【コラム】米議会突入の「バッファロー男」拘置所がオーガニックフードを出さないため絶食中、スピリチュアルと極右の危険な接点としてのQアノン



1月6日に発生したトランプ支持者らによる米議事堂の襲撃事件。その際に非常に特徴的な扮装から「バッファロー男」と呼ばれた人物の意外な一面が話題となっています。詳細は以下から。

◆米議事堂を襲撃した「バッファロー男」って何者?
現地時間2021年1月6日、米大統領選の公式集計を行っていた連邦議会の議事堂に大勢のトランプ大統領支持者らが侵入し、審議が中断されてペンス副大統領や上下両院議員らが議場から避難する事態となりました。

これに乗じてトランプ支持者らは一時議場を占拠。銃撃も発生して警官を含め計5人が死亡する前代未聞の国内テロ事件となりました。これを受けて米下院の民主党はテロを扇動したとしてトランプ大統領の弾劾訴追の決議案を提出するという異例の事態に発展しています。

この事件の中で一躍有名になったのが、「バッファロー男」ことアリゾナ州の有名Qアノン、Jake Angeliでした。


一時はAntifaの偽装だと疑われていたものの、目立ちすぎる扮装でインタビュー動画もあったため、トランプ支持のQアノンであることが明らかになっています。


さてこのJake Angeli(本名Jacob Anthony Chansley)、身元が割れているため当然のように1月9日、連邦捜査局(FBI)に議事堂への暴力的な不法侵入や治安紊乱行為などの容疑で逮捕されました。

Angeli被告は現地時間11日に議事堂への侵入に関する告発で初めて出廷しました。これに関し、アリゾナ州の放送局abc15Melissa BlasiusリポーターはAngeli被告が拘置所での食事を拒んでいると彼の母親が述べていることを報じています。

その理由はなんと「拘置所でオーガニックフードが出されないため」とのこと。このツイートは驚きを持って迎えられ、引用含め5.6万回リツイートされ、11万のいいね!が付くなど大きく注目されています。


この件を伝えるabc15のニュース記事では、公選弁護人が裁判官に、Angeli被告がおそらくは宗教的な理由によると思われる極めて厳しい食事制限を行っており、拘置以降何も食べていないと報告したことが報じられています。

裁判官はこの報告を深く考慮するに値するとして、連邦保安官事務所と共同でAngeli被告の食事に対応するよう求めました。連邦保安官事務所はこれに応じるとのこと。

Angeli被告の母親は11日に法廷に姿を見せた後、取材に対し悪びれもせずに「あの子はオーガニックフードを食べないとすごく具合が悪くなっちゃうの。それも文字通り身体の具合が悪くなるのよ」と証言しています。

◆「Qアノン」という極右とスピリチュアルの接点
トランプを支持し、窓を割って扉を押し破り、議事堂に侵入するという暴力的なテロ行為を行う人物がオーガニックフードでなきゃ食べない?もしかしたらこの事実を不思議に思う人もいるかもしれません。

ですが、Angeli被告は別名を「Qアノン・シャーマン」と呼ばれる人物。バッファローのような角の付いた毛皮の帽子をかぶって上半身は裸。顔にはアメリカ国旗を模した赤青白のフェイスペイントを施し、「Qが私をつかわした(Q Sent Me)」というプラカードを掲げて集会に駆け付ける有名人でした。


彼のいでたちは確かにシャーマンと呼ばれてもおかしくないエキセントリックなもので、フレッドペリーのポロシャツをユニフォームとしていたプラウドボーイズらとはかけ離れています。また「Qが私をつかわした」というメッセージも極めて宗教色の強いもの。

Wikipediaより引用)

彼の扮装を見て、むしろバーニング・マンの会場にいそうな格好だと思った人も少なくないのではないでしょうか。そして、その想像は外れてはいません。2020年9月の時点でウェブメディアGENはナチヒッピー:ニューエイジと極右が重なる時(Nazi Hippies: When the New Age and Far Right Overlap)という記事を掲載しています。

これは当時、新型コロナへのロックダウンに反対する集会にスピリチュアル系(編集部注:ニューエイジは20世紀にスピリチュアル系を指した呼称)とネオナチら極右グループが一緒になって参加しているという現状を訴えた論考です。


この接点となっているのがQアノンの陰謀論。民主党の政治家やハリウッドセレブらが悪魔を崇拝し、子どもを誘拐して食べる儀式を行っているという荒唐無稽なもので、トランプ大統領は彼ら悪魔崇拝者を統べるディープステート(DS)と闘う救世主であるという尾ひれがつきます。

この陰謀論は「Q」というハンドルネームの匿名人物が英語版2ちゃんねる的な位置づけの匿名画像掲示板の4chanに投稿したデマが大元で、拡散されるにしたがって多くの尾ひれや背びれが付けられてゆき、把握不能なほどに複雑に入り組んだフェイクニュースと妄想の混合物となっています。そうした過程で「新型コロナはただの風邪」「新型コロナはディープステートの陰謀」といったデマも混入していきました。

もともと俗世的な価値観を嫌い、よりオルタナティブな世界を求めて神秘的な事、非西洋的な考え方に親和性を感じるスピリチュアル系はこうした陰謀論に傾倒する傾向がありました。新自由主義的なエスタブリッシュメントやセレブリティへの反感は以前からあり、彼らを陰謀の黒幕とする発想は決して新しいものではなかったのです。

またネオナチや白人至上主義者ら極右グループとしては、民主党やリベラルなセレブ達を攻撃し、トランプを大々的に担ぎ上げるためのストーリーとしてQアノンの陰謀論はこの上ない世界観だったわけです。

上記の論考では著者はナチスが占星術をはじめとした神秘主義的な物事に深く傾倒していたことを挙げて親和性を指摘しています。これは先日アーノルド・シュワルツェネッガー元カリフォルニア州知事が公開した動画の中で議事堂襲撃をナチスの水晶の夜事件と重ね合わせたことにも通じます。


また日本ではオウム真理教事件で活躍したジャーナリストの江川紹子氏が選挙不正を言い募るトランプ支持の「カルト性」に警戒をとする記事を掲載。ここでトランプ支持のQアノンとオウム信者の類似性を指摘しています。

つまり、ネオナチのような極右とスピリチュアル系は陰謀論をとおしてカルト的に重なり合う可能性をもともと持っていたということ。そして今回Qアノンの陰謀論が両者を結び付け、ネオナチと「シャーマン」が手を取り合って議事堂を襲撃するというアメリカ史上に永遠に残るテロ事件が起こってしまったというわけです。

◆「陰謀論」の底知れぬ恐ろしさ、それはただのフェイクではない
ではそんな、ある意味真逆にも見える人々を同時に掌で転がしてしまう陰謀論とはどのようなものなのでしょうか。

陰謀論はもちろんフェイクニュースではあるのですが、ただのフェイクニュースではありません。陰謀論には「世界の裏側で全てをコントロールする存在」があり、その存在が影から陰謀によって私たちに対して数限りない「悪事」を働いているという世界観を持っています。

ニューエイジの時代にはその存在は「フリーメイソン」とされ、その後21世紀に入ってからは「イルミナティ」とされてきました。それがQアノンの頃から新たに「ディープステート」と呼ばれるようになりました。

いずれも正体不明の陰謀の主体に貼られたラベルであり、中身は大して違わないか本人たちもよく理解していません。その「正体」とされるのは時によって様々ですが、多くはユダヤ人の大富豪らが槍玉に挙げられており、いわゆる反ユダヤ主義との結びつきは古くから見られます。

それ以外にもその時に何となく悪そうな相手が結び付けられ、新型コロナに関してはビル・ゲイツがこのウイルスを作ってばら撒き、あらかじめ準備されていたワクチンで大儲けを企んでいるといったデマも流されました。

また携帯電話の5G電波も新型コロナと結びつけられましたが、コロナ以前にも形態の電波は人間の健康を害し、人口削減を狙う陰謀の一環だとする陰謀論者は少なくありませんでした。

こうした人々が新型コロナを巡る陰謀を騒ぎ立てつつも同じ口で「新型コロナはただの風邪」と反ロックダウンの集会に参加したりもしていましたが、この辺りの心理についてはBuzzap!でも『新型コロナは存在しない』『新型コロナは人工ウイルスだ』、真逆の陰謀論を人は同時に信じられることが判明という記事で詳し紹介しています。


客観的なソースもエビデンスもないデマを意気揚々と信じ込んでしまうどころか、互いに矛盾する陰謀論も同時に信じてしまう辺り度し難いところはありますが、陰謀論者はそれが事実かどうかは気にしません。

その代わり、自分が信じ込んでいるものが「真実」であると断定し、その世界観に合わない言説をすべて「陰謀によって仕組まれたデマ」だと解釈します。同時に自分たちを「真実」に覚醒した選ばれた戦士であると考え、それに異を唱える政治家、有名人、マスコミらをすべて陰謀に加担する敵だと攻撃します。

例えば上記の動画を掲載したシュワルツェネッガーをツイッターを検索すると、彼を陰謀論で攻撃するツイートが少なからずヒットします。


こうしたデマに基づく攻撃は自分たちに「真実」があるがゆえに正しいと陰謀論者は考えます。だからこその議事堂襲撃の際に彼らは顔を隠すこともなく、堂々と議事堂の中で自撮りをしては世界に公開したわけです。

もちろんそれによって「バッファロー男」をはじめとした襲撃犯のトランプ支持のQアノンらはどんどん逮捕され、社会的制裁も受けているわけですが、恐ろしいことに、社会(編集部注:それは「社会を操るディープステート」の仕業だと彼らは考えます)から攻撃され迫害されることそれ自体が自分たちの陰謀論の正しさを証明するものだとQアノンは考えるのです。

だからこそQアノンは自分の非を反省することも、自分の信じる「真実」と異なることも認めることもなく、敵を攻撃し続けてトランプを神格化します。挙句にバイデン大統領は悪の爬虫類人類のレプティリアンであり、トランプは光のプレアデス星人だといった言説までもが語られるようになっています。




お分かりでしょうか。米国の議事堂で「水晶の夜」に比するような国内テロが発生している上に、オウム真理教ならばサティアンに籠っていたレベルの熱心なカルト信者が、ネット上のデマに煽られることによって無数に誕生しているという現状の中に私たちはすでにいるのです。

江川紹子氏は以前の日本社会がカルトに無警戒だったために、オウムが多くの被害を出す集団になるまで”育つ”のを許してしまったことを教訓とし、最大限に警戒して無根拠な陰謀論を否定していかなければならないと指摘します。

実際に米国では全米50州の州議会議事堂とワシントンの連邦議会議事堂で、武装した集団による抗議デモが計画されていることをFBIが警告しているとすでに報じられています。

こうした動きに同調する形で多くのQアノンを抱える日本国内で何が起きる可能性があるのか、決して甘く見てはいけない状況がすでに存在していることを私たちは自覚する必要があるでしょう。

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