の対策について医学的な見地から助言等を行うため、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下「専門家会議」という。)を開催する。
(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の開催についてより引用)
なお、「新型コロナウイルス感染症対策本部」自体は安倍首相を本部長とする内閣の対策本部です。
中華人民共和国で感染が拡大している新型コロナウイルス感染症について、感染が拡大している現下の状況に鑑み、政府としての対策を総合的かつ強力に推進するため、内閣に新型コロナウイルス感染症対策本部(以下「本部」という。)を設置する。
(新型コロナウイルス感染症対策本部の設置についてより引用)
つまり、行政府のトップの安倍首相が司る新型コロナの対策本部に医学的な助言などを行うための専門家集団ということになります。
◆専門家会議の「見解」がほぼ敗北宣言に
2月24日にこの専門家会議が「今後1〜2週間が感染拡大のスピードを抑えられるかどうかの瀬戸際だ」とする見解を示しています。内容を見てみましょう。まず冒頭で
我々は、現在、感染の完全な防御が極めて難しいウイルスと闘っています。このウイルスの特徴上、一人一人の感染を完全に防止することは不可能です。
(「今後1~2週間が瀬戸際」国の専門家会議が見解【全文】|特設サイト 新型コロナウイルス|NHK NEWS WEBより引用)
としており、感染を完全に防止する手段がなく、誰でもが感染する可能性があるとしています。続けて
感染の拡大のスピードを抑制することは可能だと考えられます。そのためには、これから1~2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際となります。
としており、以下のように現在の日本で可能なのは感染拡大のスピードを下げることで全体の感染者数を減らすことが目標になるとしています。
これからとるべき対策の最大の目標は、感染の拡大のスピードを抑制し、可能な限り重症者の発生と死亡数を減らすことです。
これに失敗し、感染者の爆発的な拡大の結果起こるとされるのは、医療体制の破綻と社会・経済活動の混乱とされます。
仮に感染の拡大が急速に進むと、患者数の爆発的な増加、医療従事者への感染リスクの増大、医療提供体制の破綻が起こりかねず、社会・経済活動の混乱なども深刻化する恐れがあります。
新型コロナがすでに国内の各所で追跡不可能な状態で存在し、蔓延する直前の状況であるとの認識であることが分かります。
「日本国内の感染状況の評価」の部分では「国内の複数の地域から、いつ、どこで、誰から感染したかわからない感染例が報告されてきており、国内の感染が急速に拡大しかねない状況」と指摘。
これは実際に渡航歴のなかった人や、感染者との濃厚接触がなかった人にも感染したことですでに実証されています。
◆なぜか国民への「お願い」ばかり
そうした困難な状況で、今後政府はどのように動いていくべきなのか。専門家会議はそうした道筋を提案するために召集されたはずですが、この「見解」では政府への提言はなく、代わりに1つのチャプターを割いて「みなさまにお願いしたいこと」が語られます。
冒頭で語られる「お願い」は「風邪や発熱などの軽い症状が出た場合には、外出をせず、自宅で療養してください」というもの。ただし以下の場合は自治体の「帰国者・接触者相談センター」に直ちに相談するようにとされます。
・風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続いている(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます)
・強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある
※高齢者や基礎疾患等のある方は、上の状態が2日程度続く場合
この「お願い」の問題は、4日以上の「風邪の症状や37.5℃以上の発熱」などがなければ新型コロナのウイルス検査を受けられないということ。どこが問題かは「これまでに判明してきた事実」の以下の2つの記述を見ると分かります。
・新型コロナウイルスに感染した人は、ほとんどが無症状ないし軽症であり、既に回復している人もいます。
・無症状や軽症の人であっても、他の人に感染を広げる例があるなど、感染力と重症度は必ずしも相関していません。このことが、この感染症への対応を極めて難しくしています。
つまり重篤な症状が出ず、風邪かと思われた場合でも新型コロナに感染している可能性があり、そうした軽症者からも感染拡大は発生するということ。
つまり家族の誰かが風邪っぽいからと自宅療養していた際、風邪だと思って看病していた家族に感染させる危険があります。感染者から家族への感染はすでに発生しており、今後も十分に起こりうる危険です。
そのようにして家族が感染すれば、無症状のまま仕事場や学校、買い物などで多くの人に感染させる危険も生じます。
加えて無症状者に対しては「症状がなくても感染している可能性がありますが、心配だからといって、すぐに医療機関を受診しないで下さい。医療従事者や患者に感染を拡大させないよう、また医療機関に過重な負担とならないよう、ご留意ください」とし、ウイルス検査を求めることを抑制させます。
無症状でも感染を広げる可能性を指摘しながら、感染を心配する状況でもすぐに医療機関を受診しないように求め、その理由が「医療従事者や患者に感染を拡大させないよう」というのはなんとも奇妙なもの。
仮にそのような状況で検査を受けなければ、それこそ職場や学校、家庭などで無自覚なままに感染を拡大させる可能性があるわけです。
BUZZAP!でも以前指摘したように、日本の社会人には「風邪でも絶対に休めない」という強い風潮があります。
新型コロナが強く疑われる症状であれば休める可能性もありますが、風邪気味程度の軽症や無症状で念のために休めるかを考えれば、多くの社会人の答えはNOです。そんな場合でも、ウイルス検査が行われて陽性であることが判明すれば、その事実をもって休んで自宅療養することも可能となります。
◆専門家会議から政府への提言はなし
先にも述べましたが、この「見解」の最も奇妙なところは、政府への助言を行う専門家会議のはずが国民にばかり「お願い」して政府への提言がまったくないこと。
本来であれば、専門家会議としてどのような提言を政府に行ったかを明らかにし、その提言に沿った形で国民に対しても「お願い」をするのが道筋のはずです。
現状が、法的根拠も政府からの指示もない状態での国民への「お願い」で済ませていい段階でないことは、専門家会議が「瀬戸際」と表現していることからも明らか。
例えば、「風邪や発熱などの軽い症状が出た場合には、外出をせず、自宅で療養してください」と国民に求めるのであれば、政府に各企業や学校などに向けて何らかの指示を出すよう求める必要があります。
また専門家会議は、教育機関・企業などに対しても「それぞれの活動の特徴を踏まえ、集会や行事の開催方法の変更、移動方法の分散、リモートワーク、オンライン会議などのできうる限りの工夫を講じるなど、協力してください」と、こちらもお願いベースです。
営利企業に対して活動の変更や自粛を求めるのであれば、これこそ政府からの指示や法的根拠がなければ事業者らを有効に動かすことはできません。こうした「お願い」は政府が責任を明示した上で公的な感染症対策として指示すべきもののはずです。
25日に専門家会議の「見解」を受けてか、萩生田文科相が同一市町村の学校で新型コロナ感染が拡大した際、患者がいない学校も休校や学級閉鎖を「検討」するよう要請する方針を示しました。
ここでも文科省からの指示ではなく、あくまで学校に検討を求め、独自に休校や学級閉鎖を決めさせるための要請に留まっています。
「感染拡大のスピードを抑えられるかどうかの瀬戸際」に日本があるならば、政府が責任を持った迅速かつ強いリーダーシップで新型コロナウイルスに立ち向かう必要があります。
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