高須院長が「無効署名」と言い張っていた30万筆を超える「不正署名」、実際には大量のバイトが書き写した「偽造署名」だったことが判明しました。
◆大村知事リコール運動で組織的な「署名偽造」が発覚
大村知事リコール運動は民主主義への挑戦と言わざるを得ない前代未聞の署名偽造事件であったことが中日新聞によって明らかにされています。詳細は以下から。
武田良太総務相が「相当特異な事案と受け止めている。徹底的な真相究明がなされないといけない。選挙管理委員会の動向を注視したい」と言及した、提出された署名の8割以上が不正署名だったという前代未聞の愛知県の大村知事リコール運動。
約36万2千人分に上る不正署名の約90%は同一の筆跡とみられるもので、約48%が選挙人名簿に登録されていない人の署名でした。
署名には既に死亡した人の名前もあったことから、古い選挙人名簿や各種団体の名簿が悪用された可能性が指摘されており、不正署名の数の多さから指示役の存在や組織の関与が疑われる事態となっています。
2月15日には愛知県選挙管理委員会が地方自治法違反の疑いで告発状を愛知県警に提出して受理され、名実ともに刑事事件として捜査されることとなりましたが、とんでもないスクープを中日新聞が報じています。
◆なぜか佐賀県でアルバイトが時給950円で署名偽造していた
中日新聞によると、「多数のアルバイトが、愛知県民らの名前や住所が書かれた名簿を、リコール活動団体の署名簿に書き写していた」とのこと。
しかも「名古屋市の広告関連会社の下請け会社が、大手人材紹介会社を通じてアルバイトを募集。佐賀市内の貸会議室で書き写させていた」とのことで、敢えて愛知県から遠く離れた九州で作業をさせています。
内容としては2020年10月に大勢のアルバイトを時給950円で数時間から数十時間働かせたとのこと。ネット上では既にこの案件が特定されています。
バイト求人情報サイトTimeeに掲載された「交通費500円支給??未経験者大歓迎!佐賀市で名簿の書き換え作業!!」(魚拓)がこちらの案件で、サイト上では10月22日から24日に募集されていたことが読み取れます。例えば
勤務時間2020年10月22日(木)10:00~15:00(休憩0分)
5,000円(交通費500円込)
とされており、こちらでは時給900円。他の日も4時間や6時間などの長さとなっていますが、時給のレベルはだいたいこの水準です。なお、佐賀県の最低賃金が時給792円のため、単発バイトとしてこれはかなり「おいしい」求人となっています。
仕事内容としては「名簿の書き換え作業をお願いいたします。データをお渡しするので、それを元に修正を行っていただく業務です」とされており、求人側が事前に準備したデータをもとに名簿の書き写しを行うというもので、まさにドンピシャ。
既に指摘されていた「古い選挙人名簿や各種団体の名簿が悪用された可能性」を裏付けるものとなっており、この時点で個人情報の漏洩と不正利用が確定します。
また注意事項として「携帯は勤務時間中はご利用できません。休憩中はその場でご利用いただけます」とされており、高須院長や河村市長の顔の写っている名簿への書き写しであることが漏洩しないような配慮がされています。
加えて「※行政からのご依頼になるので、お名前・住所・電話番号を一定期間管理させていただきます」という但し書きがありますが、これが本当であれば公的機関が署名偽造に絡んでいたという前代未聞の事態とあるため、今後の捜査結果が待たれます。
なお、この求人を行っているのは「西東京ポストサービス 東京営業所」。西東京ポストサービスをGoogle検索すると2つの企業が出てきますが、東京営業所が存在するのは名古屋市に拠点を置いている、ポスティング作業を主業務とする株式会社Genesis。
サイトで確認できる分だけでも、各会30人としてもアルバイトの人件費だけで80万円以上掛かっており、加えてスタッフの人件費や会場代、求人広告掲載費などを考えると、最低でも数百万円単位の資金が投入されていることが分かります。
またアルバイトの感想として「運営の方がとてもいい方でした」「スタッフの方など丁寧に教えていただきとてもよかった」「説明も丁寧で、分からないことがあればすぐに教えて下さったので安心」「担当の方が面白かった」「会社の人達が とても優しい人達だった」と並んでおり、手馴れて有能なスタッフが存在していたことも確認できます。
つまり、それだけの資金を持ち、大量の署名偽造をコーディネートでき、現地にそれを取りまとめる人材を手配できたということで、明らかに素人や個人の仕業ではありません。
◆では「ノウハウを持っている」のは誰なのか
高須院長もこの報道に「リコールの会は有志の素人の集まりだ。これが本当なら手馴れたプロの仕業だ。こんなことのやれるノウハウがない」としていますが、実際に行われている以上、確実にノウハウを持つプロが背後にいることになります。
そこで再び注目が集まっているのが、このリコール運動に高須院長と二人三脚で中心的役割を果たしてきた名古屋市の河村市長の発言です。昨年6月時点で河村氏はリコール運動について「経験がありますから、10年前に」「結構ノウハウがいるんですよ」とCBCテレビに応えています。
河村市長の「経験」というのは2011年名古屋市議会議員選挙のこと。この際にも市選管からは「(署名の)一部に違法収集の疑いがある」との疑義が出され、「不適切な収集方法」や「記載ミス」として無効とされた署名が全体の24%の11万人分にも達しました。
その後3万件を超える異議申し立てが出されて有効署名が法定数を超えることを市選管が認め、リコールの住民投票によって名古屋市議会は解散。その後のトリプル選挙で河村市長の「減税日本」が第1党となっています。
なお、この運動の際に集められた計約46万人分の署名簿が電子データとして保管され、外部に流出した疑いがあることを2011年4月のトリプル選挙後に日経新聞が報じています。
これはリコール成立に伴うトリプル選挙のひとつ、3月の出直し市議選で市長側の地域政党「減税日本」から出馬した候補者らが選挙で利用したとされています。
日経新聞の取材に応じた関係者は、市議選当時に減税日本の候補からデータを渡されたとしており、そこには「氏名や住所などが記載され、数万人分あった」とのこと。今回の署名偽造でも「署名には既に死亡した人の名前もあったことから、古い選挙人名簿や各種団体の名簿が悪用された可能性」が指摘されていることとあわせて考えると、なかなかに興味深い事案です。
加えて、リコール運動で事務局長を務めた田中孝博元県議は維新の会愛知県第5区選挙区支部長であり、日本維新の会から次期衆院選への立候補を予定している人物。
維新の会副代表の大阪府の吉村知事もリコール運動について「民間の方がおかしいと思ってやることは民主的な1つの手続きなので、僕は賛同します」とエールを送っていました。
高須院長やボランティアたちが例え素人だったとしても、リコール運動の中枢に10年前にリコール運動を成功させた減税日本の党首や維新の会の元政治家が存在していたことは否定できない事実です。
当然ですが、全体の8割を超える不正署名が事務局も知らないうちに紛れ込むことは絶対に不可能。自分たちの集めた分の4倍以上の見知らぬ署名の束を不思議に思わないのであれば、その人の目は節穴どころの話ではありません。
なお高須院長は署名の確認について「何千人も見ました。僕には不正署名が見つけられませんでした。」とツイートしています。
ですがこのリプライには同じ現場にいた受任者らから、無効となる署名が多数あったとするリプライがあり、素人だったはずのボランティアの目から見ても不審な状況であったことが分かります。
実際にこの不正署名が発覚したのは11月4日のこと。受任者として集まった署名を提出する作業を手伝っていた受任者の水野昇氏が同一人物とみられる筆跡があることを発見。この日前後の経緯についてはFacebookに受任者だった人物が詳細に記しており、佐賀県の事例と呼応するところが散見されます。
特に、この人物の偽物の署名に対しての「①数十人の作業者がいて、②各人が数百、数千(ひょっとしたら数万?)筆の署名を書いている、ということだ」という指摘は完全に今回の件と一致しています。なお、これは段ボール40~45箱分に相当します。
これ以降ネット上には不正署名の疑惑が乱れ飛び、12月4日には請求代表者だった4人が県庁で記者会見して「署名簿に偽造が疑われる不審点が多数見つかった」と主張。東海テレビが本件の経緯を詳しく報じています。
これに先立つ11月7日、不正発覚の3日後に高須院長は全身がんによる健康悪化を理由にリコール運動の中止を発表。その上で「リコールの会が仮提出した署名簿は、封印したまま僕の目の前で溶解液に入れて破棄する方針だ」と語っています。
不正署名が疑われている署名簿を何の調査もせず封印したまま溶解破棄するという方針には当然「隠蔽工作だ」との批判が噴出。実際に83%が不正署名だったことが判明し、それらがアルバイトによって組織的に作られた「偽造署名」だったことが明るみに出されたことになります。
8割以上の不正署名を見つけられなかったとするリコール運動代表の高須院長が、結果的に偽造署名の隠蔽となる溶解破棄を明言したことは今後の捜査の中でどのように扱われることになるのでしょうか。
◆署名偽造会場の理事長は日本会議佐賀の理事長も務めていた
なお、この「佐賀市内の貸会議室」を住所から調べてみると、「財団法人 佐賀県青年会館」であることが分かります。
Timeeの写真とも一致し、貸し会議室もあるためここで間違いありません。
さて、興味深いのはこの佐賀県青年会館の理事長を務める大坪勇郎氏が日本会議佐賀の理事長も務めていること。
大坪氏はこれに加え、自衛隊をサポートし改憲を求める民間団体「全国防衛協会連合会」の理事でもあり、佐賀県防衛協会の会長も務めている人物です。
もちろん佐賀県青年会館は誰でも借りられる施設のため、大坪氏の所属や経歴とは何ら関係のない可能性もありますが、「昭和天皇の写真を燃やした」という言いがかりから始まった大村知事リコール運動の行き着く先としてはなかなかに興味深いところです。
【12:00追記】
共同通信が、関係者への取材によって名古屋市の広告関連会社がリコール運動事務局の指示でアルバイトを大量動員して偽造署名を書き込ませていた疑いがあることを報じています。
繰り返しになりますが、リコール運動の事務局長を務めた田中孝博元県議は維新の会愛知県第5区選挙区支部長であり、日本維新の会から次期衆院選への立候補を予定している人物。
事務局の指示があったことが事実なら、代表者で「全責任を負う」と公言している高須院長だけでなく、維新の会の衆院選候補予定者も関与していることになります。
【16:30追記】
リコール運動事務局が名古屋市の広告関連会社にアルバイトを募集するよう書面で依頼していたことが分かりました。募集内容などを記した「発注書」が残っているとのことで、動かぬ証拠が出てきてしまいました。
維新の会愛知県第5区選挙区支部長で日本維新の会から次期衆院選への立候補を予定している田中孝博事務局長は「指示なんてしていない」と関与を否定しています。
【次記事】
ではいったい署名偽造を事務局の誰の指示でやったのか、そのための金と名簿、ノウハウはどこから出てきたのかという段階に入っています。
そして、偽造署名はつくられた後、紛れ込まされるまでどこに保管されていたのか。高須院長のツイートを辿ると非常に興味深いことが分かりました。
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