「こんな時に政府を批判するな」「今は一致団結するとき」という主張はなぜ完全なる間違いなのか



新型コロナウイルス感染拡大への日本政府の対応の酷さに多くの批判が集まっていますが、複数の著名人らがそうした批判を封じ込めようとする発言を行っています。

ですが、戦後最大の国難であることを理由に「こんな時に批判するな」「今は一致団結するとき」といった言説は完全に間違いで百害あって一利なしです。どういうことか説明してみましょう。


◆著名人らから政府への批判を封じ込める発言が続々
新型コロナウイルスが日本国内での蔓延が押さえきれなくなり、緊急事態宣言の発令された4月8日、有名コピーライターの糸井重里氏が以下のツイートを行いました。





これは東京オリンピック延期から「お肉券」「お魚券」騒動、アベノマスクの決定から遅すぎた緊急事態宣言の発令など、政府の新型コロナ対策の後手後手さが連日炎上していたタイミングでのツイート。

「ずっと誰かが誰かを責め立てている」というのは、誰がどう見ても国民が政府を責め立てていることを指しており、このツイートを読んだ人の多くがそう解釈しました。

それゆえに、「責めるな。じぶんのことをしろ」は政府を批判することへの非難と受け取られ大炎上。

その直前の4月6日にはミュージシャンのスガシカオがいま一番大切なことは、みんなが一人一人どうすべきかを考えて、一致団結してこの危機を乗り越えることだと思うんだ。批判や怒りや疑いじゃなくてさ、不要な外出を自粛する、自分や家族を守る、他人を思いやる、医療を守る…それしか新型コロナに勝つ方法はない。とツイート。

こちらも政権への批判封じと炎上。それを受けて「言葉足らずでした」と謝罪し、投稿を削除しています。

また歌手の山下達郎は4月12日に自身がパーソナリティーを務めるTOKYO FMのラジオ番組で今一番必要なのは政治的利害を乗り超えた団結ではないかと思います。今、政治的対立を一時休戦して、いかにこのウイルスと戦うかを日本中の、世界中のみんなで助け合って考えなければならないときです。何でも反対、何でも批判の政治的プロパガンダはお休みにしませんか? 責任追及や糾弾はこのウイルスが収束してからいくらでもすればいいと思いますと呼び掛け。

10万円の一律給付を安倍政権が拒んでいたタイミングだけに、政府批判を封じ込めて一致団結しようというメッセージには多くの怨嗟の声が上がりました。


加えてお笑いコンビ・サンドイッチマンの伊達みきおも4月8日自身のブログで文句が止まらない方は、落ち着いたら選挙に立候補して国会議員になって総理大臣になればいい。家で、関連の番組見てると文句ばかりがに。今は、まず一致団結してコロナウイルスをやっつける事で同じ方向を見ないと乗り越えられないですからねと批判。

このように、全国的な知名度のある著名人らが次々と「こんな時に政府を批判するな」「今は一致団結するとき」といった発言を行っています。ですが、これは正しいのでしょうか?

◆実際は意見を言うことで新型コロナ対策は変わってきている
結論から言うと、実際には政府のやっていることにおかしいと声を上げ、批判をすることで政策の内容は確実に変化しています。この2ヶ月の新型コロナ対策がどのように変わっていったのか、見てみましょう。

・一斉休校要請への休業補償
まず最初に思い浮かべるのが、安倍首相が2月27日に突然表明した全国一律での小中高校などへの休校要請

これは根回しのない首相の独断だったため細部が詰められておらず、仕事を休まねばならない保護者や対応を迫られる企業からは悲鳴と戸惑いの声が上がりました。


これに対して安倍首相は休暇取得などへの環境整備に協力するよう各企業に呼びかけましたが、国が要請する以上国として支援しろとの声がSNSをはじめ各所から上がりました。

これを受けて3月2日には厚労省が日額8330円上限に、企業に対して休む保護者への賃金補償を行うことを発表。ただし、これではフリーランスや自営業の保護者に補償されないことからさらなる補償の充実を求める声が上がりました。

政府はこれに対して「生活福祉資金貸付制度」に特例を設けて休業した場合に10万円を融資する方針を示しましたが、これも「会社員は給付なのに借金させるのか」と大きな批判を浴びます。


これによって3月9日、日額4100円と不十分ながらも給付が実現することになり、3月18日から受付が始まりました。

ですが、厚労省の定める要件で「性風俗業」や「接待を伴う飲食業」の関係者を対象外としていたため、ネット上などで「職業差別だ」と再度炎上。署名が行われ、4月8日には加藤厚労相が風俗関係者を対象とすると明言しました。

・イベントや営業の自粛要請への補償
安倍首相は2月26日に「全国一律の自粛要請を行うものではない」としつつ、大規模イベントに対して中止、延期又は規模縮小等の対応を要請しました。

これを受けて各種スポーツの試合やアーティストのライヴ、演劇やクラブイベントなど、大小さまざまなイベントが自粛に傾いていきます。

その後3月10日にはイベント自粛の10日延長を要請。多くのイベントが中止や延期となったライブハウスなどの会場やイベント業者などが補償を求めて署名などの活動を開始します。

ですが国はなかなか動く気配を見せず、それぞれのシーンでのクラウドファンディングなどを用いた自助の動きが広がりましたが、それだけで賄いきれるものではありません。


ですが、安倍首相は3月28日の記者会見では「税金で損失を補填するのは難しい」とし、同日に発表された文化庁長官の他人事丸出しのポエムにも批判が集まりました。

政府側の煮え切らない態度に、野党は4月2日に給付金などの補償を提案。緊急事態宣言の発令された4月8日には全国知事会もイベントなどの中止や休止による損失補償を求める事態に。


東京都は国の支援を待たずに休業要請に応じる事業者に協力金50万円の支払いを決定。御殿場市福島県静岡県大阪府なども独自に居力金の支払いを決めるなど、地方自治体が独自に支援体制を整えています。

政府は臨時交付金を事業者への休業補償にあてることに否定的でしたが、各方面からの声に押される形で4月19日に支援金や協力金といった形で財源とすることを認めることになりました。

・「お肉券」から条件付き30万円、そして10万円一律給付へ
新型コロナ感染拡大防止策かつ緊急経済対策として、政府は当初現金での給付には消極的でした。麻生財務相はみんな銀行にお金が余っているとして貯金に回らない商品券をプッシュし、お肉券お魚券などのお笑い商品券のアイディアが公表されては大炎上します。


これを受けて商品券路線は回避されたものの、政府がアベノマスクを経てようやく示したのは極めて条件の厳しい、収入が大幅に減少した世帯への30万円の給付。

これは収入の減少が著しい家庭に限られている上に支給されるかの計算も複雑、また申請も煩雑だったことから実際に困窮している人に行きわたらないと全国的な大ブーイングに晒されました。

加えて、こうした給付は感染防止策として家にいてもらうための資金としての性格を持つため、もらえない人が働かざるを得ず、人との接触を減らす効果が得られないとの指摘も相次ぎました。

野党は3月の段階から一律10万円の給付を主張してきており、自民党内部でも所得制限などの条件を設けない給付の要求が上がってきましたが、政府は一律給付には終始否定的。

ですが、4月15日になって支持団体からの突き上げを受けた公明党の山口代表が政府に対して「一律10万円給付」を要求するに至り、ようやく政府も折れて現在の形が実現しました。


細かいものは他にもありますが、この2ヶ月余りの間にネット上などで国民が政府の対策を厳しく批判し、問題点を指摘してきたからこそ、保護者も事業者も休校や自粛要請に対する補償を得ることができ、私たちもお肉券の代わりに10万円の給付を手にすることができるようになっています。

つまり、政府に対してSNSや官邸や省庁の意見フォームなどで声を上げ、署名を集めておかしいことはおかしいとはっきり批判すれば、政策を少なからず変えていくことができたということ。

ここまで書き連ねてきたように、これは希望的観測や理想論ではなく、実際に日本に住む人々がこの2か月の間に実現してきた文字通りの実績です。

冒頭で挙げた著名人たちの「こんな時に政府を批判するな」「今は一致団結するとき」といった意見を鵜呑みにして黙っていたらこうした変化は起こっていません。私たちはすでに批判によって納得のいかない政策を変えているのです。

◆「政府を批判するな」は口封じの政府擁護でしかない
最後になりますが、「こんな時に政府を批判するな」「今は一致団結するとき」といった言説は、特に非常時にはもっともらしく響いてしまいます。

「そんなことは後からしっかり検証すればいい。今はそれどころではない」。なんとなくうなずいてしまいそうになりますが、崖に向かって爆走するバスに同乗していたら、運転手にブレーキを踏ませなければ致命的な事故に発展します。

崖から落ちて血みどろの阿鼻叫喚の中で「なぜ落ちたのか?」と検証するよりは、落ちないように全力でバスを止める方がはるかに合理的なのは言うまでもありません。

こうした言説は結局のところ事態を改善させるためにはまったく役に立たず、単に「下々」は輪を乱すことなく「お上」に従っていればいいのだとする奴隷根性の発露に過ぎません。

そもそも論として、こうした言説自体が「政府を批判している国民」への批判であり、「責めるな」「批判するな」と言いながらも自分は相手を批判しています。

自分の国民への批判は問題なくて、国民の政府への批判はダメだというのであれば、それは単に国民の口をふさいで政権を擁護するプロパガンダでしかありません。

こうした人は、意図的な擁護でなければ、自分は高みから俯瞰して冷静に中立な立場からものを言っていると思いがちですが、自らの言説が何をもたらし、何に加担することになっているのか、しっかり考え直す必要があるでしょう。

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